26.3人でおでかけ
コロンの手を借りて起き上がった僕は、今から改めて試し切りっていうのも格好が付かないし、なによりコロンが凄い呆れ顔で見てるから剣はしまう事にした。
「ラキアって運動音痴?」
「ぐさっ」
『ラキア君はリアルでは目が見えないんですよね。
それで走るのが苦手なんだそうですよ』
僕がダメージを受けたリアクションをしている間にフォニーが説明してくれた。
でもコロンはそれだけでは納得いかなかったようだ。
というか僕のリアクションは無視なのね。良いけど。
「狩人の森では隠れてるモンスターを簡単に見つけてたのに」
「あれは女神の祝福の恩恵。
僕は『視力』を祝福として貰ったから」
「じゃあ飛んでる蚊を切り落としてたのは?
あれは運動神経良くないと出来ない」
「いやいや、あれくらいなら目をつぶってても出来るでしょ」
「えぇ~」
僕の答えを聞いてコロンはフォニーの元にそそそっと近づいて耳打ちをし始めた。
かと思えば何かを操作した後にこそこそと、あれはメールのやり取りかな?をしている。
そしてすぐに二人で僕を見たかと思えば、はぁ~とため息をついていた。
「えっと、何がどうなったの?」
「ラキアは凄い変ってこと」
『コロンちゃん、それだと語弊が……』
「でも間違って無いでしょ」
『う~ん』
なにやら酷い言われようだ。
それと何故かは分からないけど、いつの間にかふたりは仲良しになってるっぽい。
コロンはフォニーの隣に居ても平気そうだし、僕の時より距離が近い気がする。
フォニーも安心しているというか、昔からの友達って感じだ。
むしろ僕が置いてかれてる気もする。
「ところで、短剣はそれで良いとしてボウガンは新調したの?」
「そっちは工房に製作を依頼してるところ。
もう出来てるはずだから取りに行かないと」
「じゃあみんなで行きましょうか」
『うんうん』
「えっ?」
なぜか皆で連れ立ってボウガンを受け取りに行くことになった。
いや、全然嫌って訳じゃないんだけどね。
むしろ僕としては嬉しい。
友達と一緒に街を散策するっていうのもリアルだとほとんどしないし楽しいから。
でも二人にとってはありふれた詰まらない事なんじゃないかなって思うんだ。
「あ……」
そっか。二人も僕と同じなのか。
フォニーも耳が聞こえないってことは目が見えない僕のように対等な友達が居ないのかもしれない。
コロンは人見知りだから家族以外とは一緒に居ることはないのだろう。
だから何気ない散歩でも楽しめるんだ。
「~♪」
「ちょっと、楽しそうなのは良いけどちゃんと前を見て歩きなさい」
「大丈夫大丈夫、いくら僕でも歩いてるだけで転んだりはしないよ」
コロンが注意してくれるけど、こんな街中で転ぶほどドジじゃない。
足元の石畳は踏み鳴らせば反響で周囲の壁の位置が分かるので目を瞑っていても後ろ向きで歩いても何も問題はない。
走らなければどうという事は無いのだ。
「って言ってるそばから前、前!」
「ラキア君」
「??」
慌てたようにふたりが注意してくれるけど、前には普通に道が繋がっているだけだ。
強いて言えばあのおばあさん達の家の裏庭に通じる飛び石の道になったくらいで、それだって転ぶことはない。
って、なにやら驚いた顔をしている。
もしかして飛び石の道を見たことないのかな? お寺とかに行けば今でもあると思うんだけど。
(フォニー今の分かった?)
(いえ。私もラキア君が触れるまで壁しか見えませんでした)
(まさか街中にこんな隠し通路があるなんて。みっちゃんが知ったら何て言うだろう)
(これ絶対隠しイベントとか発生する奴ですよね)
「???」
またしても内緒話。
いや二人が仲良くなってるのは良いことなんだけどね。
僕も混ぜてほしい。
「それよりそろそろ着くよ」
「大丈夫。もう覚悟は出来た」
「覚悟?」
あのおばあさん達に会うのに覚悟は要らないと思うんだけど。
いやコロンの場合は初対面の人に会うときは気合を入れないといけないのかも。
そのおばあさんはと言えば、この前と同じように縁側に座ってのんびりしていて、僕たちの来訪に気が付くと柔らかい笑顔を向けてくれた。
「あらいらっしゃい。今日はお友達もいっしょなのね」
「はい。フォニーとコロンです」
「こんにち、は」
「どおも」
「はいこんにちは。華やかになって嬉しいわ。
ささ、どうぞこっちにお座りなさい。今お茶を淹れましょうね」
「あ、はい」
「ん」
おばあさん特有の魔力というか、ふたりは抵抗する様子もなくおばあさんの隣へと腰掛けた。
そして差し出された湯呑を受け取って一息。
チリンチリンッ♪
(くすくすくす)
風が吹けば風鈴が鳴り、かすかな笑い声も聞こえてくる。
ふぅ~~。落ち着く。
リアルは真夏だけど、ここはぽかぽかと春の陽気だし。
平和だなぁ。
っと、いけないいけない。このままだと前回の二の舞だ。
「おじいさん、いますか~」
「おぅ来たのか。ちょっと待っとれ」
家の奥に声を掛ければすぐに返事が返ってきた。
そして落ち着いた動きでやってきたおじいさんは、僕を見て、続いて並んで座っている女性陣を見た。
「なんじゃ小僧。可愛い子を2人も連れて自慢しに来たのか。
生憎若い頃のばあさんの方が一枚上手だぞ。写真見るか?」
「写真は見てみたいけど、別に自慢しに来たわけじゃないから」
というかこの世界、写真があるのか。
プレイヤーならスクショ機能とかあるだろうけど、魔法かな。
そしてフォニーとコロンもおじいさんの登場に気が付いて慌てて立ち上がると挨拶をした。
『お邪魔してます』
「こ、こんにちは」
「うむうむ。礼儀正しい子たちだ。
さ、そう畏まらんでゆっくりしていきなされ。
せんべい食べるかい」
「は、はい」
「で小僧はこっちじゃ」
孫に甘いおじいちゃんって感じでふたりに茶菓子を出した後、ちょいちょいと僕を呼んで庭先へ。
「これが預かっていた材料で作ったお前さん用のボウガンだ」
「ありがとうございます」
受け取ったボウガンは今まで使っていたものに比べると1周り大きくて重い。
でも片手で支え切れない程ではないか。
後は矢の装填方法が変わってないと助かるんだけど。って。
「あれ? 弦を引くレバーが無いんですけど」
ゲームで簡略化はされているけど、それでもボウガンを撃つためには弦を射撃位置にセットしないといけない。
前のは銃身に沿って付いていたレバーを一回りさせるとセットされる仕組みだった。
(その手間があるのでボウガンは連射が効かず弓が重用されている)
だけどこのボウガンにはそういった機構がない。
もしかして弓みたいに手で引けるのだろうかと思ったけど違った。
「銃床部分に魔石があるだろう。
そこに魔力を流せば弦が張れる」
「魔力を流すって」
そんなファンタジー説明で、さも当然分かるだろって顔されても困るんだけど。
こっちはゲームを始めて1週間の新人ですよ?
「武器を構えて使う事を意識すればいい」
おばあさんと並んで縁側に座りながらコロンがアドバイスしてくれる。
それは助かるんだけど、そのお煎餅、僕にも後で分けてほしい。
フォニーなんてお煎餅に夢中でこっち見てないし。
「ほれ、おなごに見とれてないではよせい」
「いや見とれてた訳じゃないけど。こうかな」
銃床を肩に当てて照準器を覗き込む。狙いはひとまず壁でいいや。
すると肩と手からトクンと脈動を感じると同時にボウガンの弦が自動でセットされた。
これが魔力が流れる感覚かな。
試しに矢をセットせずに引き金を引く。
シュッという音と共に弦が解放され、そしてすぐに魔力が流れて弦がセットされた。
なるほどこれは便利だ。




