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3.第1歩を踏み出そう

 街中を歩く僕の目的は大きく2つ。

 1つはこの目に慣れること。

 立ち止まった状態ならもう立ち眩みを起こすことは無くなったんだけど、歩きながらとなるとまた勝手が違う。


ドンっ

「あ、ごめんなさい」


 またやってしまった。

 さっきから何度もすれ違う人と肩が当たったり、露店の柱におでこをぶつけたりしている。

 リアルなら足音や気配、空気の流れなどから察知して避けられるんだけど視界から入ってくる情報がいっぱいで反応が遅れてしまう。


(こっちでもできるかな)


 試しに目を瞑って歩いてみる。

 すると楽に歩けてしまった。すれ違う人ともぶつからない。

 でもそれでは駄目だ。

 折角この世界で授かった力だ。使いこなしていかないと意味が無い。

 再び目を開けると、途端に飛び込んでくる大量の情報。

 他の人はいつもこの状態で平気で生きているのだから凄い。

 小さな子供なんて飛ぶように駆け回っている。

 僕も幼い頃から目が見えていたら同じように出来たのだろうか。

 ならこっちの当面の目標は街中を走り抜けることにしようかな。

 まだ当分先のことになりそうだけど。

 ともかく僕は露店が並ぶ市場へと到着した。

 ここでもう一つの目的を達成することを優先しよう。


「おじさん、こんにちは」

「おう。いらっしゃい」

「これは何ですか?」

「リンゴだ。甘酸っぱくて美味いぞ」

「1ついくらですか?」

「45ジェニーだ」

「なら2つください」

「まいど!」


 果物を売っているお店で店主のおじさんに質問しながら購入する。

 この世界のお金の単位はジェニーらしい。記号でいうと$のSをJに変えたようなデザインだ。

 僕の所持金は4桁あるのは分かっていたので問題なく購入出来た。

 ちなみに買い物はカード決済だ。

 最初から持っている身分証らしいカードがそのままクレジットカードとして使用出来るらしく問題なく買い物が出来た。

 そして今のやり取り。

 実は商品の横に値札が付いていたので普通の人なら不要なものだ。

 でも僕は文字が読めないので店主さんに口頭で答えてもらう事で、文字の意味を理解することが出来た。


(ふむふむ。これが『リ』『ン』『ゴ』でこっちが『45』なんだな)


 所持金も一の位以外が変化したので、百の位の文字が『9』、十の位が『1』なのも分かった。

 僕は続けて違う数字が書かれた果物を購入していくことで0~9までの数字と幾つかの平仮名(片仮名?)を知ることが出来た。

 この調子で行けば50音字をマスターするのも意外と早いかもしれない。

 漢字は……まぁ追々としよう。

 そうしてこっそり文字の勉強をしていたら露店のおじさんが頭を掻きながら聞いてきた。


「あんた、異界の旅人だよな。

 冒険者ギルドにはもう行ったのかい?」

「冒険者、ギルド?」


 詳しく聞けば異界の旅人、つまりプレイヤーは冒険者ギルドという施設を利用することで様々な依頼を斡旋してもらえるらしい。

 それによってお金を稼げるのはもちろんのこと、モンスターの知識だったり色々教えて貰えるらしい。

 ならそこでも文字の勉強も出来るかも。


「なるほど。今からちょっと行ってきます」

「おう。ギルドは向こうの通りを右に行ったところにあるぞ」

「ありがとうございます」


 おじさんにお礼を言いつつ教えて貰った場所に向かう。


「えっと、あれかな」


 さっきからひっきりなしにプレイヤーと思われる人達が出入りしてるし間違いないだろう。

 僕も開け放たれている入口から中に入ってみれば、店内は複数の丸テーブルとカウンターで構成されていてまるで喫茶店のようだ。

 テーブルを囲んで数人で談笑してたり、待ち合わせなのか1人でぼーっとしてる人も居たりしてるのもそれっぽい。

 また、奥へと通じる扉に入っていく人達や逆に出てくる人達。2階もあるみたいで中々に広い。


「ご新規の方ですか~。どうぞこちらに~」


 入口のところでキョロキョロしてたらカウンターのお姉さんから呼ばれた。

 ここに居ても他の人の邪魔になるからその人のところへ向かおう。


「ようこそ冒険者ギルドへ。

 初めての方にはまず冒険者登録をして頂き、簡単なクエストを受けていただくことになっております」

「はい」

「こちらにお名前と、希望する活動内容に丸をつけて頂けますか?」


 渡された紙には名前を記入する枠の他に、漢字と思われる文字が並んでいた。

 もちろん僕は読めない。

 困ったときは正直に伝えよう。


「あのすみません。

 僕は文字の読み書きが出来ないので代筆と、下に書いてある内容を教えて頂けますか?」


 文字が読めないと聞いてもお姉さんは驚いた様子はない。

 この世界では文字が読めない人も多いということだろうか。


「承知いたしました。

 ではまずお名前は……『ラキア』様ですね。

 希望する活動内容ですが、ラキア様はこの世界で何をなさりたいですか?」

「えっと、色々な物を見て回りたいです」

「なるほど。積極的にモンスターと戦いたいですか?」

「それはやったことが無いので分からないです」

「では運動は得意ですか?」

「あまり得意ではないです」

「分かりました。それではラキア様は『探索者』ということで登録致します。

 もし活動していて違うなと感じた際にはいつでも変更が可能ですのでご連絡ください」

「はい。ただそれを変更すると何が変わるのですか?」

「こちらから優先的に斡旋するクエストが変化致します。

 『探索者』の場合は薬草を始めとした街の外の素材の採集や、災害が発生した場合の現地調査などのクエストが多く発行されます。

 他に『戦士』の場合は魔物の討伐や行商人の護衛クエストが発行されたり、『生産者』の場合は武具やポーションの納品クエストが発行されます」


 受付のお姉さんは1つ1つ指で示しながら説明してくれた。

 お陰で『探索者』『戦士』『生産者』の文字も覚えることが出来た。

 ただし漢字は中学生レベルでも1500字以上あるって聞いたことがあるしまだまだ先は長い。


「そしてラキア様に最初に依頼するクエストはこちらになります」


 そう言って出てきたのは文字が書かれた半透明の板。

 もちろん僕にはほとんど読めない。何かを10個何とかすれば300ジェニー貰えるっぽいんだけど。


「すみません。やっぱり読めないので説明をお願いしても良いですか?」

「はい。こちらは『癒し草を10個納品』するクエストで、報酬は300ジェニーです。

 癒し草というのはこちらになります。

 採取する際には根は抜かずに土の上に出ている部分を千切ってください」

「分かりました。ご丁寧にありがとうございます」

「これが仕事ですからお気になさらず。

 今後もこちらに来て頂ければ都度ご説明致しますよ」

「助かります。

 あ、ところでお姉さんのお名前を伺っても良いですか?」

「フェルトと申します」

「じゃあ今後ともよろしくお願いします。フェルトさん」


 そうして僕は無事に最初の依頼を受けることが出来て満足。何よりフェルトさんの力を借りればクエストに書かれている文字を教えて貰えるので良い勉強になりそうだ。

 あまり頻繁に通い過ぎるとフェルトさんの迷惑になってしまうからそこは様子を見つつかな。

 何か差し入れをしてみるのも良いかもしれない。

 


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