148.祝福か災いか
今年の新年祭は女神が姿を現すという事で、国を挙げてのお祭り騒ぎ。
になるかと思えばそんなことは無かった。
街の人達の様子はわくわくしている人も居れば、ハラハラしている人も居る。
残りの人はそっと息を潜めてる感じだ。
それはまるで今夜は台風が接近するって予報があった時のようだ。
つまり少年達は非日常の瞬間を楽しみにし、大人たちは慌てて壁や屋根の補修をしていたり、王都とは反対方向に出発する行商人の姿も多く見かける。
一体なぜそんな状態になってるんだろう。
「フェルトさん、何か知ってますか?」
「はい。実は女神は物見遊山で地上に姿を現す訳ではありません」
「きちんと目的があるって事ですか」
「そうです。前回確認されているのは2つ。
1つは才ある若者に新たに祝福を授けるというもの。
そしてもう1つは既に祝福を授けた者に、その成長に合わせて褒美を配るというものです」
そっか、それでこの世界の子供たちが自分も何か祝福を貰えるかもしれないと思ってわくわくしてたのか。
僕達プレイヤーは既に祝福を貰ってるから2つ目の奴かな。
1年間の頑張りが認められるのは嬉しい話だ。
あれでも、それだと大人たちが慌ててる理由にはならない気がする。
「もしかして、それだけじゃ終わらない感じですか?」
「はい、その、女神が姿を見せるときは毎回のように何かしら事件が起きてまして。
最近は特に女神に敵対する組織の活動が活発になっていたりもしましたから。
間違いなく女神を狙った何かが起きると考えられます」
「言われてみれば魔神を復活させようとしてた奴らの目的も女神に対抗するためでしたっけ」
夏の廃都の誘拐騒動や魔神を復活も、秋にも従魔を集めて魔神を復活させようとしてたのも。
あれ、結局2人目の魔神は復活したんだっけ。
運営曰くボイコットしたって話だから目覚めてはいるんだよね。
勇者チームも女神に恨みがあるっぽいし、トトさんも因縁があるっぽかったし。
こうして考えると女神ってめちゃくちゃ方々から嫌われてるなぁ。
「じゃあ冒険者ギルドも女神の護衛に動くんですか?」
「冒険者ギルドはあくまで中立です。市民の安全の為だけに行動します」
なるほど。
とは言っても今の流れだと女神が降り立った場所が戦場になる可能性が非常に高そうだ。
そして女神は王都に来る予定らしい。
なら新年のイベントのメインは王都防衛戦。失敗すると王都滅亡ってこと!?
これはもう、女神の祝福がどうのと浮かれてる場合じゃない気がする。
僕はフォニー達に連絡を取って情報を共有することにした。
「それでしたら私も噂は聞きました」
「掲示板では既にモンスターの襲撃があるって確信してるみたい」
僕よりも情報通な人は沢山居るしトップ攻略チームの人達が先頭に立って指揮を執ってくれるようだ。
なら別に僕達が慌てて動く必要は無いかなって思う。
ただしそれは街の人達に被害が出なければの話だ。
「襲撃がある前提の話だけど、戦場を少しでも王都から離せないかな」
「敵の狙いは女神ですから、女神の出現場所を変えられたら可能性はありますけど」
「……」
「プレイヤーの一存で女神を動かすのは難しいよね」
相手は女神だ。
ちょっとそこ迷惑なんで脇に避けて貰えますか、なんて言えるわけがない。
それに王都の防衛をさせること自体が女神の狙いという可能性もある。
その防衛の様子を見て僕達の祝福の成長具合を評価したいのかも。
もしそうならプレイヤーどころか教会であっても交渉は無理だろう。
「じゃあ僕らが出来るのは王都周辺のモンスターを間引いておくくらいかな」
「いえ。それは意味が無いです。モンスターは基本幾らでも湧きますから」
「……」
「コロン?」
先ほどからコロンが何か考え込んでいるんだけど、何か気になる事でもあっただろうか。
「女神の出現場所だけど、もしかしたら動かせるかも」
「ほんと!?」
「流石コロンちゃんですね」
「あ、いや。まだもしかしたら、だから」
それでも凄いと思う。
僕は何も手が思い浮かばなかったのに。
じゃあ女神についてはコロンにお願いしよう。
もちろん僕も出来ることはするからね。
「あとはどうしようか」
「そうですね。これまでの季節イベント同様、限定クエストを探すのも良いと思います。
もしかしたら防衛に役立つ何かが見つかるかもしれませんし」
「確かに何かありそうだね」
今から遠くに行くことは出来ないので最初の街か王都辺りで探すことになるけど、どちらもまだ通ったことない道は沢山あるので3人で探検しに行くのも楽しそうだ。
地元の人しか知らない隠れた名店とかもありそうだし。
「よし、じゃあ早速裏道の散策に行こう」
そうして僕らは人通りの殆どない裏道へと踏み込んでみたんだけど。
当然そういう道は治安も宜しくない訳で、早速フードで顔を隠した4人組に道を塞がれてしまった。
「少し話がしたい」
「その声は確か勇者チームの」
「しっ!」
「えっと、お勧めの喫茶店を教えてくれるなら良いですよ」
「……付いてきてくれ」
何やら訳ありっぽい。
黙って後を付いていくと大分年季の入った喫茶店に到着した。
中に入って一番奥の横並びの4人掛けテーブル2つに座ったところで彼らはフードを外した。
現れたのはやっぱり勇者チームの4人。
ちなみに店内には店のマスター以外誰も居ない。
「この店は外部から遮断されてるから安心してほしい」
いや何を安心しろというのか。
「それでお話と言うのは?」
「あぁ。単刀直入に言おう。
新年祭が終わるまで王都から離れ、出来れば山奥などに隠れて欲しい」
新年祭に参加するなって事か。
勇者チームが女神を敵視してることから、俺達はモンスターと一緒に女神を襲撃するから邪魔するなって事かな?
「今の君たちでは女神に太刀打ちできない」
違った。
なぜか僕らも女神と戦うことになってる?
一体いつからそんなルートに入ったんだろう。
「あのすみません。僕らまだ女神と戦う気はないんですけど」
「そんなことは関係ない!」
「ちょっと」
突然語気を荒げるリーダーに、見かねて隣に座っていた魔法使いの女性が割って入った。
「ごめんなさいね。彼は過去に色々あって気が立ってるの」
ぺしぺしと頭を叩くと若干落ち着いたっぽい。
「すまない。少し焦り過ぎた。順を追って話そう。
君たちは女神が人間に祝福を授ける理由を知っているか?」
理由? え、ゲームだからじゃないのかな。
でもそれならこの世界の人にも祝福を授けてることの説明にならないのか。
神様が人に力を授ける理由って言うと、その力で世界を救え的な?
でも別に魔神に世界が滅ぼされそうになったって話は聞かないし、過去の大戦以降も祝福を授けてるっぽい。
じゃあ何だろう。
「まさか女神の暇つぶしとか?」
「ある意味そうなのかもな。
正解は実験と養殖。寄生とも言える」
「人間を使って?」
「そうだ。女神は祝福と称して俺達に種を植え付ける。
俺達は何も知らずにその種を自分なりに異なる花、異なる実が出来るように育てる。
女神の祝福は本来100人に1人くらいしか与えられない。
与えられた者はそれはもう全身全霊で育てようとするだろう。
そして、十分に育ったところで女神はそれを奪い自分の糧にする。
残されるのは人生の大半を捧げたものを奪われて抜け殻のようになった俺達だ」
その説明に勇者チームの全員が静かに頷いた。
つまり彼らもその被害者だということか。
なるほどそれで女神を憎んでいるのか。




