131.クリスマス用ダンジョン
今日はログインするとフォニーからメールが届いていた。
どうやらダンジョン攻略を手伝ってほしいらしい。
僕の予定はと言えば、マッチを売る件はまだ日数あるし大丈夫だろう。
クリスマスプレゼントの素材もモンスターを倒してれば手に入るだろうから手伝いながらでも大丈夫。
ということで何の問題も無し。
まぁ多少問題があったとしてもフォニー優先だ。
僕はOKの返事をしながら合流場所へと向かうことにした。
(戦えるようなっててよかった)
ダンジョン攻略ってことは間違いなくモンスターとの戦闘があるだろう。
もしこれでトトさんに祝福を預けた直後の状態だったらフォニーの足を引っ張る所だった。
今は対処法を見つけてから順調に命中率を上げ、と言ってもまだ1発目は曲げないと当たらないんだけど、でも追撃で2発目を放てば綺麗に当てられるようになった。
やっぱり1発目でモンスターの動きが若干止まるのが良いらしい。
合流場所では既にフォニーが待っていて僕を見つけると小さく手を振ってくれた。
「お待たせ」
「いえ、来てくれてありがとうございます。
それでは早速行きましょうか」
挨拶をしながら周囲を確認してもコロンの姿は無い。
ログインはしてるっぽいけど別件で忙しいとかかな?
「ダンジョン攻略って話だったけど、どんなところなの?」
「冬イベント専用のダンジョンみたいなのでまだ分からないんです。
受けた依頼の内容は『ダンジョンの奥に行ってケーキに使うイチゴを入手してきて欲しい』です」
「クリスマスケーキと言ったらやっぱりイチゴのショートケーキなのか」
「そうみたいです」
世界の七不思議とまでは言わないけど、クリスマスという真冬に春の果実であるイチゴを大量に使ったケーキがなぜ定番なのか。
まぁ今の時代はハウス栽培を通り越して室内栽培で年中収穫できるらしいけど、昔はどうしてたんだろう。
「フォニーも家でクリスマスケーキ食べたりするの?」
「いえ、両親が甘いもの苦手なので、代わりにローストチキンを焼きます」
「あの鳥を1匹丸々使ったやつ?」
「そうです」
「凄いなぁ」
あれはてっきり外国の大きなオーブンを標準装備してるご家庭専用の料理なんだと思ってた。
まさか日本国内で作ってる家があるとは。
もしかしてフォニーって結構お金持ちの家なのだろうか。
あ、いや。そういう詮索は良くないな。
「あと我が家では飾りつけを頑張ってますよ」
「クリスマスツリーとか?」
「それもありますし、庭に電飾で光るサンタやトナカイを飾ったりとかですね」
「そうなんだ。うちはそう言うのしてないから、こういう話を聞いてると家によって色々違うんだなぁって思うよ」
まぁうちの場合は僕が目が見えない関係で控えてるっていうのはある。
僕が生まれる前のお姉ちゃんが小さい頃はクリスマスツリーとかも飾っていたらしい。
もしかしたらフォニーの場合、耳が聞こえない分、目で楽しませるものに力を入れてるのかも。
「王都ではそういう飾りつけをして欲しいって依頼がいくつかの店舗から寄せられてましたよ」
「そうなのか。それはきっとセンスが問われるから僕は遠慮しておこうかな」
そんな雑談をしながら移動してるとダンジョンの入口が見えてきた。
岩壁に付けられた両開きの木製の扉。
その上にドドンと看板が付いていた。
【2人専用ダンジョン:紅白ベリー農場】
なにやら丸文字っていうのかな。
ちょっと可愛らしい字体でこれなら高難易度ダンジョンではないだろう。
ただ気になるのは、
「2人専用ダンジョン?」
「そうらしいです」
あ、だからコロンが居なかったのかな。
もしくは先にコロンに声を掛けて都合が付かなかったから僕が呼ばれたって可能性もありそう。
いずれにしても戦闘メインというより2人で協力するアトラクション要素が強そうだ。
「とにかく入ってみようか」
「はいっ」
気合を入れて扉を引き、って押しドアだった。
こういうのって大抵外開きじゃないの?って思うけどゲームだからなぁ。
ともかく中に入った僕らの目に映ったのはしんしんと雪が積もった銀世界。
洞窟っぽい入口だったのに普通に青空が広がってるし、雲も無いのに雪が降ってる謎空間だ。
そしてギリギリ2人が並んで歩けるだけの道は出来てるんだけど、それ以外は膝くらいまで雪があって道を外れるのは躊躇われる。
「ひとまず危険は無さそう?」
「はい。モンスターも襲ってくる様子は無いみたいです」
視線の先では雪の上に小さな足跡を残しながらウサギとか赤毛のリスとかが走り回っている。
あれがここのモンスターみたいなんだけど僕らを視界に入れても攻撃してきたりはしない。
これはこっちから攻撃しない限りは無害なモンスターって事かな。
「あ、見てください。1匹すぐ近くまで来ましたよ」
「どれ、いつもの食べ物で釣る作戦を実行してみようか」
寄って来たのはウサギ型のモンスター。
ウサギと言えばニンジンかな?それともほうれん草とかの葉物の方が良いんだろうか。
ひとまず両方並べて様子を見てみると、器用にニンジンを咥えながらほうれん草を抱えて走り去ってしまった。
「……行っちゃいました」
手を伸ばしながら呆然と呟くフォニー。
どうやら撫でたかったらしい。
代わりにと従魔のカートを撫でている。
「また近付いてきたらチャレンジしてみよう」
「そうですね」
気を取り直して先に進む僕達。
今のところダンジョンと言う割に危険は無いしトラップの類も無い。
いったいどういうダンジョンなんだろう。
「お、今度はリスが近づいてきた」
「普通サイズというか、カートとは全然違いますね」
カートもリス型の従魔なんだけどこちらは小型犬くらいのサイズがあるからなぁ。
今近付いてきたモンスターのリスが手のひらサイズなので大人と子供以上に開きがある。
「リスと言えば木の実?」
「私持ってますよ」
言いながらフォニーがお皿いっぱいのどんぐりを出すとリスのモンスターとカートが並んでせっせと口の中に詰め込んでいく。
なるほど、普段はカートのおやつにする為に持ってたものか。
そしてお皿の中が空になると、パンパンになった頬袋のリスモンスターは走り去ってしまった。
ついでにカートの頬袋も凄いことになってる。
「カート食べすぎですよ」
(……)
何か返事をしようとしてるけど口を空けられなくてもごもごしてる。
それはそれで和むな。
ツンツンと頬を押してみると慌ててるのが更に面白い。
警戒心が無くなりつつ進んでいくと川にぶつかった。
その川には2本の丸太が1メートルくらい離れて平行に掛けられていた。
更に川の手前に立て札がある。
【この丸太は足裏以外触れるべからず。
3点の支えなくして渡る事適わず。
川に落ちれば途端にここに戻されるであろう】
謎かけのようだ。
足裏しか触れちゃダメってことは四つん這いとか杖を突いて渡る事も出来ないらしい。
さてどうしたものか。




