28.ギルドあるある体験会
無事に依頼は受理されて僕達3人は捕らわれの住民の救助クエストを行うことになった。
でも、あれ? ちょっと待ってほしい。
僕達3人のパーティーで受理したことになってるんだけど良いのかな。
「僕達っていつの間にかパーティーを組んでる扱いなんだね」
『何か問題ありました?』
「このゲームはフレンド登録同様そういうもの」
言われてみればそうか。
フレンドもお互いに名乗って握手すれば登録される。
システムウィンドウを開いてフレンド申請を送って承認されて、みたいな手続きではない。
(そういうやり方も出来るらしいけど)
ならパーティー登録も面倒な手続きをすることなく、例えばお互いに一緒に行動しようとすれば自動的にパーティーとなるのだろう。
「ちなみに先日のみっちゃんと森に行った時もパーティーになってた」
『クマハチミツの時もです』
「そうだったのか」
思い返せば一緒に行こうって話はしたけどパーティー組もうって話はしてなかった。
そんなアバウトだと後で問題になるんじゃないかって気もするけど、意外と大丈夫だったりする。
何故ならこのゲーム、経験値は数値化されてないし、アイテムのドロップも直接個人のアイテムボックスに入る。
なのでアイテム分配で揉めることは無いし、横殴りされて経験値が減ったじゃないかと言われても証明できるものはない。
パーティーに入ってても何もせずにただ付いていくだけでは各種レベルは上がらないのだ。
(あれ、そう考えるとクマハチの時とか貢献してた事になる?)
フォニーは僕も役に立ってたって言ってくれてたけど、あれはただのお世辞じゃなかったのか。
それに今ならあの時より武器も強くなったし活躍できるようになったはず。
「じゃあ改めてよろしく」
『はい!』
「ん」
などという話をギルド内でしていたんだけど、当然周囲には他のプレイヤーも居る訳で、僕らが結成したての新規パーティーだというのが知られてしまったらしい。
そうなるとあわよくば、と考える人も出てくる。
「なあなあ、良かったら俺たちのパーティーと合流しないか?」
そう言って1人の男性プレイヤーが声を掛けてきた。
彼のパーティーメンバーは向こうのテーブル席に座りながらこちらをにやにやと見ている。
そして、これが一番重要なのだけど、見知らぬ男性の登場にフォニーとコロンは警戒も顕に僕の背後へと隠れた。
つまりふたりはこの提案を受ける気は無いという事だ。
「すみません、お断りします」
僕がノータイムで断ると男性は露骨に嫌そうな顔をした。
でも何とか作り笑いを浮かべてフォニー達に話しかける。
「じゃあ後ろの君たちだけでもどうだい?
俺達は全員高レベルプレイヤーだし、ここだけの話、今回の夏イベントの特殊フラグも見つけてるんだ」
「お断りよ」
『ふるふる』
当然フォニー達も首を横に振る。
この男性はコロンの苦手とするタイプだろうし、さっきから下心が丸見えなので(ちょいちょい視線がふたりの胸元やスカートに向けられているので)男の僕から見ても敬遠したい。
それとここだけの話を公共の場で言わないでほしい。
「そ、それに俺の配信チャンネルはフォロワー5000人居るから一躍人気者にだって成れるんだぜ!」
なおも自分たちと組んだ時のメリットをアピールしてくるけど効果は皆無だ。
というか5000人って多いの?
(微妙よね)
(はい)
やっぱり微妙な数字だったか。
きっとミッチャーさんならその10倍とか余裕で居ることだろう。
「残念ですが僕らはその特殊フラグに興味ないですし、人気者になりたいとも思ってません。
それに今は他のどなたとも組む気もありません。
では先ほど受けたクエストの準備がありますので失礼します」
言葉は丁寧に、しかし明確に拒絶する。
こういう時に「遠慮します」とか「またの機会に」みたいに遠回しの言葉を使うと誤解されるので注意する必要がある。
これで大人しく引き下がってくれたら良いんだけど。
「ちょっと待てよ。不公平だろう!」
そう上手くいく相手なら最初からもっとまともな態度だっただろうな。
無視して立ち去っても良かったんだけど追いかけてこられても面倒なので、そっとフォニー達を出口側に誘導しつつ返事をする。
「不公平って、何の話ですか?」
パーティー勧誘からどうして公平なんて話に繋がるんだろう。
話の流れが怪しくなってきたのでギルド職員が向こうで眼を鋭くさせてるし、他のプレイヤーのうち何人かは多分カメラを回してる。
これ以上騒ぎが大きくなるとここだけの話、では済まないかもしれない。
それで彼の言い分はというと。
「このゲームは女性プレイヤーの割合が少ないんだ。
それなのにお前1人に女性2人は明らかに過剰じゃないか」
「はぁ」
確かにここに限らずゲーム全般、特にモンスターとの戦闘があるものは男性の方がプレイ人口は多いだろう。
でもそれは戦闘を好む好まないの差であって、上手い下手ではない。
男性だけのパーティーと女性だけのパーティーではどちらが強いかと問われたら答えは「分からない」だ。
これが生産や支援においてもどうかと聞かれても答えは同じだ。
先日露店を見に行った時も男性が営む裁縫店もあれば女性が営む鍛冶工房もあった。
筋力的に女性が劣っているということもない。
うーん、考えれば考えるほど、パーティー内の男女比率の違いが不公平に繋がるのかが分からない。
この世界は不公平で満ちているし。
「あの、このゲームって個々に違う女神の祝福を授かってる時点で公平じゃないですよね。
それを考えたら男女の能力差なんて微々たるものじゃないですか」
「んなこと気にしてるんじゃねえよ馬鹿。
パーティーに女が居た方が配信映えするし、クエストを通じて仲良くなることだってあるだろ」
「あぁつまり女なら誰だって良いんですか。……最低ですね」
「最低ね」
『最低』
僕の最後の呟きを肯定するようにコロンとフォニーが繰り返した。
それを聞いた男はもうそろそろ我慢の限界っぽくて今にも剣を抜きそうだ。
そうなると笑い話では済まなくなるのでこの辺りが潮時だろう。
「それより良いんですか?」
「あん?」
「今のやり取り、生配信かどうかは分からないですが撮られてましたよ」
「げっ」
僕が指さした方を慌てて振り返れば何人もの人がニヤリと笑いながら親指を立てていた。
それを見て流石にまずいと思ったのだろう。顔が引きつっている。
ただ僕も別に彼をやり込めたい訳じゃないので助け舟を出すことにした。
「いやあ、冒険者ギルドあるあるを体験してみたいと思ってましたがこんな感じなんですね!」
「え、あ、これは、そ、そう!
どうだ中々の演技だっただろう?」
あえて周りに聞こえるように大きな声で言えば、彼も僕の意図に気づいてくれた。
今のやり取りは全部お芝居なんだってことにする。
それなら彼の言動も悪役を演じただけなので評価が下がることもないってことだ。
「はい。じゃあ僕らはそろそろ時間なので行きますね」
「お、おう。気をつけてな」
「ありがとうございます。ではさようなら」
挨拶をして僕らはギルドを後にした。
これで彼らから恨まれることは無いし、逆に貸しを1つ作ったようなものなので後から何かされる心配は無いだろう。
「決闘だ!」ってなるくらいに騒ぎを大きくすることも考えたのですが、そこまで取り立てることでもないかなと未遂で終わりました。




