150.新年祭の下準備
翌日からゲーム内外問わずとある噂が流れ始めた。
『女神は自分が授けた祝福の成長具合を気にしているらしい』
『新年祭では各自の祝福を披露する場が設けられるのではないか』
『女神に直接祝福をぶつけるのが一番伝わると思う』
『新年祭は女神を中心としたバトルイベントになるのではないか』
『神様が降臨する時は大抵依代となるものが必要になる』
『冬イベントの雪像作りはその為のものだったんじゃないか』
などなど。
噂は憶測と伝言ゲームが入り混じり、のたうつ蛇のように変化して広がっていった。
これらの噂と、元々流れていた『女神を狙う組織が動くんじゃないか』などの噂が合わさった結果。
『新年祭は女神を相手にしたレイドバトルではないだろうか』
『戦場は最優秀賞に選ばれた女神の雪像を設置した場所になりそう』
『闘技場に雪像を置いけば心置きなく祝福スキルを披露できる』
という結論に向かっている。
そうなるように誘導した人物が居るとも知らずに。
その噂を流した張本人は現在、鉱山の町の工房にいた。
彼女の視線の先ではドワーフっぽい見た目のプレイヤーが先日のイベントで手に入れたソリの寸法を事細かに測っていた。
「どう親方。新年祭に間に合うかしら」
「Ver.0.3ってところだな」
親方と呼ばれたその人はコロンの質問に謎の数字を返した。
この人は【電光石火】チームに所属している純生産職のプレイヤーで自称メカニック。
周囲からは親方の愛称で呼ばれていると紹介してもらった。
「どういう意味?」
「本来の性能の1割ってところか。完成には程遠いって事だ。
女神とやり合うってんなら1回の突撃に耐えられるかどうかってレベルだな」
「そう。ちなみに完成したらどうなるの?」
「そりゃもちろん、馬より速く走り、鳥のように空を飛び、壁にぶつかれば壁の方が粉砕されるだろう。
武装だって付けるぞ!
ランスとバリスタは勿論、魔法を集束して放つレーザー砲も付けたいところだ。
まぁレーザー砲についてはまだ研究段階で実用化には程遠いんだけどな。
やはり物理や化学を無視した謎パワーにはリアルで培った常識が中々通用せんのだ。
他にも変形合体機能も付けたいし遠隔誘導機能や他にも」
「親方親方」
エンジンが掛かってトークを続ける親方の袖を引っ張って止める。
そうしないと何時間でも語り続けそうだった。
「自爆装置は付けますか?」
「勿論だ!」
「なんでよ!?」
「それがロマンってものだからだ(かな)」
やっぱり最後は華々しく爆発するのが様式美だと思うよ、うん。
問題があるとすれば、全壊させてしまうと再入手は来年の冬イベントまで待たないといけないところか。
「それよりここは俺ひとりでいいぞ。
お前達は新年祭で何かやらかすつもりなんだろ?
ならそっちの準備に行ってこい」
「うん」
「じゃあよろしくお願いします」
工房を後にした僕らは フォニーの居る王都の冒険者ギルドにむかった。
僕達がギルドの会議室に着くと既に各街のギルドの代表を集めての打ち合わせが進んでいた。
どうやら計画の概要は既に伝わっているっぽい。
「異界の冒険者については独自の連絡網により情報の共有に成功しています。
残る問題は中央広場の女神の雪像の移設が出来るか。王家や教会に式典を闘技場で行うことを承認させられるか。女神の敵対勢力やモンスターなどの襲撃者をどうやって闘技場に誘導するか。
これらについて何か良い案はありませんか?」
フォニーの呼びかけに幾つかの手が上がった。
「雪像の移設については問題ない。
元々中央広場に置かれるのも王都で王城前の次に見栄えが良い場所だからという理由だ。
今年は闘技場が出来たので『そちらの方が良い場所だ』と言えば通るだろう」
「式典についても同様です。
闘技場は先日の武闘大会の襲撃を受けて警備が厳重になっていることを伝えれば納得されるでしょう。
また会場に納まる人数も増えることも考えれば今後の大掛かりな式典はそちらで行おうという話にもなりそうです」
「問題は襲撃者の誘導か。
間違っても王都や各街に被害が出ない様にしなければ」
そこで発言は止まった。
やっぱり味方はともかく敵の行動までは把握も制御も難しい。
特に意思の疎通も出来ないモンスターともなるとこちらが予想もしない行動を取るかもしれない。
あれでも敵組織はモンスターを操ってるようにも見えたから何か手があるのかな?
少なくとも僕らを含めここにいるメンバーで知ってそうな人は1人しかいない。
というか、あの人は何でここに居るんだ?
諜報活動? まぁ折角だから話を聞いてみるか。
「どうにかなったりしませんか、シェイドさん」
「ふむ。やはり気付かれていたか」
会議室の隅にこっそり立っていたのは勇者チームの元暗殺者。
僕に呼びかけられても驚いた様子はない。
まぁ僕の祝福そのものは知らなくても探索能力が高いのはバレてるか。
他の室内の人達は言われて今気づいたようで驚いてシェイドさんを見ていた。
「で、どうですか?」
「奴らの耳はそこかしこにある。
分かりやすい餌を蒔いておけば食いつく可能性は十分あるだろう」
「餌?」
モンスターって何食べるんだ?
と思ったけど違った。
「例えば警備にわざと穴を作っておいてその情報をリークするとかだな」
餌は餌でも撒き餌の方だった。
それと直接モンスターを誘導するんじゃなくてそれを管理する組織に使うようだ。
「リークする相手の組織はどうやってモンスターをコントロールしてるんですか?」
「さあな」
知らないのか知っててとぼけてるのか。
ま、どっちでもいっか。
僕らがモンスターを扱うこともないんだし。
あ、いや、そういう祝福を持ってる人は居るかもしれないのか。
祝福:【魔王】とか祝福:【魔物使い】とか。
まだ会ったことは無いけど普通にありそうだ。
というか敵組織にそういう人が居るのかも。
まぁそれは今はいいや。
「では、闘技場の東側出入口の警備を薄くするのはどうでしょう。
襲撃があった場合は西側出入口から来賓の方々を逃がすようにすれば全方位を満遍なく警備するよりも安全を担保出来ると思います」
「なるほど、それは悪くないな」
「王都は西側だから避難も容易か」
そこからも無事に会議は進み、大まかな計画は出来た。
これで後は僕らが口出ししなくても当日は上手く進行してくれるだろう。




