134.雪山トライアスロン
フォニーのイチゴ集めを手伝った2日後。
今日はコロンから協力依頼が届いていた。
『2人1組で参加するイベントがあったから手伝って』
だそうだ。
昨日は防寒具一式を買った後は1日中プレゼントの素材集めをしていたので気分転換になって助かる。
待ち合わせ場所は鉱山の町に近い山の麓で仮設の競技場のようなものが造られていた。
「おはよう、コロン」
「ん。今日はよろしく」
コロンと短く挨拶を交わしつつ周囲を確認すれば、僕達と同じイベントに参加するのであろう気合の入った2人組が20組と、観客席に数百人の人が僕らを指差してはああでもないこうでもないと話し合っている姿が見えた。
「会場の雰囲気からして、何かのレース?」
「そうらしいわ。あ、どうやら始まるみたい」
会場の正面に用意された檀上に厚手のコートを着た男性が立った。
「えー皆様。本日は雪山トライアスロンにご参加いただきありがとうございます。
この競技はかつて戦車の勇者が考案された鍛錬法が元になっております。
つまりこの競技に勝てば皆様も勇者様の力にあやかれるという寸法です。
入賞者には本競技で使用する戦車を進呈致しますので頑張ってください」
ここでも勇者が絡んでくるらしい。
まぁこの世界のクリスマスは勇者にちなんだものらしいから仕方ないか。
ただちょっと気になるのは、この場には戦車の姿が無い。
「戦車はどこにあるんだろう」
「トライアスロンだから、第2区画か第3区画にあるんじゃない?」
トライアスロン。つまり3つの種目の複合競技。
いったいどんな3種目なのか、続く説明に耳を傾けた。
「さて、競技の内容をご説明いたします。
まず第1区画。こちらはチームメイトを肩車して走破して頂きます。
そしてただ走るだけではございません。
観客の皆様から応援の雪玉を投げて頂きます。
皆様は雪玉に当たるのは問題ありませんが、チームメイトを地面に落とした場合は失格となります」
「肩車って、僕らが車ってことか」
「応援と言いつつただの妨害でしょ」
なかなかに凄い(酷い?)競技内容だ。
いや、鍛錬だと考えればむしろ雪玉なのはぬるいのか?
首を傾げている間にも説明は続く。
「第1区画のゴールには戦車が用意されています。
第2区画はこの戦車を引いて山頂に向かって頂きます。
その際、第1区画で肩に乗っていた人は戦車の荷台に乗って頂き、もちろん戦車から落ちたら失格です。
あ、こちらは観客からの妨害はありませんのでご安心ください」
「妨害って言っちゃったよ」
「はっきり言ったわね」
周りの誰も突っ込まないからこれは多分例年通りの事なんだろう。
「そして最後の第3区画。
こちらはふたりで戦車に乗って山頂からここまで戻って来てゴールとなります」
「あ、なんか最後だけ楽そう」
「絶対何かあるでしょ」
「なお、戦車の体感速度は馬の数倍と言われていますので、途中の木々や岩に衝突しないようにくれぐれもご注意ください」
「それ普通に死ねる奴」
「ほらぁ」
流石勇者の鍛錬法なだけはある。
この調子だと第2区画もただ山を登るだけでは無いのかもしれない。
「ごめんなさい。こんな変なイベントに誘ってしまって」
「気にしない気にしない。所詮ゲームだしね」
「第1区画は私が肩車するから」
申し訳なさそうに言うコロンだったけど、それについては僕は両手で×マークを示した。
「それはダメと言うか、いろんな意味で無理だよ」
「どうして?周囲の目とかは気にしなくて良いわよ」
「それもあるけど、それだけじゃないから」
ちらりと目線で周囲を見るように促す。
それを見てコロンも他の出場選手や観客を確認して1つの事実に気が付いた。
「ほぼ男性ね」
「うん。女性はコロンの他に選手で1人居るだけ。
そしてさっきから周囲の視線が僕とそっちの選手に集中してる。
嫉妬と殺意が入り混じった視線が、ね」
その視線が意味するところは1つだろう。
『見せつけやがって。羨ましいぞ死ね!』
である。
間違いなく第1区画の妨害は僕達2チームに集中することだろう。
それに投げてくる雪玉も普通の雪玉とは限らない。
氷入りの雪玉とか小石入りの雪玉みたいな悪質なものから、時速300キロを超える球速で飛んでくるとかも十分考えられる。
それを肩車してる状態で全部避けるのはほぼ不可能なので防ぐ必要があるだろう。
だからコロンには盾で守ってもらう必要があるので両手が塞がる乗せる側になってもらっては困るのだ。
コロンも同じ結論に至ってくれたようで小さくため息をついている。
「それにリアルだと僕もそこまで体力無いから厳しいけど、ここでならパワーも十分あるし大丈夫でしょ」
「分かったわ。でも無理だと思ったら言いなさいよ。
別に棄権したって全然構わないんだから」
「うん、ありがと」
スタート位置に移動した僕はしゃがんでコロンに跨るように促すと、コロンは恐る恐る僕の頭を挟むように乗った。
ちなみに乗られ心地は、肩に布を巻いた段ボール箱を担いでるような感触。
要するに人の柔らかさは微塵も感じられない。
この辺はセクハラ防止機能などが働いた結果だろう。
なので見た目に反して役得感は無いんだけど、観客席からの殺気が強くなったのは気のせいでは無いだろうなぁ。
「それでは、位置について、よーい」
ピーッ!
司会のホイッスルの合図で走り出す僕達。
……ホイッスルって本来ああやって使うものなのか。なんて場違いな感想を抱いてしまった。
コース上には雪が結構積もってるのでダッシュで走り抜けることは出来ず、1歩1歩ズボズボと雪に足を取られながらの移動となる。
道なんてものは無いけど、代わりに順路を示すポールが立っているので迷子になる心配は無さそうだ。
「来るわよ!」
コロンの声にはっと意識を集中すれば左右から飛んでくる雪玉の姿が視えた。
(今視えているのは恐らく数秒後の玉の位置、だけじゃないのか)
祝福の影響で雪玉が現在の位置と数秒後の位置のダブルで視えている。
これはもう避けるとか絶対無理だな。
雨あられと降り注ぐ雪玉の嵐。
いや自分で言ってて雨なのか霰なのか雪なのか嵐なのか、日本語って難しい。
とにかく予想通り僕らともう1組の女性の居るチームが集中して狙われている。
「ラキアは走ることに集中して」
「うん!」
肩に乗るコロンが両手に盾を持って雪玉から僕を守ってくれる。
実に頼もしい。
カキンッ!
「は?え、今のは槍?」
雪玉に交じって鉄球とか槍とか凶器が雪に隠すことなく投げ込まれて来た。
「ちょっと。雪玉以外は反則じゃないの?!」
『ご安心ください。そちら『雪玉』という銘の投擲具となっております』
スピーカーらしきものから司会者の声が聞こえて来た。
どれどれ。あ、本当だ。槍の柄に『雪玉』って彫ってある。
ってそれで納得出来る訳無いだろ。
「きゃああっ」
『おおっとここで早くも1チーム脱落です!』
僕らの少し前を走っていた例の女性を連れたチームが雪玉とは名ばかりの爆弾に吹き飛ばされてしまった。
それを見たコロンがぶちッと切れた。
「そっちがその気ならこっちにも考えがあるわ。
『反射シールド』」
カカカカンッ!
コロンの盾に当たった自称雪玉達が綺麗に180度方向転換して投げた人の元に飛んでいった。
観客席で悲鳴が上がるけど、まぁ自業自得としか言えない。
だって普通に雪で作った雪玉は盾に当たったら砕けてしまうので、観客席まで届くのは全部雪以外の何かだ。
その惨状を見て、流石にそれ以降は僕らには雪玉以外は飛んでこなくなった。




