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36.あの日何が起きていたのか

 翌日。

 僕はまた究極幻想譚にログインしていた。

 目を開ければログアウトした時のままの状態だった。

 強いて言えば捕まっている人たちの顔色が少し良くなったかなってくらい。

 ログアウト中の僕らってどういう風になってるんだろう。

 もし消えてるのだとしたら突然目の前に現れたことになるけど誰も驚いた様子はない。

 まぁゲームなのでそういうものだと思っておこう。

 そしてイベントの進行は明日なので今日出来ることはほとんどないのだけど、ちょっと確認したいことがあって来てみたのだ。


「えっと、皆さん。あれから特に変わったこととかは無いですか?」

「はい。一度奴らが見回りには来ましたが、頂いた食べ物は隠して変わらずグッタリした演技をしていたので怪しまれることもありませんでした」

「それはよかったです。

 でですね。ちょっとお尋ねしたいことがあるのですが」

「何でしょう。俺達に答えられる事であれば何でも話しますよ」

「皆さんが攫われた時の状況について教えて欲しいんです」


 僕たちは外の見張りに気づかれないように小声で会話を続ける。

 僕が知りたかったのは、今回の事件を聞いた時からずっと疑問に思っていた事。

 それはボヤンさんの護衛をしていた冒険者の人達があっさり捕まった理由だ。


「皆さんは冒険者として腕には自信があると思います。

 それなのに敵の接近に気付けずに攫われたのは、どういう経緯で何が原因だったんでしょうか」

「実は情けないことに廃都を迂回する街道沿いで野宿してるときに襲撃を受けたんだ。

 あ、もちろんメンバーで交代で夜の番をしていた。んだけど、どうも途中で寝てしまったらしくてな。

 そこを襲われた。

 他のメンバーも熟睡してたらしく、気が付いたらロープで縛られてここに運び込まれていた」


 なるほど……なるほど?

 いやそれものすごく変じゃないかな。


「夜番の人が寝ていたっていうのはまぁ、無くは無いと思いますけど、他の皆さんも縛られても起きなかったって言うのは変じゃないですか?」

「それはまぁ俺達も不思議に思っていた。

 街でならいざ知らず、任務中は決まって眠りが浅くなるものだ。

 近くで小さな物音が立っただけで意識は覚醒するし触られたら飛び起きる自信はある」

「ですよね」


 それなのに事件当日は起きなかった。

 起きれたのは多分逃げられたトンズさんだけなのだろう。

 そのトンズさんも気が付いた時には既に皆が捕まった後だったのか。

 でもそれだとどうしてトンズさんは狙われなかったのか。


「その時トンズさんは一緒に野宿してたんですよね。

 一人だけ離れて寝ていた、なんてことは無いですよね」

「もちろんだ。護衛対象が分散していたらもしもの時に守れなくなるから。

 って、待て。トンズさんは生きてるのか!?

 ここに連れてこられてなかったからてっきり殺されたのだとばかり思ってたぞ」

「はい、生きてます。そして1人だけ街まで逃げ帰ってます」

「それは無理だ。もし本当なのだとしたら事前に襲撃があると分かってたとしか思えない」


 うん。僕も同じ結論に至った。

 それにトンズさんはボヤンさん達がモンスターに「襲われた」とは言わずに「攫われた」と言っていたらしい。

 どこかに隠れて一部始終を見ていたとしても、ボヤンさん達の生死までは分からなかったはず。

 普通に考えてモンスターに寝ているところを襲撃されたら殺されたと思うだろう。

 その場合「死体を持ち去っていった」が正しい表現で、「攫われた」というのは生きていることが前提で使う表現だ。

 つまりトンズさんは最初から襲ってきた犯人がモンスターなどではない事も、その目的が誘拐である事も分かっていたことになる。


「トンズさんは誘拐犯の仲間だった、という事じゃないでしょうか。

 それなら襲撃の日を知ることも出来ますし、例えば夕食に眠り薬を混ぜることも出来ます。

 ボヤンさん。トンズさんはいつから工房で働いてるんですか?」

「半月程前からです。

 以前働いていた商家が潰れてしまったから働かせてくれないかとやって来たんです。

 取引周りの交渉は得意だから役に立てますと言って」

「つまり比較的最近ですね」

「はい。仕事態度は真面目だったのですが。

 そういえば時々夜にどこかへ出かけているようでしたがまさか……」


 誘拐犯たちと連絡を取っていたという可能性はあるだろう。

 今のところ証拠は何もない訳だけど。

 そしてそこまでの話を頭の中で整理したボヤンさんは、次第に顔を青くした。


「トンズは今、工房に居るんですよね!

 じゃあ今度は親方たちが狙われてるんじゃないでしょうか」

「あ、それなら大丈夫です。

 僕たちが向こうを出てくる時に、もしかしたら怪しいかもと伝えておいたので」


 あのおばあさんはおっとりしてたけど、多分かなりのやり手だ。

 息子に家を継がせた後は隠居暮らしを満喫してたのだろうけど事件が起きたと聞いた後のあの静かな気迫は隣に居てちょっと怖かった。

 だからきっと工房は大丈夫だ。

 そして次の問題は、誘拐犯の仲間がトンズさんだけとは考えにくいという事だ。

 廃都近くにある3つの街にそれぞれ数人、もしかしたら10人以上潜伏しているかもしれない。

 

「仮にトンズさん以外にも誘拐犯の仲間が街に潜伏しているとしたら、皆さんをここから救出して街に送り届けてもまた攫われるだけかもしれません」

「ならどうにかしてそいつらを見つけ出して捕まえないといけないな」

「はい。ただ捕まえるにしても証拠が無いとダメですよね」

「もちろんだ」


 証拠もなく「こいつ怪しい行動をしてた」なんて理由で逮捕してたら、誰も彼もが疑心暗鬼になって街の空気は最悪になるだろう。

 だから明確な証拠を見つけるか誘拐現場で現行犯逮捕する必要がある。

 その為に必要なのは張り込みとか?

 いったいどこの刑事ドラマだろうって感じだけど。この世界にあんぱんと缶コーヒーは無いよね。

 まあそこは僕らだけではどうしようもないので街に帰ったら冒険者ギルドに相談してみよう。

 ともかくまずは明日。

 無事にみんなをここから助け出さない事には始まらない。



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