161.砂漠のモンスター達
僕達に声を掛けて来た5人組は『砂の薔薇』という冒険者チームでリーダーはニードリッヒさんと言うらしい。
最初こそ警戒した眼差しで僕らを見ていたけど、逆に僕らがのんびりとした佇まいなので肩の力を抜いていた。
「そんな軽装で流砂の近くに居るもんだからもしかしたら身投げかもしれないと、ちょっと焦ったぞ」
「身投げ……」
「流砂は遠目からだと分かりづらいし、間違って踏み込めば抜け出すのは困難。
しかもすぐにデザートフィッシュが飛び掛かって来て砂中に引き擦り込んで一瞬で骨まで食い尽くす。
死体も残らないから『誰にも迷惑掛けずに死にたいなら流砂に行け』って言われるくらいだ」
その言葉にはどこか重みがあった。
多分ニードリッヒさん達の住む街で実際に流砂に飛び込んだ人が居たんだろう。
やっぱり砂漠での生活は厳しいのかな。
「それで差し支えなければここに居る理由を聞いても良いか?」
「はい。僕達は南の海を目指して旅をしている最中です。
途中、流砂の中を流れる岩を見つけたので近くまで見に来てました」
「そうか」
流砂に流されてる岩はまだ見えるところにあったので、それを指しながら説明すればすぐに納得してもらえた。
「話は分かった。が、正直その装備でこの砂漠を縦断するのは無理がある。
一度俺達が拠点にしている街に寄って装備を整えた方が良い。案内するぞ」
「良いんですか? ありがとうございます」
「なあに。砂漠で遭難者を見つけたら保護するのも俺達の仕事だ」
遭難はまだしてないんだけどな。
でも遭難予備軍と思われても仕方ないか。
なにせ服装は普段の冒険者装備だし砂漠を走れる乗り物も無い。
アイテムボックスの中に食料とかがあるけど、逆を言えば見た目ほぼ手ぶらだ。
言ってしまえば半袖短パン、サンダルで富士登山をするようなものだ。
ちょっとでも経験がある人から言わせれば自殺志願者以外の何物でも無いだろう。
ニードリッヒさん達の案内でその場を離れた僕達。
その移動している最中もモンスターの襲撃はある。
いやむしろこれまでよりモンスター増えた?
僕達だけの時は多くても5体くらいだったのに、今は10体を超えるモンスターが僕らを狙っている。
『護衛クエストなのかも』
コロンがそっとチャットを送ってきた。
なるほど。
てっきり無謀な行動をしてる僕らへの救済措置なのかと思えばそうでは無かったという話か。
いや元の可能性も捨てきれないのだけど。
「ニードリッヒさん。僕らも戦闘に参加します」
「助かる」
最初こそ彼らの連携を邪魔しては良くないかなと思って様子を見ていたのだけど、苦戦しているようだったので共闘を申し出た。
許可が出たので早速僕らは前に出る。
「コロンは皆の護衛を、フォニーは空のモンスターの撃退をお願い」
「「はいっ」」
ここに出てくるモンスターは主に砂を保護色に滑るように迫ってくる大蛇や、砂の上を転がるように走るアルマジロ。
あとは上空から襲ってくるハゲタカ……ハゲワシ?トンビ?
ちょっと鳥の区別までは出来ないけどモンスターなので些細な事だ。
問題は手の届かない場所から風の魔法を放ってくるところ。
以前の僕達なら苦戦してたかもしれないけど、今はちょっと余裕があるほどだ。
「うーん、風魔法は反射しづらいわね」
降り注ぐ魔法を余裕で防ぎながらコロンがため息をつく。
コロンは更に転がりながら襲い掛かってくるアルマジロ型モンスターを手持ちの盾で弾き飛ばしていた。
どうやらここのモンスターでコロンの盾を突破出来る奴は居ないようだ。
そして反撃にフォニーの笛が鳴り響く。
これもまた以前とはちょっと違う。
ゴン、ガン、ドスン!
まるでハンマーでぶん殴ったような音が返ってくる。
って、あれ?
「フォニー。新しい祝福って心に訴えかける類じゃなかったっけ?」
「これはどちらかと言うと元からある祝福の力ですよ」
「あ、そっか」
フォニー達は最初から授かっている女神の祝福も持っているんだった。
それを状況に応じて使い分けてると。
違うと感じたのはレベルアップして応用の幅が広がったからか。
見ればコロンも遠い場所には新しい祝福の盾を、近い場所は自前の盾やカガミの盾をと使い分けていた。
これは単純に戦力が倍以上になってる感じだ。
って感心してないで僕も参戦しよう。
と言ってもフォニーとコロンだけでも十分勝ててしまいそうなんだよな。
なので全体のサポートに回ろうと思う。
「ニードリッヒさん。左足の前から来ます。
ドレゴノスさんは右踵の横です。
ポレイシランタさんは一歩下がって左です」
「あいよ」
「くっ的確過ぎる」
「何で俺達より発見が早いんだ。ちょっと凹むぜ」
足元の砂の中から接近してくるモンスターの位置をみんなに伝えて迎撃してもらう。
ニードリッヒさん達は見た感じかなりの熟練者だから出現位置さえ分かればモンスターに後れを取ることは無いだろう。
事実今も慣れた手際で蛇型モンスターの首を切り落としている。
「これだけの集団で襲い掛かってくるってことは親玉が居るぞ」
その言葉が合図だった訳ではないと思うけど、ほぼ同時に前方の地面がズゴゴと盛り上がった。
『ウゴーーッ』
「ちっ、サンドゴーレムか。厄介だな。
ラキア。あれには生半可な斬撃や魔法は通用しないぞ」
高さ3メートル近い砂山のようなモンスター。
全身が砂で出来てるし岩と違って切っても殴っても崩れることは無いだろう。
僕の短剣やボウガンだと全くダメージにならないんじゃないかな。
でもそれだけで勝てないなんて言う気はない。
なにより『ゴーレム』と聞いてフォニーとコロンが闘志を燃やしている。
以前魔鋼製のゴーレムに後れを取ったのをまだ気にしてるんだな。
「ラキア。棒倒しって知ってる?」
「砂場で木の棒を立ててやるあれ?」
「そうそれ。あいつはどれくらいまで耐えられるかしら」
ちょっと嗜虐的な笑みを浮かべながらコロンが大楯でサンドゴーレムの側面を削り取っていく。
あっという間に円錐だった砂山がスリムな円柱になってしまった。
ただ周囲も砂なので削られてもすぐに再生してしまいそうだ。
「ゴーレムならきっと核がありますよね」
間髪入れずにドラムを取り出したフォニーがドンドコドン♪と叩き鳴らせば振動波がゴーレムの体内深くまで震わせて中に隠されていた核を表に浮き上がらせた。
「ラキア君、今です」
「うん」
シュッ、パリンッ。
ここまでお膳立てされて外す訳もない。
僕の放ったボウガンの矢が核の中心に突き刺さり粉砕してみせた。
あっさりと崩れ去る砂の山。
この結果にはニードリッヒさんも驚いたみたいだ。
「持久戦を覚悟してたのに、まさか一瞬かよ。
お前たち、もしかして噂の勇者チームってやつか?」
「全然違いますよ」
「相性が良かっただけですよね」
「そうそう」
事実として勇者チームではないし、あまり目立ちたい訳でもないので適当に流しておいた。
それより気になるのはモンスターの数だ。
今の襲撃だけで30体くらい居たんだけど。
「この地域って以前からこんなに大量のモンスターが襲ってくるんですか?」
「いやそんなことはない。
今年に入ってからだな。こんなに一度に遭遇するようになったのは」
その答えに僕達は顔を見合わせた。
もしかして女神が関係してたりするんだろうか。




