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19.尊敬と信頼

 依頼品だという樹の実の収穫を行うコロンさん。

 その間僕は周囲の警戒だ。

 風に揺れる木々の間に明らかに風とは違う動きをしているモノが居る。


「じっと動かないのかと思ったらジリジリと動いてるんですね」

「おっ分かる?

 そうなのよ。襲撃を凌いで安全になったと油断したところに第2波が来るの」

「でもその分、知性も高いみたいなのでこっちが『見えてるぞ』って伝えると諦めてくれますね」

「伝える?」

「はい。こう相手の目をじっと見る感じで」


 今も丁度茶色の枝みたいな蛇がコロンさんをロックオンしてたので視線を送ると、ビクッと固まった後そろそろと帰っていった。

 ただし本当に微動だにしないモンスターについては目が合っても無反応なのでそこは僕らが気を付けてあげないといけない。


「コロンさん、それ以上そっち行っちゃダメです」

「ん」


 僕の指示を聞いて樹の向こう側に回り込もうとしていたコロンさんが戻ってきた。

 そして相変わらず2メートル距離を開けたところで立ち止まると盾で顔を半分隠しながら僕をじっと見た。


「……ラキアは凄い」

「え、僕ですか?

 僕なんかよりその大楯を軽々と振り回してるコロンさんの方が凄いと思いますけど」

「これは祝福のお陰。

 あとコロンでいい。敬語も要らない」


 コロンさん、もといコロンはそれだけ言うと元来た獣道に戻っていく。

 って、今のはどういうこと?

 と思ってたら肩を叩かれた。

 振り向けばニヤニヤ笑顔のミッチャーさん。


「やるではないか少年」

「いや何もしてませんけど!?」


 僕の抗議もむなしくミッチャーさんは手をひらひらさせてコロンさんを追いかけていくので仕方なくついていく。

 なおミッチャーさんのメッセージウィンドウには、


『あの鉄壁のコロンちゃんがデレた、だと!?』

『おい保護者、ちゃんと仕事しろ!』

『あのカマキリの細い首に矢を通すって狙撃系の祝福か』

『隠れてるモンスターを見つけるのだって祝福無いと無理だろ』

『コロンちゃんはゴルゴン13が好きと。メモメモ』

『まぁ自分に出来ないことをやってのける人って素直に尊敬するよね』


 と恐らく僕への恨みつらみが書き綴られてると思われる。

 僕、街に戻ったら後ろから刺されたりしないよね?

 って蚊だ!


「シッ」


 音もなく飛んでくるから油断も隙もあったもんじゃない。

 しかも全長10センチの蚊って、血を吸われたら1発で貧血になりそうだ。

 幸い耐久値は低いみたいで僕でも簡単に倒せて良かった。

 ってまた来た!

 この世界に虫除けスプレーとかって無いよね。

 あったら絶対旅の必需品として持ち歩きたい。

 あ~今度はコロンの方にも! そっちは手が届かないからボウガンで……よしっ。

 などと一人蚊と格闘してたら二人を待たせてしまっていた。


「……どうしたの?」

「すみません、蚊が飛んでたので退治してました」

「「蚊??」」


 なぜか二人で顔を見合わせている。

 いや居るよね。今もそこにほら。

 僕は慎重に二人の目の前に飛んでる一匹を倒さないように短剣に刺して見せた。


「ほらこれです」

「ほ、本当に蚊だわ!」

「……」

「配信を見てくれてる皆は気づいてた?」

『映像には映ってなかったよな』

『突然、短剣の上に現れたように見えたぞ』

『ラキアが実は手品師だったとか?』

『いやごめん。俺まだどれのこと言ってるのか分かんない。え、この汚れの事?』

……

「やっぱり誰も見えてないみたい。

 確かにね。以前からこの森では気付かない内に体力が減ってたって言う報告があったのよ。

 それは例えば森がプレイヤーの精気を吸い取ってるんじゃないかとか、制限時間付きのフィールドなんじゃないかって言われてたんだけど。

 まさか姿の見えない蚊に刺されていた事が原因だったなんて!

 ラキア君。これは凄い発見よ!」

「は、はぁ」


 ミッチャーさんが凄い興奮してるけど、そんなに?

 メッセージも今まで以上に流れが速いし。

 ちなみにコロンもどっちかというと僕側。

 蚊の登場に驚きはしたけど「だからなに?」って言う感じ。


「あのミッチャーさん。先に進んでも?」

「へ、あ、あ~そうね。

 今は新人向けの育成講座の最中だものね。

 検証はまた別で行いましょう」


 気を取り直して探索再開。

 ただし最初とはちょっと状況が変わっていた。


「ん~~。ラキア、ヒント」

「えっとどれどれ」


 依頼品の薬草を見つけたコロンは最初のように突撃せずにまずはじっと観察するようになった。

 途中に罠は無いか、モンスターの待ち伏せは無いかと。

 そして何も見つからなかったとしても僕に助言を求めるようになった。

 そこはミッチャーさんでも良いんじゃないかなって思うんだけど。

 でも頼られて悪い気はしないので僕も積極的にアドバイスしていく。


「見える範囲でモンスターは3体居るね。

 1体はあの草の陰。フォビットくらいの黒いモンスターが潜んでるの分かる?」

「んんん~あ、ほんとだ」

「どれどれ?」


 後ろからミッチャーさんも覗き込んでくる。

 恐らくカメラを通じて配信先の人達も目を凝らしてるんじゃないかな。

 なら次は答えじゃなくてヒントを出すくらいにしてみよう。


「後の2体は近くの木に注目してみると分かるかも」

「むむむ」

「えっと、1体はあれでしょ? もう1体は……」


 どうやらミッチャーさんは1体は見つけられたようだ。

 そして。

 僕は前をじっと見つめる二人を残してそっと後ろへ。


トスッ


 音もなく近づいてきていた大蛇の頭に短剣を突き刺した。

 他にも3体。巧妙に隠れているみたいだけど「視えているぞ」と睨みつけると大人しく引き下がっていった。

 僕としても無理に討伐したいとは思っていないし来ないならそれでいい。

 振り返ってまだにらめっこをしているコロンに声を掛ける。


「どう、分かった?」

「左の枝の上。多分何かいる」

「うん、当たり」

「あと右のあの木。あれもちょっと変?」

「そうだね。多分木に擬態したモンスターだと思う」


 どうやら後ろでこそこそやってたのは気付かれなかったようだ。

 コロンは無事にモンスターの位置を確認した後も慎重に進み目的の薬草を回収してきた。

 隠れている場所さえ分かってしまえばコロンの戦闘力的に負ける心配はない。

 そうして幾つかの薬草類を収穫した後、僕たちは『狩人の森』から撤収したのだった。


「いやぁ今回はラキア君が一緒で助かったよ」

「こちらこそ珍しい場所に連れて行っていただきありがとうございました」


 僕たちは草原に出たところで解散の挨拶をすることにした。

 というのもミッチャーさん曰く、街まで戻ると『出待ち』ならぬ『帰り待ち』をしているマナーの悪いファンが数人居るらしい。

 ミッチャーさんは有名配信者だし、コロンもあの大楯で目立つからすぐわかるそうだ。

 その点僕はほぼ初心者装備だから1人で居れば身バレする可能性は低い。

 なので街から離れた場所で解散するのが良いらしい。


「コロンも、今日は一緒に冒険出来て楽しかった」

「私も。みっちゃん以外と遊んだの、久しぶり」


 そういってコロンは小さく笑って見せた。

 最初に比べたら随分と話してくれるようになったなって思う。

 ミッチャーさんはそれを見て驚きながらも嬉しそうだ。

 元々コロンの交友関係を広げたいって言ってたしね。

 あ、今なら大丈夫かな。


「えっと、また一緒に遊んでくれる?」


 そう言いながら僕は右手を差し出した。

 僕とコロンの距離はまだちょっと離れていて、このままでは手を伸ばしても届かない。

 だけど僕は動かずじっとコロンの反応を待った。


「え……あ、その……うん」


 オロオロと視線を彷徨わせたコロンだったけど、最後は意を決して一歩前に出て僕の手を取ってくれた。

 そうして無事に僕とコロンは友達フレンドになったのだった。



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