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29.準備して出発

 若干時間を無駄にした気もするけど、あれもゲームならではのイベントだと思えばまあ良しとしよう。


「ちなみにああいった勧誘というかナンパってよくあるの?」

『毎回とまでは言いませんが、はい』

「1人で行くと良く湧く」


 湧くって、虫かな?

 普通のパーティー勧誘ならそこまで毛嫌いすることも無いと思うんだけど。


「ああいう奴って大体が嘘つき。

 高レベルプレイヤーなら私やフォニーの顔を知らないのはおかしい。

 フォロワーが5000人居るって言うのも多分10倍くらい嵩増ししてる」

「そっか。二人は結構有名人なんだっけ」

「自慢出来るほどではないけど」


 ふたりとも二つ名を持っている程だし、誰でもとは言わないけど知ってる人は多いだろう。

 僕? 僕はもちろん知らなかった。SNSや配信を見ることも無かったし。

 でもそうやってフラットな状態で出会えたから一緒に居られるのだろう。

 もし事前に知ってたら最初から近づく事も無かったと思うけど。


「それより今どこに向かってるの?」

「あそこ」


 示した先にはいつもの果物屋。

 このおじさんにも短期間で随分とお世話になってる気がする。


「おういらっしゃい!

 また来てくれたのか」

「おじさんの所の果物は美味しくて好評だからね」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。

 それで今日はどうする」

「前の果物盛合せを10籠と、あとこの金額で買えるだけ。

 出来れば腹持ちの良いものを中心に選んでください」

「まいど!」


 3万ジェニーで果物大人買いだ。

 リアルだと1つ150円のリンゴを買うのだって躊躇うけどゲームだと気にせず散財できるのは楽しい。

 後ろでフォニー達が「そんなに買ってどうするの?」って顔してるけど腐らせるわけでもないし問題ない。

 食べ物があって困ることは無いのだ。


「ところで、どことなく街の様子が変な気がするけど何かありましたか?」


 代金を支払いつつ訊ねてみれば、おじさんはさっと周囲を警戒した後、僕達に耳打ちしてくれた。


「実は最近、誘拐事件が頻発してるらしいんだ」

「それは物騒ですね」

『え、誘拐?』


 おじさんの言葉にすかさずフォニーが疑念を抱く。

 冒険者ギルドでは単に行方不明と言っていた筈だ。

 しかし事故や迷子ではなく誘拐だというのなら誘拐した誰かが居ることになる。


「攫われてる所を見たの?」

「俺が見た訳じゃねえが、夜中に大人サイズの荷物を抱えて走り去る人影が数回目撃されていて、そいつが犯人だったんじゃないかって話だ。

 たしか毎回北門の方に消えていったって話だったな」


 大人を抱えて走り去るって、なかなかの身体能力だな。

 そんな芸当をゾンビとかが出来るとは思えないし、夏イベントとは別の事件と考えた方が良いのかもしれない。


「もしかしたらまだ誘拐犯の仲間が街中に居るかもしれない?」

「あぁ。それでみんなもピリピリしてるんだ」

「ちなみにここ最近で見かけない顔の人が増えたりとかは?」

「それがなぁ。最近は異界の旅人も多くいるだろ?

 だから新しい人が居ても見分けが付かないんだ」


 言われてみればそうだった。

 今も周囲は街の人2割、プレイヤー8割って感じで圧倒的にプレイヤー=あまり見ない顔が多い。

 しかもプレイヤー達は夏イベントの特殊フラグを探しているのかキョロキョロしてるので事情を知らない人からしたらとても怪しい。

 これは巻き込まれる前に立ち去った方が良さそうだな。


「僕たちは今、別の事件を追ってるからすぐには動けないけど、終わり次第協力します。

 ギルドの方でも調べてるみたいだからきっとすぐ解決しますよ」

「そうなってくれると助かる」


 果物屋を後にした僕たちは他にも数点買い物をしつつ街を出発した。

 誘拐事件ってことは攫われた人の生存率は時間が経つほど下がるだろうし急いだ方が良い。

 それは分かってるんだけど。


「ちょっとだけ寄り道していい?」

『はい』

「ちょっとだけなら」


 2人の許可を得た僕は街道を逸れて見つけた薬草の群生地へ。

 そこへいつものように果物籠をお供えして、でものんびり挨拶してる暇もないからそのまま走り去る。

 まあ芋虫さん達には僕の事は知れ渡っているみたいだから大丈夫だろう。


「……さっきのはなんだったの? クエスト?」

「クエストではないかな。

 ちょっと縁があって薬草園の虫たちに時々果物をプレゼントしてるんだ」

「クエストでもないのに? やっぱりラキアはちょっと変。

 普通見返りのない行動を人は取らない」

『ラキア君らしいです』


 世の中はギブアンドテイク。等価交換。

 一方的に与えるだけで見返りは要らないという人を偽善者と呼ぶ。

 そして僕は偽善者ではない。


「恩返しって意味もあるけど、この世界を楽しく生きるなら沢山の人から『あの人が居て良かった』って思ってもらえた方が良いでしょ。

 それに今回の事件でも『誘拐犯が彼である筈がない』『彼になら相談しても大丈夫』って思ってもらえるかどうかは、こうした何気ない気遣いの積み上げだと思うんだ」

「……確かに街で聞き込みしてた人の大半が門前払い食らってた」


 さすがコロン。よく見ている。

 このゲームはレベルを除く全てが数値化されていない。

 もちろん街の人達からの好感度も分からない。

 だからそれを気にせず普段NPCだからと横柄な態度を取ってた人は今苦労しているだろう。


『二人とも前からモンスターが来るよ』

「え、なんでここにゾンビが」


 僕たちが今いるのは最初の街と廃都ロンジョの中間くらい。

 まだまだ廃都までは距離があるのに、そこでしか出ない筈のアンデッドモンスターが数体確認出来た。

 ということはモンスターが溢れそうとか言ってたけど、既に相当溢れているってことだな。


「ともかく倒そう」

『うん』

「まかせて!」


 僕の号令で一気に駆けだす2人。


『てい』ドンッ!

「邪魔」ベシッ!

「……」


 以前のように軽そうなスティックなのに重厚感のある音で吹き飛ばすフォニーと、全身を隠せる程の大楯で殴り飛ばすコロン。

 現れたゾンビたちは文字通りあっという間もなく殲滅されてしまった。

 僕の出番はないらしい。


『お前、不公平だろ』


 一瞬ギルドでのやり取りが頭をよぎったけど、めちゃくちゃ強いこの2人に僕はお荷物なのかもしれない。

 まあ僕としては強い弱いで一緒に居る訳じゃないし、2人も気にした様子が無いので良いのだけど。



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