34.救助作戦は休息の後で
忍び込んだ部屋は決して広くはない。
30人も詰め込まれてしまってはぎゅうぎゅう詰めとまでは言わないけど横になることは叶わない。
せいぜい体育座りになって休むくらいだろう。
その所為か奥の、多分早い段階で攫われてきた人はかなり疲弊しているように見える。
「えっと、君たちはいったい……」
部屋の様子を確認していたら扉近くに居た男性から声を掛けられた。
彼は比較的元気そうだ。
「僕たちは冒険者です。
最近発生している誘拐事件を追ってここまで来ました」
「おぉそれは有難い」
「それで皆さんはその誘拐された人達、で合ってますか?」
「そうだ。
情けないことに俺達も冒険者なんだが、護衛依頼中にその護衛対象ごと攫われてここに放り込まれちまった」
護衛中に攫われた?
それってもしかして。
「その護衛対象ってボヤンさんですか?」
「よく分かったな。ってもしかして俺たちの救出依頼もギルドから発行されてるのか」
「いえ、ちょっと違いますけど似たような感じです。
ところでボヤンさんはどちらに?」
「あ、俺です」
一緒に居た男性の一人が手を上げた。
優しそうと言えば聞こえはいいけど、荒事には向いてなさそうな人だ。
それでも比較的元気そうでよかった。
これで僕達が依頼された救助対象は全員の無事が確認できた。
それは良かったんだけど問題はどうやってここから脱出するか。
多分ボヤンさん達だけを連れていくのならそこまで難しくない。
まだまだ体力が残ってそうだし、冒険者だという人たちに僕たちの予備の武器を渡せば戦力にもなるだろう。
でも残された人たちがどうなるかは考えるまでも無いし、そんな後味の悪いこともしたくない。
逃げるなら全員で、だ。
ま、どうするかは後で考えよう。
「みなさん、お腹空いてます、よね?
食べ物を持ってきているので、まずは腹ごしらえをして体力の回復に努めてください」
「おぉ助かる。ここに閉じ込められてから碌に食べれてなくてな」
街で大量に買い込んできた食料をみんなに配る。
こんなに人数が居るとは思ってなかったけど、無事に全員に行き渡ったようだ。
余るほど買い込んでおいてよかった。
『このゲームって食べ物食べたらHP回復して即元気になったりする?』
『いえ。空腹の状態異常ならともかく、疲労は食事と睡眠の両方が必要です』
『だよね。それじゃあ今すぐ脱出は無理か』
『あ、私もう少ししたらログアウトしないと』
『そっか。もうそんな時間か』
ここに来るまで結構時間が掛かっているから、僕もぼちぼち終了しないといけない。
幸いこの部屋は仮拠点同様にログイン/ログアウトが出来る場所だ。
でも僕らがログアウトしてる間にここにいる人たちが生贄として連れていかれてしまったら困る。
どうすればいいんだろう、と悩んでいたら目の前にウィンドウが出てきた。
【イベント進行フラグとフラグ発生日時を選択できます。
1.今すぐ脱出を試みる。選択可能期間:今日中。
2.次の捕虜が連れてこられたタイミングを待つ。選択可能期間:明日~6日後まで。
3.すべての捕虜がそろうタイミングを待つ。選択可能期間:2日後~6日後まで。
なお7日後には自動でイベントが進行しクエスト失敗となります。
また、待機中に別プレイヤーによってイベントが進行する場合があります】
『えっと、なんだろこれ』
『1日で終わらない長期イベントの救済措置です』
そんなのがあるんだ。
確かに「イベントクリアするまでログアウトできません」って言われたら困る人多いか。
それに1人で進めてる訳じゃないから全員が毎日ゲームにログイン出来るとも限らない。
だから全員で話し合って都合の良いタイミングで続きからイベントが進められるようになっているらしい。
『じゃあ今日はこのままここでログアウトするとして。
明日以降の二人の都合はどう?』
『すみません。明日はちょっと用事があります。明後日以降なら大丈夫ですけど』
『私は何時でも大丈夫』
『よし、じゃあ明後日にしよう。
イベントの内容は、2の【次の捕虜が来るタイミング】で良いよね』
『はい』
これ以上救出する人の人数が増えても困るし、それで行くことにした。
ボヤンさん達にもそのことは話し、それまでに出来るだけ皆に休んでもらうようにお願いして僕らはログアウトした。
########
「ふぅ」
僕はVRマシンに体を預けたまま小さく息を吐いた。
ゲームだとは分かっていても、あれだけリアルだと普通に生きている人と変わらない。
その人たちの生死が僕たちの行動によって決まるのだから中々大変だ。
一体どうするのが最善か。
あそこまで戦闘らしい戦闘が無かった分、脱出中に襲撃を受ける可能性は高いと思う。
大勢を守りながら戦わないといけないので広い場所で戦うのは圧倒的に不利になる。
なら通路で戦うのが良いだろう。
狭い通路ならコロンの大楯で後ろに抜けられるのは防げるはず。
コロンとフォニーで退路を塞ぐ敵を蹴散らしてもらって、僕がしんがりで追っ手をボウガンで足止めする。
これが一番良さそうだな。
よし、作戦は決まった。
あと今考えられる事と言えば……敵の目的は何だろう。
誘拐犯達は攫った人たちを生贄にするって言ってた。
生贄って言葉から連想されるのは悪魔召喚とか禁断の呪術とか?
そもそも廃都ロンジョって何で滅んだんだろう。
ここを舞台にしてるってことは何かしら関連性がありそうだけど。
「グルグルさん。究極幻想譚のロンジョの街が滅んだ原因を教えて」
『究極幻想譚におけるロンジョの街が滅んだ原因は次の通りです』
腕時計型スマートデバイスに呼びかけると一瞬でネットを検索して答えを導き出してくれた。
それによると、およそ150年前にロンジョの街を治めていた大貴族が禁術に手を出した結果それが暴走。
一夜にして住民は壊滅。
死んだ人たちはゾンビやレイスとなって街を徘徊している。
その事件を調査するために派遣された騎士団や教会関係者からも多くの犠牲者が出ている。
そしてその犠牲者たちもゾンビの仲間入りしてしまうため街ごと封鎖することになり100年超。
王家が現在の王に代替わりした後、改めて調査を行った結果、アンデッド自体は残っているものの禁術の影響はほぼ無くなったため封鎖自体解除することになった。
もっとも、今更街のアンデッドを殲滅して再開発する価値もないので放置されている、と。
「グルグルさん。禁術の内容は分かる?」
『大貴族が研究していた禁術は死者復活に関するものではないかと考えられています』
「まぁありがち、なのかな」
最愛の妻や子供が病気か事故で死んでしまい、その死を受け入れられない権力者が禁術に手を出す。
しかし女神や魔法が存在しても死者復活は不可能なのだろう。
そしてそこから導き出される今回の事件の真相は?
「うーん、分からんな」
少なくとも生贄を必要としてることから復活の呪文♪とか女神の奇跡♪みたいな明るいものではないのは確かだろう。
ま、生贄にされる人達さえ逃がすことが出来れば、その儀式も実行できなくなるだろうし僕らはそれに全力を尽くそう。