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23.ながら歩きは事故の元

 フェルトさんに書いてもらった地図は道を示す線が数本書かれただけの単純なもので、そこに「3本目を右へ。次の通りを左」みたいに文章で道順が書かれている。

 問題は幾つか難しい漢字があって読めないのだけど、そこはステータスの時と同様に連想ゲームで答えを導けば何とかなるだろう。

 フェルトさんの事だから目印になるくらい特徴的な何かを指しているのだろうし。


ピンポンッ


 おっとメールが届いたらしい。

 誰から、と言ってもフレンド登録した人からしか来ないから3択なんだけど……ミッチャーさんだ。


『ラキア君。さっきはありがとう。

 コロンとも期待以上に打ち解けてくれて助かったわ。

 良かったらまた遊んであげてね。

 それでなんだけど。

 うちの検証チームがラキア君が発見してくれたあれの調査と検証をする許可が欲しいって言って来てるの。

 もし了承してくれるなら情報料としてゲーム内通貨か欲しいアイテムがあれば譲渡するんだけどどうかしら』


 えっと……大分読めるようになってきたと思ってるけどまだ読めない漢字が混じってるなぁ。

 でも話の流れからしてさっき一緒に冒険した時のことを言ってそう。

 ならあの蚊のことかな。ミッチャーさん驚いてたし。

 それ以外の事だったとしても特別なことは別に無かったはず。


『ミッチャーさんへ。

 すみません、お伝えしてなかったですけど、僕は漢字があまり読めなくて……

 僕もいっしょに遊べて楽しかったです。

 森でのことなら自由にしてくれて大丈夫ですよ』

『あらそうなのね。わかったわ。

 えっとじゃあ、ラキア君はいま、ほしいものってなにかある?』


 おぉ、流石ミッチャーさん。

 すぐにひらがな多めで文章を送ってきてくれた。

 でも欲しいものって急に言われても何も出てこないんだけど。


『いや別にいいですよ』

『いやいやギブアンドテイクっていうでしょ』

『いやいやいや今回のはタナボタですし』

『『……』』


 うーむ、ミッチャーさんとしても出来れば退きたくないラインのようだ。

 というか似たようなやり取りをさっきフェルトさんともやったな。

 じゃあここは適当に何かを受け取った方がミッチャーさん的にも良いのだろう。

 理想的なのは僕には価値があるけどミッチャーさんにはいらないもの。そんなのある?

 まるでなぞなぞだな。


「そもそも僕が欲しいものってなんだろう」


 速く走れる足?いや足に問題はないんだ。残念なのは運動神経の方で。

 漢字を理解できる頭?いや頭にも問題は無い。無いよね?無いと思いたい。

 綺麗な景色の情報?これは良いかもしれない。あ、でも「後日連れていくね」となると時間を取らせてしまうか。

 他に、ってそうだ。


『じゃあミッチャーさんの使わなくなった短剣でどうでしょう。

 ぼくがいま使ってるのはいちばん安いものなので』

『短剣ね、分かったわ。どれが面白いかしらね~』


 え。何か不穏当な言葉が書かれていたような気がするけど大丈夫だろうか。

 まあミッチャーさんなら変なものは持ってこないだろう。

 ともかく今はフェルトさんの紹介してくれた工房をめざそ、あれ。


(どこまで来たんだっけ)


 メールしながら歩いてたから貰った地図のどの部分まで来てたか分からなくなってしまった。

 確かあそこを右に曲がって、その次の通りを、だから……


「よし、この道を抜けた先のはずだ」

(くすくすくす)

「?」


 大分年季の入った飛び石の道を歩いてたら、聞き覚えのある笑い声が聞こえてきた。

 周囲には誰も居ないし道端の草に例の芋虫くんが居たりもしない。

 実は僕、くすくす笑う神様に憑りつかれてる?

 いや神様なら憑りつくとは違うか。


「それでここに工房が、ないなぁ」


 道なりに角を曲がれば見えたのはどこかのお宅の縁側。

 おばあさんが膝に猫を乗せながら日向ぼっこをしている昼下がり。

 なんて平和な光景だ。

 そのおばあさんは僕に気が付いて小さく驚いていた。


「おやおや。お客様とは珍しい」


 驚いたと言ってもそこはおばあさん。

 ゆったりのんびりと言った感じだ。


「こんにちはおばあさん」

「はいこんにちは。

 よく来たね。お茶でも飲むかい?」

「あ、じゃあ頂きます」


 のんびりとした口調に乗せられておばあさんの隣に腰掛ける。

 そしてゲームならではというか、どこからともなく取り出した湯呑を受け取り一息。


(うーん平和だ)


 お日様はぽかぽかしてるし縁側でお茶を飲みながらまったりとか、どこの田舎だろうか。

 思えばゲームを始めてからハチミツ採取に行ったりモンスターと戦ったり密林を探検したりと忙しかった気がする。

 もちろんそれも楽しかったしフォニーやコロン、ミッチャーさんと知り合えたのも素敵な経験だ。

 でも時にはこうしてただのんびりするのも良いのかも。

 って、まだ始めてから数日しか経ってないけど。

 ただやっぱり目が見えるようになってからの時間は僕にとっては10年分くらいの経験が一気に得られたような気がしている。

 気が付いてないだけで結構気を張っていたようだ。

 そうしてたっぷり20分ほどぼぉっとしていると、おばあさんがまたゆっくりと訊ねてきた。


「それで。こんなところに何をしに来たんだい?」

(なにをしに、ってそうだった)

「冒険者ギルドのフェルトさんから、こちらにボウガンを作ってくれる工房があると聞いてきたんですが」

「あぁ表のお客さんだったのかい。

 裏口から来たものだからてっきりお茶を飲みに来たのかと思ってたわ。

 おじいさん。お客さんですよ~」


 おばあさんが家の奥に声を掛けると小さく「おう今行く」と返事が返ってきた。

 そしてやって来たおじいさんは、おばあさんの隣に腰掛けた。


「ばあさん、お茶」

「はいはい」


 うーん、絵に描いたような老夫婦の昼下がり。

 いやこれはこれで和むし悪くないんだけどね。

 でも話が進まないから。


「あの、ボウガンの製作ってお願いできたりしますか?」

「なんじゃ小僧。ショーギを指しに来たんじゃないのか。

 期待させおって。

 それで材料は何がある。アイテムボックスを見せてみぃ」

「あ、はい」


 どうやって見せればいいんだろうって思ったけど、何やら確認ウィンドウが出てきたので「はい」を押すと無事におじいさんに見せることが出来たようだ。


「クマハチの樹液にトレントの若枝。それにキングフォビットの牙か。

 お前さん、魔法はともかく魔力はそれなりにありそうだな。

 それに妖精からの好感度も高いと見える」

「そうなんですか?」

「自分では気付いておらんのか。まあよい。

 日を改めてまた来い。その時までに作っておいてやる」

「ありがとうございます。

 それでお代は幾らになりますか?」

「この歳になれば金など十分過ぎるほど持っておる。

 だからそうじゃな。時々で良いからまた茶でも飲みに来い。

 日がなぼぉっとしてるとボケるのも早そうだしな」

「あはは、そんなことで良いなら喜んで」


 ふたりとも足腰もしっかりしてるしボケとはまだ無縁に見えるけど。

 ともかく今日の所は「また来ます」と言って帰ることにした。

 次来るときは菓子折りでも持ってこようかな。



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