14.街に帰るまでが大変らしい
クマハチを討伐して見事その巣からハチミツを回収してきた帰り道。
僕の隣でフォニーが思い出したように笑っていた。
「くすくすくす」
「まだ笑ってるし」
『だって「ふぎゃ」って』
どうやら完全にツボに入ってしまったらしい。
フォニーが笑っているのはクマハチと戦ってた僕のことだ。
クマハチ2体を引き離すために僕が囮になって逃げまわってたんだけど、案の定盛大に転んでしまった。
その時に出た声がフォニーのところまで聞こえてしまったらしい
「リアルだと走ったことなんて無いし、こっちでもまだ練習中なんだよ」
『ごめんなさい。
頑張ってくれたのに笑ってちゃ悪いですよね』
僕がぶすっとしたのを感じて謝ってくれた。
まあ別に怒ってるわけじゃないけどね。
って、まだ笑いをこらえてるし。
『ところでラキア君はレベルいくつになったんですか?』
「別に今回はモンスター倒してないしほとんど変わらないと思うけど」
道中で遭遇したモンスターもクマハチも倒したのは全部フォニーで、僕はボウガンで牽制したり邪魔したりが主だった。
だからそんなに経験値は入ってないと思うけど。
『
名前:ラキア
職業:探索者(14)
祝福:視力(4)
技能:短剣(5)ボウガン(7)薬草学(4)騎乗(3)隠密(2)
』
(え?)
「探索者レベルが14に上がってる。どうして?」
『多分パワーレベリングになっちゃったんだと思います』
パワーレベリング。
強力なパーティーメンバーの力を借りて本来であれば自分の身の丈に合わないレベルのモンスターを倒すことで一気にレベルを上げる手法だ。
確かにフォニーはレベル30だって話だし、クマハチの推奨レベルは20以上。道中で遭遇したモンスター達もレベル15以上だと考えれば納得だ。
「全然役に立ってなくても経験値って入るんだね」
『うーん、それはラキア君が自分のことを過小評価してるだけだと思う。
実際今回の冒険はすごく楽でしたし』
「ならよかった」
『ただパワーレベリングし過ぎるとスキルレベルが伸びないから注意が必要ですよ』
「そう?」
それにしては色々とスキルレベルも上がってる気がする。
ボウガンはまぁ沢山使ったから上がっててもおかしくないけど短剣なんてクマハチの攻撃をいなすためにしか使ってない。
それなのにレベルが3も上がってるのは十分すぎると思う。
他にも薬草学だって道中に見つけた薬草を採取しただけで上がってるし。
「それより『ランニング』とか『ダッシュ』みたいなスキルがあれば良いのに」
『祝福ではそういうのもあるらしいけど』
それも祝福かー。
視力の件が無ければそういう祝福も欲しかったな。
「でもまぁ視力と違って走るのは練習すれば良いだけだし頑張っていくよ」
『うん。それなら私も手伝えると思うし早速この後試しましょうか。笑ったお詫びもしたいし』
「試す?」
なにやら嫌な予感がするけど、ともかく森を抜け出てきた僕達。
あとは馬に乗って街まで帰るだけなんだけど。
『ラキア君は馬を出さなくていいですよ』
「えっと」
そういってフォニーが自分の馬を呼び出した後、ロープを取り出して馬と僕を繋いだ。
「あのぉ、フォニーさん?」
『じゃあ頑張っていきましょうね。
この特訓方法ならすぐに上達するらしいから!』
「ちょ、僕の話をぉぉぉ~~」
フォニーが馬を走らせれば、当然それに繋がってる僕も引っ張られる。
ってもしかしなくてもこれで走る練習をしろって事なの!?
いや流石にフォニーも全速力で馬を走らせたりはしてないけど、これは無理じゃないかな。
『レベルアップで全体的な身体能力が上がってるから大丈夫大丈夫』
「いや全然大丈夫じゃないと思うんだけどっ」
「ふぁいと~」
たとえるなら軽自動車にレーシングカー用のエンジンを積んでみたとか、いやレーシングカーをペーパードライバーに運転させてるって言った方が近いかな。
なんて考えてる場合じゃなくてとにかく動け僕の足!!
フォニーの声援が僕に色々バフを掛けてくれてるっぽいけどステータスより僕のプレイヤースキルの問題だから。
気合で転ばないように、ただそれだけを考えて足を動かし続ける。
これゲームの世界だから良いけど、リアルだったらすぐに息切れして足が追い付かなくなって引き摺られてたと思う。
いやそれなんていう拷問?
そんな疑問を抱いたのは残念ながら僕だけでは無かったらしい。
「そこの君。止まりなさい!」
『??』
街の入口が見えてきたところで揃いの甲冑を着た騎士団が道を塞いでいた。
フォニーも何事かと馬を止めてくれたので僕としてもようやく一息つくことが出来た。
で、これはいったい何事? まるで危険な犯罪者を待ち構えているかのような状態だけど。
と思ってたら隊長っぽい人が前に出てフォニーに話しかけてきた。
「君が通報にあった、いたいけな少年を縄で縛って馬で引き摺り回すという恐ろしい拷問を行っている少女だな!」
『??』
あ、まずい。
フォニーは隊長さんの言葉を理解出来てない。
早口の上、普段使わない言葉が多いから、まだ音と言葉を結びつけるのに苦労している段階のフォニーでは何か怒られてるってくらいしか伝わってない。
ここは僕の出番だ。
「あの、すみません!」
「おぉ、少年。無事だったか」
僕の顔を見て若干緊張を緩めたっぽいけど、腰に巻かれている縄を見てやはりかとフォニーを睨んだ。
「やはり。可愛い見た目で何と恐ろしい所業だ!」
「あわわ、誤解があるようなので!
僕から説明をさせて頂けないでしょうか」
拷問を受けていた筈の少年が必死に何かを訴える姿を見て何か訳アリだと思ってもらえたらしい。
問答無用で牢屋行きだ!とはならなさそうな雰囲気。
「実は今回のは半分僕からお願いしたようなものなんです。
僕は走るのが苦手で、どうやったら上手く走れるようになるだろうかと相談した結果なんです」
「つまり拷問ではなく訓練だったと。
しかし走る訓練なら他にいくらでもあるだろう」
「そこは何というか、行き過ぎた友情が爆発した、みたいな?」
以前聞いたアニメでは主人公を愛したヒロイン天使が愛するあまり主人公をバットで撲殺するとかなんとか。
愛情も友情も取扱注意ってことらしい。
僕の言葉を聞いた隊長さんは僕とフォニーの顔を交互に見た後、僕の肩に手を置いた。
「強く生きろよ少年」
「は、はぁ」
なぜか励まされてしまった。
ともかく騎士団の皆さんは問題なしということで帰っていった。
残されたのは困り顔のフォニー。
『何かまずいことしちゃったのよね?』
「まずいというか、ハード過ぎたんだと思うよ。見た目も良くなかったし。
それよりフォニーはどうしてこの訓練方法を選んだの?」
『この前読んだ漫画ですごくいい練習法だって言ってたから。
ラキア君もレベル上がったし私のフォロー付きなら出来るかなって』
あーなるほど?
これが現実だったら「漫画と現実を混ぜるな」って言われそうだけどゲームの世界だからむしろ漫画で出てきたやり方の方が合ってる可能性もあるかもしれない。
ただ出来ればもうちょっと段階を踏んでお願いしたいところだ。
ストックが全然溜まらない。
ネタをパクッテる場合じゃないのですorz