156.魔神の屋敷に避難
女神に1撃加えた僕達は絶賛落下中です。
ここまで乗ってきたソリは燃料切れ+半壊で飛ぶことは出来そうにないし。
かといって助けてくれそうなトトさんは捨て台詞を吐いて去っていく女神を見送るのに忙しくて僕らに気付いていない。
地上に衝撃を吸収出来るものは無さそうだし、アイテムボックスの中にパラシュートが入ってたりもしない。
(次回から用意しておこう)
などと考えるけど問題は今だ。
地上数百メートル。この高さからの落下ダメージをクリスマス人形は受けきってくれるか。
やっぱりちょっと賭けだったな。
と考えていたらフォニーが何かを見つけた。
「あっ、あれ見てください」
「なにって……ラキアが飛んでくるわ」
「え?」
いや僕はここで一緒に落下中だよ?
思わずツッコミを入れそうになったけどとにかく二人が指差した方を見ようとしたところで何かが僕の横をすり抜けた。
(って僕?)
一瞬見えたそれは僕の顔をしていた。
慌てて振り返ってみれば、そこに居たのは僕ではなく僕の姿の雪像。
先日フォニーとコロンが創ってくれたあれだ。
雪像は空を飛んで見事ふたりをキャッチして両肩に乗せていた。
良かった。
明らかに雪像はふたりを守るために来てくれたっぽいし、これでふたりは無事に地上に降りれるだろう。
などと思いつつ僕は落下を続ける。
いやだって、雪像は腕が2本しかないのでふたりを助けるので精いっぱいだ。
僕は僕で何とかするしかない。
以前自衛隊は5階建てのビルから飛び降りても無傷だって聞いたことがあるし、5点着地だったかそれをやればステータスで強化されてる今の僕なら何とかなるだろう。
……いや、5階どころか20階以上の高さだから無理かな。
(くすくすっ)
「え?」
ガシッ
突然懐かしい声が聞こえたかなと思ったら、襟首を誰かに掴まれ落下が収まった。
今の声はもしかして、
「フラン?」
(くすくす!)
頭の後ろから返事が聞こえて来た。
やっぱりフランだ。
『ちょっと見ない間にまた無茶をして!』と怒ってるのが伝わってきた。
「心配かけてごめんね。
でもどうやってここに? たしか春まで目覚めないんじゃなかったっけ」
(くすくすくす)
詳しい説明は落ち着いてから、か。まぁそうだね。
僕の落下が収まったのでフォニー達を乗せた雪像が僕に並ぶように飛んできた。
「ラキア君。背中のその子はフランちゃんですか?」
「そうみたい。やっぱり以前とは姿が変わってるの?」
「はい、羽が生えてますし」
やっぱりそうなのか。
フランは元々芋虫の従魔だから当然空を飛ぶことなんて出来るはずがない。
だから本来なら落下中の僕のところに来れるはずがないのだ。
それに僕の襟首を掴んでるのも感触からして強靭なかぎ爪っぽいけど、それもフランは持ち合わせてなかった。
一体今のフランはどんな姿なんだろう。
というか、あれ。全然地上が近づいてこないんだけど。
「これ今どこに向かってるんだろう」
「東、いえ北東ね」
てっきり闘技場の観客席に軟着陸するのかと思いきや、高度50メートルを維持しつつもどんどん会場から離れて行っていた。
まぁあっちは女神が去ったのならトトさんも暴れないだろうし、残ったモンスターの処理もプレイヤーの皆にお任せで大丈夫か。
そして王都の北東に何があるかと言えば、廃都だ。
今は魔神の根城になってるはずだけど。
「雪像は魔神の力で動いてるんだよね。
なら僕達は魔神の家に招待されてるって事で良いのかな」
「せいか~い」
僕の疑問に答えたのは例の魔神の少年。
いつの間にか闘技場から飛んで追い付いてきたみたいだ。
ちらっとそちらを見れば悪戯っぽい目とあった。
なら挨拶はいつものやつだな。
「やあ少年。悪いけど今ご飯は持ってないんだ」
「やあお兄ちゃん。最近は自炊に目覚めたから大丈夫だよ」
以前と変わらずのほほんとした会話。
元から何かあるのは聞いてたし、それがたまたま魔神だったってだけで別段距離を置く理由にはならない。
『くっくっく、知られてしまったからには仕方ない。死んでもらおう』
みたいな展開にはならないのだ。
「それで、どうして僕らは廃都に向かってるの?
あの魔神のお姉さんとは面識が無いんだけど」
「本人曰く、お兄ちゃん達に物申したいことがあるらしいよ。
それとプラスで女神に一泡吹かせてくれたお礼が言いたかったのと、お兄ちゃん達を助けるため、かな」
「助ける?」
「お兄ちゃん達、あのまま闘技場に戻ったら大変なことになってたんだよ。分かってる?」
え、何かあったっけ。
女神に傷を負わせたことが問題になってるとか?
いやあれは僕らは陽動しただけで実際にやったのはトトさんだからセーフのはず。
あれで罪になるのなら最初に全員で女神に攻撃を仕掛けたのも同罪だから僕らだけ怒られるのは変だろう。
他には、う~ん。
何も思い浮かばないなぁと考えてたら3人分の呆れた眼差しが僕に向けられていた。
あれ、もしかしてフォニーとコロンは分かってるの?
「まぁラキア君ですから」
「私ももう慣れたわ」
「えぇ??」
なんだろうこの諦めました的な空気は。
問いただしたい気もするけどちょっと怖い気もする。
でもその前に廃都に到着してしまった。
降りる場所は領主館らしきお屋敷の正門前。
僕が地面に足を付けるとフランはいつもの定位置である左肩に飛び乗った。
羽もかぎ爪も収納可能なのか以前と変わらない姿だ。
その背中をそっと撫でているとフォニー達を下ろした雪像はまた飛び上がって西の空に去って行ってしまった。
「元の場所に戻るんだと思います」
「なるほど」
じゃあ本当にふたりを助ける為だけに来てくれたのか。
後で何かお供えでもしておこう。
「ささ、お兄ちゃん達はこっち」
少年に案内されて屋敷の中へ。
確か今、廃都って高難度ダンジョンになってる筈だけど屋敷の中も外もモンスターの気配は全くない。
通された居間には先に帰って来ていたらしい魔神のお姉さんがソファにだらしなく寝転んでいた。
「お邪魔します」
「ん」
お姉さんは一応起きているらしく、顎で対面の席に座るようにと促してきた。
そして僕らが座ると横からすぅっと滑るように配膳ロボットのような人形がお茶を配っていった。
「ありがとうございます。で、えっと」
やっぱり名前が分からないのはちょっと不便だな。
この先他にも魔神が出てきたら区別が付かなくなりそうだし。
「僕の名前はラキアって言います。この子はフラン。
で隣に座ってるのがフォニーとコロンです」
「……私達に名乗れと?」
「はい。出来れば名前を教えて貰えたら呼びやすいんですけど」
「……」
あれ、もしかして駄目だった?
お誕生日席に座った少年はにこにこしてるしタブーって事は無いと思うけど。
って、そういえばまだ少年の名前も聞いてなかった。
「ん、僕? 言ってなかったっけ。僕はトリフだよ。『美食の魔神』トリフ」
「ちょっと! はぁ、まあいいわ。
あの女神に一泡吹かせてくれたし名乗ってあげる。
私はホレスよ。『安眠の魔神』ホレス。
だから私の安眠を邪魔したあなたには一言文句を言ってやりたくて呼んだのよ」
え、僕何かした?
ここ最近、廃都に近付いたことは無かったはずだけど。
「あの、花火って言ったかしら。
ドッカンドッカンここまで響いてきたのよ!
まったく落ち着いて寝られやしないじゃないの」
「綺麗だったよねぇ。それと女神が慌てふためく様は笑えた」
そうか花火。
リアルだと慣れ親しんでて、祭がある=花火が上がる=爆音がするのも当たり前ってなるけど、こっちではそうはいかないか。
あ、じゃあもしかしたら王都でも何事かと騒ぎになってたのかも。
何かお詫びしておかないとマズいかな。
「事前に連絡しておくべきでしたね。すみません。
こちらお詫びになるか分からないですがお納めください」
「ハチミツ? ふぅん。まぁ今回だけは許してあげるわ」
アイテムボックスの中に残っていたハチミツを渡すと、ホレスさんは興味無さそうな様子で、しかし若干口角を緩めながら受け取ってくれた。
これでお咎めなしで済んだだろうか。




