154.天災に飛び込め
天災とは天空から齎される災いであり元々は落雷の事を指していた。
人々は轟音と閃光と共に落ちてくる落雷を見て、神がお怒りなのだと平伏した。
転じて今では人の手の届かぬ自然災害全般を天災と呼ぶ。
ではこの世界では?
『女神よ。随分と楽しそうなことをしているではないか。
どれ、私も混ぜて貰おう』
そんな言葉が空から響き渡り、直後、極太の雷が女神に落ちた。
その衝撃で雪像は蒸発し近くにいた人達も弾き飛ばされていた。
直撃を受けた女神は……自身の張ったバリアで無傷か。
怒りのこもった眼差しで声の主を見上げていた。
「宝飾竜。目を失って今も穴倉に引き籠っているのかと思っていました」
『そう言う貴様は腕は再生出来たようだな』
突如空から現れたドラゴンに他の人達は戦いの手を止めて様子を窺っていた。
モンスターでさえその威圧を受けて動かなくなっている。
宝飾竜のトトさんはゆっくりと降りてきて東側の観客席に着地した。
そこには魔神の2人が居るのだけど、彼らもまた知り合いのようだ。
「やあトリトストラント。久しぶりだね」
『友を失ったあの戦い以来か。あの時とは姿が少し違うようだが』
「僕達にも色々あったんだ。
ところで君はあの時目を失っていた筈だけど、その目はどうしたんだい?」
少年の質問に、何故か驚いた顔をする女神。
「どういうこと?
あなたの目は私が破壊して再生出来ない様に封印を施していた筈です!」
封印って、中々手の込んだことをしていたようだ。
ちなみに今のトトさんの目には琥珀のような宝石が埋まっていて、それが眼球の代わりになっているようだ。
あの様子なら普通に視えてそうだな。
『女神の封印なら女神の祝福で解けるのも道理とは思わんか?』
「まさか私の祝福を誰かから奪ったというの? 有り得ないわ!
祝福は私の許可なしには奪えるものでは無いのよ」
『ふっ。それが貴様の思考限界というものだな。
世の中には見ず知らずの私に無償で祝福を預けても良いと考える者がいる。
それに……いや、これは言うまい。貴様もまだ気づいていないようだしな』
どこか含みを持たせたトトさんの言葉。
周りで聞いている僕達に対しても、その隠された謎は自力で答えに辿り着けって言ってるんだと思う。
このゲームの目的は、ただ単純に女神の祝福を育てて自分だけの究極を手に入れることだと思っていたけど、実は女神すら気付いていない何かを探し出すことで真のエンディングを迎えられるのかもしれない。
ただ、それはきっとまだ先の話だ。
『それより今は折角の祭を楽しもうではないか』
「ふんっ。今度は目だけじゃなくその首ごと消滅させてあげるわ」
そう言うと女神とトトさんは飛び上がり激しいバトルを開始した。
高速飛行からの突撃と雷撃を駆使するトトさんに対し、女神はバリアとは別に魔法の盾を出してトトさんの爪を防ぎつつ強力な魔法を連発して応戦していた。
逃げ場がないような魔法の連射をトトさんは悉く避けきってみせた。
『この目のお陰で貴様の動きは手に取るように視えるぞ』
「それは元々私の祝福。返しなさい!」
『ふっ、人に渡した時点で既に貴様のではないわ!』
う~ん、激しい戦いの応酬で僕達は完全に観客となってしまっていた。
今のプレイヤーではあのレベルには到底並べない。
将来的に女神と戦うならこれくらい出来るようになれよって事なんだろうね。
ただ戦ってるふたりは周囲に気を配る余裕は無いようで、さっきから流れ弾が降ってくる。
その所為で闘技場の至る所に穴が開いていた。
このままじゃ闘技場が崩壊してしまうのも時間の問題だ。
まったく心配してた通りになったな。
ここが街中じゃなくて良かった。
そして僕らが介入するならこっちから意識が外れている今がチャンスかもしれない。
「フォニー、コロン。
ちょっと危ないけど、あの戦い止めよう」
「止めるってどうするんですか?」
「私の戦車で突撃してもどっちにもダメージは入らないと思うわよ」
心配するふたりに僕は今考えた作戦を伝えた。
危険な賭けではあるけど、今の僕達にはクリスマス人形の加護があるから失敗しても死ぬことは無いと思う。
僕の話を聞いて、保険が付いてるならとふたりは納得してくれた。
コロンが出してくれた戦車に3人で乗り込み、隣で様子を窺っていたミッチャーさんに手を振る。
「じゃあ行ってきます」
「ええ。気を付けてね」
改造された戦車に付いているアクセルを思いっきり踏み込むと、連動した魔石に魔力が送られてジェットエンジンのような音を立てて戦車は飛び上がった。
いや、いくら改造したからって、元はソリだったはずなんだけど親方凄いな。
まるで飛行機、いやミサイルだよ。
感心したところにコロンから注意が飛んできた。
「飛べるのは30秒だけよ」
「十分!」
今の速度なら女神の居る場所まで20秒もあれば辿り着ける。
だけど女神も接近する僕らに気付いたようだ。
トトさんに向けられていた魔法の一部が僕達に狙いを変えた。
一部と言っても30発を超える。
しかも1つ1つが特大級なのだから避ける隙間もない。
「流石の私でも防げるのは半分が精々よ!」
女神相手に頼もしい事を言ってくれるコロン。
そして半分も防げるなら十分だ。
「弾幕の薄い部分に突っ込むから正面厚めでお願い」
「分かったわ!」
この戦車では急旋回とか出来ないから僕の未来を見通す視力とコロンの盾を使っての強行突破だ。
ちょっとでもミスすれば戦車ごとバラバラにされそうな衝撃が何度も僕らを襲う。
「ラキア君、私は?」
「女神がビックリするような特大のを準備して」
ホイッスルを手にタイミングを見計らうフォニー。
そしてその時はすぐにやって来た。
「よし抜けたわ!」
「女神まであと10メートル。フォニー」
「はいっ」
ピィーーーーーッ
僕達には汽笛のような甲高い音。
しかし女神にはヘッドホンから最大出力で爆音を出した時のような衝撃が襲った。
「ぐっ!!」
女神は思わず耳を塞ぐけど、それくらいじゃフォニーの音は防げない。
それに耳を塞ぐために両手が塞がって攻撃も防御も疎かになった。
ここを狙わない手はない。
僕達はそのまま戦車を女神に突撃させた。
ガッ!!
激しい火花をまき散らし、しかし戦車は女神の手前1メートルの所で止められてしまった。
「これでもまだバリアはびくともしないか」
「腐っても女神ってことね」
「ならこれならどうだ!」
僕は戦車から飛び出してトトさんの短剣を女神のバリアに突き立てた。
すると硬めのゼリーにスプーンを刺そうとした時のような弾力を感じた直後、ズブリとバリアを抜けることに成功した。
(やっぱり)
女神はトトさんの攻撃を盾まで出して防いでいた。
だから同じトトさんの爪から作った短剣ならバリアくらいは抜けられると思っていた。
ただそれで女神に刃が届くかと聞かれたらそれは別問題。
スピードもパワーもない僕の攻撃なんて盾で簡単に防がれてしまう。
でもそれで十分。
『ふっ、隙だらけだぞ女神よ』
女神の意識が僕達の方に完全に向けられたところで反対側からトトさんが右手を振り抜いた。
これにはさすがの女神も慌てて距離を取ったけど、僕の目には女神の腕から流れるキラキラとした雫が見えた。
あれは女神の血か。
どうやらトトさんの攻撃を完全には避けられなかったらしい。
腕を押さえつつ女神が呻く。
「くっ、まさか私が傷を負わせられるとはね。
異界の人間たちを侮っていたわ。
この借りは次回、あなた達の祝福と共に清算させてもらうわ。
それまでせいぜい首を洗って待ってなさい」
捨て台詞を吐きながら上昇していく女神を、僕達は逆に落下しながら見送っていた。
いや戦車の燃料が尽きたのと、突撃の衝撃で車体が崩壊寸前なのだ。
まぁトトさんも追撃する気はないみたいだし、場を収めるという意味では十分かな。




