18.狩人の森の紹介配信
う~む、ぎりぎり。
ミッチャーさんに連れられてやって来たのは昨日同様に森。
まぁ何もない草原にイベントがごろごろ転がっている筈もないので森とか山とかに来るのはある意味当然か。
そしてこの森は、昨日の森に比べると若干明るくて爽やかな匂いがする気がする。
でもそれ以外は普通の森、かな。
いやこのゲームの森は2回目だからどっちが普通なのかは分からないけど。
「それじゃあ行こうか!」
「はい」
「ん」
ミッチャーさんの元気な声に従って森へと入る僕達。
隊列はコロンさんが先頭でその後ろに僕とミッチャーさんが並んで歩いている。
レベル的には恐らくミッチャーさんが一番強いのだろうけど、コロンさんは全身を隠せる程の大楯を持っていることから壁役というやつなのだろう。
出てくるモンスターはハイフォビットよりも強そうなんだけど、コロンさんの盾に弾き飛ばされている。
「邪魔」
うーん、コロンさんって戦ってる最中は性格が変わるっぽい。
弾き飛ばしたモンスターを更に盾で殴り飛ばしてるし過激だ。
盾ってそう使うんだっけ。
などと感想を抱きつつコロンさんの盾を抜けてきたモンスターは僕が処理していく。
コロンさんのお陰ですでにふらふらだから僕の短剣でも余裕だ。
「ところで、この森ってどの辺が特殊なんですか?」
「もう少し進んだ所からだけど、マップ機能が使えなくなるんだ。
まぁ所謂『迷いの森』って奴だね。
っとそうだ!」
説明の途中で何かを思い出したのか、ぽんっと手を叩くミッチャーさん。
その表情は、一瞬悩ましげに僕を見た後、どこかいたずらっぽい笑顔になった。
「ラキア君は動画配信って興味ある?」
「配信ですか。うーん、今まで見たことが無いので何とも」
「あ〜なるほど(それで私の事を見ても反応がなかったのか)
じゃあ自分が配信に映るのはどう?忌避感とかある?」
僕が配信に映る?とどうなるんだ?
有名になる?いやいや。
スーパープレイを連発出来る訳でもなし、誰も興味無いでしょ。
顔だってゲームのアバターだから同じような外見の人は沢山居るし。
「別に気にしないですよ」
「そっか。じゃあ今からカメラ回して行くけど良いかな」
「はいどうぞ。
でも隠しフィールドとは言っても最初の街の近くですし、観る人居るんですか?」
「そこは大丈夫。
確かにボス戦で派手なバトルとか新フィールドの探索の方が観てもらえるけど、それだけじゃ観る方も飽きるでしょ?
だから何気ない普段の活動や新人向けの紹介動画も喜ばれるのよ」
「なるほど」
色々と趣向を凝らしているんだなぁ。
まぁ確かに可愛いだけのアイドルはすぐに消えるって聞くし。
ポチポチとウィンドウを操作したミッチャーさんは小さく「よし」と頷くと表情もキリッとしたものに変わる。
コロンさんもあらかじめ配信する話は聞いてたようだ。
ミッチャーさんからの合図を見てこくりと頷いている。
「じゃあカメラ回ります。3、2、1……
みなさんこんにちは。電光石火チャンネルへようこそ。
パーソナリティのミッチャーです」
配信がスタートしてミッチャーさんが挨拶すると、表示されてるウィンドウに凄い速度でメッセージが流れていく。
ミッチャーさん、あれ読めてるのかな。
「今日は新人向けの育成講座ということで『狩人の森』の攻略をしていくよ〜。
参加者は私の他に、新人代表のコロン!」
カメラを向けられたコロンさんは瞬時に全身を大楯で隠してしまった。
いやそれでいいの?
メッセージは相変わらず流れ続けてるし『そのはじらいがイイ!』とか書かれてるから問題無いのか。
「それともう一人。
ここに来る途中で偶然一緒に行くことになったラキア君」
今度は僕の方にカメラ向けられたけど、え、これどうすればいいの?
適当に作り笑いをしつつ手を振ってみたけど、合ってたかな。
ミッチャーさん=女性プレイヤーの配信を観てるのは大体男性だろうから睨まれてそうだ。
「あ~はいはい。
彼は電光石火のメンバーではないし、今回限りのゲストだから僻まない!
それと最初の街付近で張られても同行者に抜擢することは無いのでやめてね。
じゃあ後の話は歩きながらしようか」
無事に挨拶を終えたようなので移動を再開する僕達。
コロンさんは盾を前に構えてるから後ろにいるミッチャーさんのカメラに後姿がばっちり映ってそうだけど、そこは気にしないらしい。
そして1分と経たずに森の空気が変わった。
「さて、ここからが隠しフィールドよ。
まぁ見ての通り全然隠れては居ないんだけどね。
隠しというか限定って言ったほうが合ってると思うけど、最初に見つけた人がそう呼んで広めてしまったから仕方ないわね。
今のところこう言う場所は7カ所ほど確認されているわ。
そしてここでしか手に入らない素材もあるのだけど、それ以上にスキルレベルの上りが良いことで有名よ。
もちろん難易度も高めだけどね」
ミッチャーさんの説明を聞きながら、なるほどと周囲を見渡す。
確かに見たことのない植物が沢山。
そしてモンスターも沢山。ただしじっとして動かないようだ。
獣道っぽいのが出来ててそこから外れなければ襲われないのかな。
「コロン。右手の青い樹の実が依頼品よ」
「ん」
呼び掛けに応じてコロンさんが進路を右に変更する。
ちなみにそっちに道なんて無いから草藪を盾で強引に押しのけながら進んでいる。
なかなかのパワーだ。
でもこれは……
『にやにや』
『ミッチャーさんは相変わらずのスパルタ』
ウィンドウのメッセージも不穏なものが増えてるしそういう事だよね。
「コロンさん。右に一歩ズレて」
「ん?」
疑問の声を上げつつも素直に右に移動するコロンさん。
その次の瞬間、さっきまでコロンさんの居た場所に降ってくる緑色の鎌。
「ギギッ。ギッ!?」
「え……」
驚いて振り返ったコロンさんの目には首をボウガンの矢で刺された巨大カマキリが映っていた。
もちろん矢を放ったのは僕だ。
後ろから歩いてたお陰でモンスターが待ち伏せしてるのに気づけて良かった。
しかし首に矢が刺さった程度では倒すには至らない。
「コロンさん止めを!」
「っ『シールドプレス』」
僕の声に慌てて大楯で押しつぶす。
軽々と操ってるけどやっぱりあの盾って重いんだろうな。
モンスターはあっさりと消えていった。
ちなみにこの間、ミッチャーさんは高みの見物だ。
呑気に手を叩いて喜んでいる。
「いやぁナイス連携!
まさか初見で完璧に対応できるとは思わなかったよ」
「みっちゃん、知ってたなら教えてほしい」
「大丈夫だって。コロンの耐久力なら即死は無いから。多分」
多分なんだ。
確かにさっきの鎌で頭をグサッとやられて生きてたら人間じゃないと思う。
僕なら間違いなく即死だろう。
「これで分かったと思うけど、ここのモンスターの多くは周囲の森に擬態しつつ奇襲を仕掛けてくる。
パーティーでの攻略推奨レベルは10から。
だけど初見のプレイヤーだとレベル30でも油断すると死ぬ危険がある。
通称『ジャイアントキリングの森』なの。
そしてそういった襲撃を警戒したり察知してるうちにスキルレベルが上がる訳だね」
どことなく説明口調なのは配信先の人達にも分かりやすくする為の配慮だろう。
ただ、実演した方が分かりやすいって言うのは同意なんだけど、それを何も知らないコロンさんにやらせるのはどうかと思う。