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20.さとり少女は人間不信

<コロン(心)視点>


 私は小さい頃、空気の読めない子供だった。

 幼稚園とかでは他の子から「お前空気読めよな~」と何度も言われ、彼らの親もひそひそと「あの子全然空気読めないんですのよ~」などと私を横目で見ながら言っているのを何度も聞いてきた。

 何も言わず笑顔で接してくれたのは両親と従姉のみっちゃんだけ。

 とても優しい家族。

 なのに空気の読めない私のせいで他所の親に何度も怒られていた。


「心は何も悪くない。大丈夫だよ」


 そう言って私の頭を撫でてくれるのが嬉しくて、でもそんな家族を苦しめてる自分が許せなくて、私は頑張ることにした。

 頑張って空気を読めるようになるんだ。

 でもどうすればいいんだろう。

 空気って目に見えないし触れもしない。もちろん文字が書いてある訳でもない。

 それを読む。

 え、もしかして私が出来ないだけで皆そんな超能力みたいなことが出来てるの!?


「ってそうだ。超能力!」


 アニメに出てきた超能力者たちは相手の思考を読んだり未来を予知したりと、まさに見えないものを読んでいた。

 それを私も出来るようになれば良いんだ。

 目標が決まればやることも見えてくる。

 なんて単純な話でも無かったけど、とにかく私は出来ることを片っ端からやりまくることに決めた。

 家族はそんな私を見て、ちょっと変わったことを始めたけど元気に頑張ってるなら良いんじゃないかと温かく見守ってくれた。

 そして小学5年生の時、私の努力は実を結んだ。

 いや、結んでしまったと言った方が正しいだろう。

 目の前の相手の視線や緊張具合、発汗、指先の動き、そう言ったものから思考を読み取る。

 残念ながら超能力に目覚めることは無かったけど、卓越した技術はそれに匹敵する。


「佐山さん嘘ついてる?」

「!?」

「後藤君バレてるからね」

「!!」

「向井さんのことが好きなのね」

「……」


 そうやって言い当てる私は、最初は驚きの目で見られ、次第に避けられるようになり、しまいには排斥されるようになった。

 中学に上がってからもそれは変わらず、より攻撃的な物へと変化していった。

 私にとってクラスメイト全員が敵。

 時折私の味方だと言って近づいてくる子も居たけど、本心では裏切る気だったので私も心を許す気にはなれなかった。

 そんな日々が3年も続いた結果、私は完全に人間不信になっていた。

 信じられるのは両親とみっちゃんだけ。

 担任の先生? あぁアレは他の生徒が私を排斥するのを黙認するどころかこっそり笑って見ていたし、最後は私を空き教室に呼び出して凌辱しようとしてきたから、二度とそんなことが出来ないように下半身を処理して病院送りにした。その後見ていない。

 あれのお陰で他の生徒からの直接的な攻撃は無くなったので不幸中の幸い……怪我の功名?

 ともかく高校生になっても私は誰とも慣れ合わず、授業以外は家に引きこもるような日々を過ごしていた。

 それで不自由はしてなかったのだけど、私の家族は将来的に良くないんじゃないかと思ってくれたらしい。


「こころん、一緒にこのゲームやらない?」


 そう言ってみっちゃんが見せてきたのは究極幻想譚というVRゲーム。

 最新式の没入型RPG。内容はみっちゃんの配信を見てたから知ってる。

 なるほど、リアルでは難しくてもゲームの中なら他人と交流出来るんじゃないか、という話らしい。

 折角のみっちゃんからのお誘いなので私は受けることにした。

 確かにリアルとは違って私のことを全然知らない人たちなら逆に私もその輪の中に入っていけるかもしれない。

 と、そんな簡単な話では無かった。

 最初こそみっちゃんの所属しているクラン『電光石火』を紹介してもらって限定的でも他人と交流出来た。

 みっちゃんの紹介だっていうのも良かったんだと思う。


『野良猫にようやく餌を渡せた気分だ』


 とか言われてしまったけど、自分の態度を振り返ってみればそう言われても仕方がない。

 その人にも悪気が無かったのは見てわかったし。

 でもそんな面倒な私がいつまでもトップ攻略クランの足を引っ張る訳にはいかない。

 なので一人で活動しようと思ったのだけど、数日で挫折した。

 街中を歩いていても、外でモンスターの討伐をしていても何処からともなく男性プレイヤーがやってくるのだ。

 なぜ彼らは下心抜きで女性を見れないんだろう。

 私の目には全部筒抜けだというのに。

 それでも、一応頑張ってパーティーを組んでみたこともあった。

 だけど結果は……思い出してもため息しか出ない。

 結局またみっちゃんのお世話になることになってしまった。


 今日は新人向けの隠しフィールド攻略配信をしようという事で、最初の街に集まって冒険に出発した私とみっちゃん。

 やっぱりみっちゃんと2人が一番気楽だなと思ってたところに1時間に1回しか現れないというフィールドボスのキングフォビットを発見。しかもすぐ近くにプレイヤーの姿は無し。

 これは討伐のチャンス。


「先手必勝」

「あ、コロン待って!」

「え?」


 みっちゃんの声が聞こえた時には手遅れで私の盾がボスに振り下ろされていた。

 私はボスがスタンしている間に周囲を見渡してみれば、ちょっと離れた所からボスにボウガンを撃っている人の姿があった。

 あ、もしかしてあの人が戦ってるところに横殴りしてしまった?

 それはまずい。私もやられた事があるから分かるけど激怒案件だ。

 でも待って。あの人完全に初心者装備だ。

 ボスとソロで戦うならもう2段階上の装備を用意してくるはず。

 ということは偶発的にボスに出会ってしまって負けるの覚悟で戦ってた?

 ……ありえる。

 どっちみち放置してたら負ける未来しかない。

 既に1発殴ってしまったのだから今更だろう。

 と思って追撃を行ったのだけど。


「…………え」


 あまりに呆気なくボス撃沈。これなら私が居なくても勝ててたと思う。

 ということは完全に怒られるコースだ。

 って、あれ?

 盾から顔を出して確認してみたらあの人全然怒ってない?

 フリとかではなく本心からの笑顔だ。どうして?

 そしてどうやらみっちゃんと知り合いだったらしく、今回の冒険に一緒に行くことになった。

 盾役の私は先頭を歩きながらちらっと振り返って彼のことを見る。

 名前はラキア。

 第一印象はよく分からない人。

 普通の男性プレイヤーは女性2人と一緒ってなると少なからず下心が態度に出る。

 でも彼にはそれが一切ない。

 私に悟らせない程、感情を隠すのが上手という事だろうか。

 いや。

 配信が始まった時のあのぎこちない作り笑いは本物だ。

 ということは本当に何とも思ってない? 純粋に冒険を楽しんでるだけ?

 いやいや油断は禁物。

 今はみっちゃんという明らかに格上が居るから大人しいだけかも知れない。

 自分が優位に立てる状態になったら態度が豹変するタイプの人間も居る。

 油断はしない。

 と言っても今は冒険の最中。ギルドで依頼も受けてきたからやるべきことはやらないと。


「コロンさん。右に一歩ズレて!」


 緊張をはらんだ声に従い右へ。

 次の瞬間、私の真横に魔物が降ってきた。


ザシュッ!


 地面に突き刺さる音がその威力を物語ってる。

 これ避けてなかったら私死んでたかも。

 うぅ、目標に集中すると周りが見えなくなるの私の悪い癖だ。

 その点、彼はずっと警戒を怠っていなかったらしい。

 そこは素直に凄いと思う。

 でもどうしよう。

 命救われるとか絶対マウント取られる奴だ。


(……あれ? 特に変化ない?)


 むしろ無事に採取を終えて戻ってきた私を見てホッとしてる。

 みっちゃんや電光石火の人達みたいな保護者の視線でもなく自分の事のように安心してるみたい。

 そんな人、初めて見たかも。

 あぁそうか。

 世の中にはこんな裏表がない人も居るんだ。

 そういうのって確たる信念が無いと出来ないと思う。

 少なくとも私には無理だ。


「……ラキアは凄い」

「??」


 褒めてみたら何のことかさっぱり分からないって顔してた。

 うん、こういう人となら一緒に居ても大丈夫なのかもしれない。



ヒロイン視点パート2ですが、やっぱり当初考えていたものとは違う内容になってしまいました。

なお本作は恋愛ものではないのでどろどろの三角関係になったりはしないはずです。多分。


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