136.全速力で滑り降りろ
雪の積もった斜面をソリに乗って滑走していく。
新雪に太陽の光が反射してちょっと眩しい。
「右」
「はい」
「左左、戻して右」
「はいよ」
前の席に座って半透明にした盾をサングラス替わりにしてるコロンから短く指示が飛び、それに合わせて後ろの席に座った僕がブレーキレバーを操作していく。
「今ってどれくらいの速度なんだろう」
「さぁ。100キロくらい?つぎ右」
順調に滑り続ける僕達だったけど、他の参加者の姿は見当たらない。
もうずっと先に行ってしまったのかそれとも。
『ぎゃああ~~~』
どっかーんっ
少し離れた林の中から悲鳴と衝突音が聞こえて来た。
どうやら最短コースを選んだ誰かが事故ったらしい。
「やっぱり遠回りコースを選んでよかったね」
「そうね。というかあっちは絶対罠でしょ」
実は僕達、優勝は諦めてます。
というのも、スタッフの人に「入賞って何位までですか?」って聞いた結果「21位までです」って答えが返ってきたから。
今回のレースの参加チームは21チーム。
つまり入賞というか完走することがこのレースの目標らしい。
そのうえで優勝者にはトロフィーが授与されるらしいんだけど、そのトロフィーに記念品以上の価値は無さそうなのだ。
それなら無理して危険を冒す必要ないよねって事で安全なコースを選ぶことにした。
「でもこれどうなのかしら」
「ん?」
「障害物だらけで速度の出ない最短コースと、距離は長いけど速度の出るコース。
所要時間はどっちが短いと思う?」
「どうだろう。さっきの悲鳴がほぼ真横から聞こえて来たしなぁ」
林の中でも速度を落とさず走れるベテランドライバーなら別なんだろうけど、今回の参加者でそんな人いるだろうか。
僕らは運転免許すら持ってない学生だしソリに乗るのだってこれが初めてだ。
さっきからちょいちょい速度を落とすためのブレーキも掛けてるけど、林の中を突っ切るより速いと思う。
この調子なら向こうを走ってる人より早くゴール出来てしまうかもしれない。
なんて。
この競技がそんな楽をさせてくれるはずも無かった。
「え、まさか動く壁?」
まだ距離があるけど、僕らの進路上に立ちはだかる幅1メートルくらいの金属の壁が数枚。
それがゆっくりとではあるけど確かに動いていた。
止まっている木を避けるのだってブレーキ調整が難しいのにどんだけ難易度高いんだ。
その壁が僕らの方をゆっくりと振り向く。
「あれゴーレムだ」
「そういうこと!?」
僕らに気が付いたゴーレム達は緩慢な動きで腕を振り上げた。
やっぱりゴーレムも寒いと動きが鈍くなるのかな?
幸い最初の2体は腕を下ろされる前に横をすり抜けることに成功した。
「速度落とす?」
「駄目よ。そうしたら奴らに捕まる」
いくら動きが緩慢だと言っても、こちらも減速すれば捕捉される危険がある。
なら無理をしてでも最速で走り抜ける方が安全か。
「ソリが倒れそうになったら身体を反対に倒してバランスを取って」
「了解、うわっと」
ずごんっ
ゴーレムが雪の地面を叩くと雪がめくれ上がり僕らの乗ったソリも持ち上げられた。
一瞬の滞空時間の後に地面に着地したけど転倒しなかった自分達を褒めてあげたい。
そして5体6体とゴーレムを避けた先にひと際大きなゴーレムが待ち構えていた。
そのゴーレムを見たコロンの目がギラリと光った。
「ラキア」
「なに?」
「正面突破するわよ!」
「ええっ!?」
コロンの言葉に驚きはするけど、反対も拒絶もしない。というかする暇が無い。
瞬きする間にもゴーレムはぐんぐん近づいてくる。
って、あのゴーレム魔鋼製だ!
忘れもしないフランが休眠状態になる原因を作ったゴーレム。
(そうか。それでコロンも闘志を燃やしてるのか)
いやでも勝算はあるの?
前回は打つ手が無くて逃げることしか出来なかったのに。
そんな僕の心配をよそにコロンが両手を前に突き出すように構えた。
「カガミ行くわよ。『雷盾』」
バリッ!
コロンの突き出した手から青い稲妻の盾が生み出されゴーレムの胴体に巨大な風穴をぶち開けた。
そこをすり抜けていくソリ。
あっという間に魔鋼製ゴーレムは僕らのはるか後ろに行ってしまった。
「どう?私だって負けっぱなしじゃないのよ!」
「うん、凄いね!」
というか凄すぎじゃないだろうか。
あれはもう盾というより槍だったと思う。
流石僕らの盾アタッカーだ。
コロンのコートの中から一瞬顔を出した従魔のカガミも得意げだし。
と思ったらすぐにまたコートの中に隠れてしまった。
やっぱり蛇だから寒いのは苦手ってことなんだろう。
「あ、ゴールが見えて来たわ」
「ならラストスパートだね」
麓にスタート地点の会場が見えてきた。
間にゴーレムも障害物も無し。
これでもう僕らのゴールを邪魔するものは何もないかな。
そんなことを考えてたら後ろの林からソリが1台飛び出してきた。
「っしゃあ! 抜けたぜ!!」
「ちっ。前に1台居やがる。加速して抜かすぞ『ウィンドストーム』」
風魔法を自分たちの後ろに放って反動で加速させていた。
ゴールまでの距離は僕らの方が近いけど、このままだと抜かされるかもしれない。
『おおっと、本大会では珍しく優勝を掛けた激しいデッドヒートが繰り広げられております。
果たして勝利の栄冠を手にするのはどちらのチームか!?』
ゴールまで残り100メートル。
司会の言葉からここで頑張れば優勝出来る可能性があることが分かった。
なら最後のひと踏ん張りだ。
「ラキア、分かってるわね!」
「もちろん。どりゃああっ」
僕にしては珍しく気合を入れた声を出しつつ手に力を籠める!
そして。
『ゴール!!』
「「わああああっ!!」」
湧き上がる歓声と悲鳴。
ゴール直前で僕らを負い抜かしたその人達は、ゴールテープを切った後も止まることが出来ずに会場奥の壁をぶち抜いて行ってしまった。
それを見送りながら僕らはゆっくりとゴール。
「車はすぐには止まれない。滑る雪の上ならなおさらだよね」
「こういうのを試合に負けて勝負に勝ったっていうのかしら」
大会の成績は2位になったけど、元から優勝を目指してた訳じゃないから何の問題も無い。
この後は表彰式とかは無いそうなので、ここまで乗ってきたソリを貰って解散だ。
「ラキア。このソリ貰ってもいいかしら」
「うん、もちろん。それとライト点灯用にマッチも1箱あげる。
でもそのソリどうするの?」
「改造すればちゃんと戦車として使えるようになるかもしれないから工房に持ち込んでみるわ」
おぉ、自作の改造戦車とか、ちょっと心躍る奴じゃないか。
それにさっきの『雷盾』もそうだけど、盾を構えた状態で突撃出来るようになるとコロンの戦闘力が跳ね上がるからそっち方面でも期待できる。
「そういえばクリスマスプレゼントの人形って作ってる?」
「材料は揃ったから、あとは組み立てるだけね。ラキアは?」
「数体分は出来たんだけど、まだまだ足りない感じ」
「なら私の余ってる部品あげるわ」
「ありがとう」
軽い感じで言われたのに、いざ貰ってみると凄い大量の材料を貰ってしまった。
これなら明日にでも組み立てながら皆に配って回れそうだ。




