22.自分に合う装備を
今回の依頼、フェルトさんから幾つか条件を付けられている。
1.ギルドの依頼を受けてきたというのを他の人に知られないようにすること。
2.選考基準は自分が使うならどれにするかで考える。
3.重複した箇所の装備は買わない(ズボン2枚とか)。
それを踏まえて布、革製品を取り扱っている露店の中で僕が候補に挙げたのは3か所。
選んだ基準は遠目に見て服の縫い目が綺麗かどうかだ。
残念ながら生地の良し悪しは分からなかった。デザインの良し悪しはもっと分からない。
残る選考基準は店員さんかな。
露店販売なのだから売り物は全部その人たちが作っている可能性が高い。
ちなみにどんな人が店員をやっているかというと。
1人目は浅黒い肌に筋肉ムキムキのおじさん。ハンマーとか持ってたら似合いそう。
2人目はお姉ちゃんやミッチャーさんと同い歳くらいの女性。立ち寄る人はここが一番多い。
最後は30手前くらいのおじさんと呼んだら怒られるかなと思う男性。この中では一番暇そうだ。
正直これだけの情報だと選びようが無かったので順番に尋ねて回ることにした。
その際の質問の内容は統一させておいた。
「こんにちは。僕にお勧めの装備はありますか?」
最初の2人は僕の姿をちらっと見て、特に迷うことなく『これ』というのを見せてくれた。
それは確かに悪くは無さそうだったのだけど、僕は「他の所も見てきます」と言って去ることにした。
そして3番目の男性に同じ質問をした時、前の2人とは違う事が起きた。
「用途は? 武器は何を使う? 予算はどれくらい?」
そう、逆に僕を質問攻めにして来たのだ。
だから僕はここで買おうと決めた。
もしここがリアルだったらそこまで気にすることは無かったと思う。
僕の外見から似合う色やデザインは大体決まるし用途だって普段使いかデート用かくらいだ。
でもここはゲームの世界。
身長や振る舞いからおおよその年齢は分かるけど、逆に言えばそれだけ。
街中で活動するのか外でモンスターと戦うのか、前衛の軽戦士なのか後衛の弓使いなのか支援職なのか、そういったことは見ただけでは分からない。
だからきちんと確認してくれたお兄さんが一番信用出来ると踏んだ訳だ。
そうして選んでもらった結果、下は編み上げのブーツに厚地のズボン。上は革のベストと指ぬきグローブになった。
試着してみると足回りはちょっと重い。でもその分、重心は安定しそうだ。
ミッチャーさんみたいに高速機動するには向いてないけど僕には土台無理な話だから問題ない。
ベストも意外と柔らかくて体を捻っても邪魔にならない。
うん、良い感じだ。
「物理防御って意味では下はともかく上は期待はするな。その分、魔法なら多少防いでくれる」
「分かりました」
「予算がもう3桁増えたなら最高の装備を用意してやる。
もしくはドラゴンの鱗とか皮とかの素材持ち込みだな」
「あ、はは。がんばります」
ちなみにフェルトさんに指定された予算は3万ジェニー。
3桁増えたら3千万か~。
ドラゴン素材とか間違いなく最前線のボスとかそういうレベルだよね。
今の僕だと一口で丸呑みされて終わりそうだしそんな未来は当分来る予定はない。
僕はお兄さんにお礼を言って露店を離れた後、他にも何か所か見て回りつつギルドへ戻った。
「という感じで見るからに質の悪いものもありましたが、造りがしっかりしたものもありました」
「なるほど、縫い目ですか」
僕からの報告を聞いてフェルトさんはふむふむと頷く。
続いて僕の周りをぐるりと回りながら買ってきた装備を吟味している。
「材質は……ですね。予算を考えれば妥当、いえむしろ安いくらいでしょう。
確かに造りもしっかりしてますしレベル30程度までなら実用に耐えられると思います。
それで買って来て頂いたこの装備。着心地は如何ですか?」
「はい。僕に合わせてコーディネイトしてもらったのもありますがかなり良い感じです」
報告も終えて買ってきたものをギルドに納品したら、またさっきの露店で改めて自分用のを買おうと思うくらいには気に入っている。
手持ちの予算は、正直ギリギリだけど、狩人の森で手に入れた素材を売ればなんとかなるはず。
あ、ドロップ品の中にキングフォビットの毛皮もあったから、それで何か作ってもらうのも良いかも。
などと考えていたらフェルトさんがポンっと手を叩いた。
「そういえば今回の依頼の報酬についてお伝えするのを忘れていました!」
「言われてみればそうですね。
でもこれくらいならお世話になっている分のお返しってことで良いですよ?」
「いえいえ、そこはギルドとしてきっちりとお支払いしなければなりません。
ということで報酬はその装備一式となります。
どうぞそのままお使いください」
「あーはい……」
なるほど、最初からそのつもりだったらしい。
だから自分が使う事を基準に選ばせたのか。
でもこんな簡単な調査の報酬が3万ジェニー相当って破格過ぎないだろうか。
そんな僕の疑念を読み取ったのかフェルトさんはこっそり僕に教えてくれた。
「実はこの依頼、ごく一部の方にしかお伝えしておりません」
「やっぱり何か条件みたいなものがあったんですか」
「ええ。将来ギルドにとって有望と判断させて頂いた方で、装備そっちのけで冒険に出てしまうような、そんな危なっかしい方にお伝えしています」
「それは……大変ご心配をお掛けしました」
どうやら相当心配させてしまっていたようだ。
今後は安全な冒険を心掛けるようにしよう。
あれ、危険を冒すから冒険って言うんだから安全にって言うのは矛盾してる気もする。
まあ備えあれば患いなしってことだろう。
「ところで武器はまだ新調していないのですよね?」
「あっ……忘れてました」
「そうだろうと思ってました」
思い返せば今回の依頼は『装備一式』を露店で見繕ってくることで、防具だけとは言われていない。
つまり頂いていた予算3万ジェニーのうち1万くらいは武器購入に充てるべきだったのにすっかり忘れてた。
フェルトさんは「仕方ないですね」と言いながらサラサラとメモ用紙に何かを書き込んで渡してくれた。
「これは地図?」
「お勧めの工房までの道順です。
短剣はともかく、ボウガンは機構が複雑なのであまり露店には出回りません。
そこならばラキア様に合ったものを作ってくれるでしょう」
「ありがとうございます。早速今から行ってきます」
「はい。くれぐれも別の事に気を取られてそのままの装備で冒険に出ないでくださいね」
「あ、はは」
釘を刺されてしまった。
どうやら早くも僕の行動パターンは読まれているらしい。