32.潜入ルートを探せ
ここまでの情報を纏めると、今回の事件はゾンビに扮した何者かによる犯行である可能性が高く、誘拐された人たちは廃都に2つある重要施設の地下に監禁されている可能性が高い。
だけど残念ながらどちらも確証はない。
誘拐された人たちを廃都の中に運び込む方法についても、門から馬車で運び込んだ訳でもなく、直接担いで行けば門の手前でテントを張っているプレイヤーの目に留まって噂になってそうなものだけどそんな様子もない。壁を飛び越えたくても高さ10メートルを人を担いで飛ぶのは人間業じゃない。
そして運び込んだ方法はともかく中に居ると仮定して僕らだけで重要施設の攻略は無理と言える難易度。
「打つ手なし?」
『街に戻れば何か新しい情報が増えてるかもしれません』
若干あきらめムードが漂っているけど、僕としてはまだ1つやれることが残ってる。
だから諦めるのはそれが空振りで終わってからでも良いだろう。
「えっと、これもただの可能性の話なんだけど、人目に付かず誘拐した人を廃都の中に運び込む方法が他にもあるかもしれない」
「そうなの?」
「うん。ズバリ隠し通路」
これだけ大きい街なのだから地下に水路とかがあってもおかしくない。
それに領主館とかには地下室があるって話だし、街の外に通じる地下道の1つや2つあるんじゃないだろうか。
それを使えば誰にも見つかることなく廃都の中と外を行き来できる。
「でも隠し通路っていう程だから簡単には見つからないでしょ?」
「そうなんだけど、廃都の北側で最近人がよく通ってる痕跡を見つけることが出来れば可能性は十分にあると思うんだ」
「どうして北側限定?」
『多分街道が無いからです』
そう、東西南北のうち北側だけ街道が繋がってないから他と比べて人がほとんど来ない。
隠し通路の存在は極力知られたくないだろうから出入り口を造るならそっちだろう。
「なのでこれからその隠し通路を探しに行こうと思うんだけどどうだろう」
『うん、良いと思います』
「他に出来ることも無いし私もそれでいいわ」
無事に全員の賛成を得られたので僕たちはテントを畳んで出発することにした。
「ところで隠し通路の入口ってどんなのだろう」
『野ざらしになっているとは考えにくいので小屋の中に地下室を造ってるとかでしょうか』
「洞窟の奥とか草藪の中に隠してるってパターンもある」
「魔法で入口を隠してるってこともあるかな」
『可能性はあると思います』
考えれば色々と出てきたので考えられるものを全部調べていかないといけないかもしれない。
そうすると北側だけと言ってもちょっと大変だ。
手分けして探せば、とも思ったけど誘拐犯たちに遭遇した時のリスクを考えれば一緒に行動した方が良い。
って、あれは。
「ふたりとも、良いものがあったよ」
『良いもの?』
「あれは、薬草園?」
そう、薬草園。
てっきり最初の街の近くにしかないのかと思ってたけど、こっちにもあったのか。
そして薬草園ならあの芋虫さん達がいるかもしれない。
「こんにちは~」
『……』
あれ?反応が無い。
ここの薬草園とあっちの薬草園では仕様が違うのだろうか。
よく見れば生えてる薬草も違うし花が咲いているものが多い。
その所為か黄色くてふわふわでブンブンと飛ぶ……蜂(だよね?)が沢山飛んでる。
蜂の好物って花の蜜?果物の蜜じゃダメかな?
ためしにリンゴを半分に切ってみて。
「こんにちは。リンゴ食べる?」
『ブゥゥ~ン』
おぉ、集まってきてシャクシャクと食べてる。
ブドウは?好物なんだ。バナナは、食べないんだね。
それでちょっと教えて欲しいんだけど。
そうそううんうん。
夜に馬車が走っていったのを見た?それで行き先は……
「ふたりとも誘拐犯達の向かった先が、ってどうしたの?」
「ラキアが壊れた」
『いったい誰と話をしてたんですか?』
「え? ほら、この蜂さんと」
「……見える?」
『いえ』
僕の指先の上に乗っている蜂を二人の目の前に見せても首をかしげるばかり。
そういえば芋虫さんも他の人には知られてなかったし、この蜂も普通の人には見えないものなのかもしれない。
「ラキアが言う通り蜂が居るとして、どうやって意思疎通してるの?」
「えっと、こう目を合わせれば何となく分かるよね」
『いえ、普通は無理です』
そうだったのか。
これも『視力』の効果かな。
便利だから良いけど。
「ともかく道案内してくれるって」
蜂の行動半径は1kmを超えると聞いたことがある。
ならここら一帯は彼らの庭みたいなものだろう。
「じゃあよろしく」
『ブゥ~ン』
ふわっと飛び上がった蜂がゆっくりと飛んでいくのでその後ろを追いかける。
その道中もモンスターが出てくるから倒す必要があるんだけど、ちょっと強くなってきた。
フォニーやコロンの一撃で倒せなくなってきたのだ。
『この辺りの推奨レベルは恐らく30前後です』
「領主館のモンスターはもっと強い」
「げっ。なら今のうちに連携の練習もしつつ進もう」
幸いにして僕たちの武器の相性は悪くない。
モンスターが近付いてくる前に僕がボウガンで攻撃して勢いを削ぎ、コロンが大楯でガードしつつ受け流し、フォニーがスティックで叩き伏せる。
更にフォニーの歌声が僕らにバフを掛け、コロンがブルドーザーのようにモンスターを吹き飛ばし、後ろ隙を僕がカバーに入る。
これで大体のモンスターは討伐出来そうだ。
「なかなかに良い感じじゃない?」
「後は広範囲魔法攻撃と回復が居れば完璧」
『攻撃魔法はともかく回復魔法使いはフリーで良い人って滅多にいないですよね』
「いまは出来るだけダメージ食らわないように注意して進もう」
そんな話をしている間に目的地に着いたようだ。
そこにあったのは1軒の物置小屋。
パッと見何処にでもありそうな小屋だけど、だからこそ怪しい。
『廃都のすぐ近くにあるのに管理が行き届いてますね』
「入り口付近の地面も踏み慣らされてる感じだし最近出入りしてたのは間違いなさそう」
「入ってみる?」
「うん。でも慎重にね」
周囲に隠れている人影は無し。
小屋の扉に耳を当ててみるも中から物音や息遣いなどは聞こえないし見張りとかは立てていないようだ。
そっと扉を開けて中を確認すれば木箱が幾つか置いてあるだけで何もない。
『この床。何かを引きずった跡が付いてます』
「ということはこの木箱を動かしてみれば……あった!」
隠されていた地下へと通じる階段を見つけることに成功した。
ここを通っていけばきっと廃都の中まで行けるだろう。
そしてこれまで以上に強いモンスターと誘拐犯も居るはずだ。
僕らは一度顔を見合わせた後、覚悟を決めて階段を下りて行った。