13.役割分担
無事にモンスターの大群を倒した僕とフォニーはお互いの健闘を称えて小さくハイタッチを交わした。
「フォニーって強いんだね!
あんなに沢山いた魔物を圧倒しちゃうんだもの」
先ほどの戦いっぷりを見てちょっと興奮気味になってしまった。
だって僕だったら多分2体までならギリギリ戦いになったかなってくらいだと思う。
3体居たら圧倒されるのは僕の方だっただろう。
でも僕の称賛にフォニーは首を横に振った。
『私のはレベル差があったから出来て当然です。
それよりすごいのはラキア君の方。
3体とも見事に急所に当たってました。
レベルは2だって言ってたし、もしかして弓か狙撃系の祝福持ちですか?』
「ううん」
弓の祝福って多分、訓練所で見たあの人みたいなのを指すと思うけど僕は違う。
僕が出来たのは木から落とすだけで、落ちた後のモンスターはまだピンピンしてた。
もしそういう祝福だったら急所を撃ち抜けたらあのモンスターを即死させられたんじゃないだろうか。
「僕の祝福は『視力』だよ」
『視力……』
「要するに良く見えるってだけ。
だから木の上に隠れてるモンスターも見つけられたし急所も狙えたってことだと思う」
『むぅ』
僕の言葉を聞いてフォニーは何かを考え、しかし何も言わずに首を横に振った。
『とりあえず先に進みましょう』
「うん、そうだね」
話している間に休憩は出来たので森の奥へと進むことにした。
歩きながら周囲を警戒しながら、忘れていたことを聞いてみようかな。
「そういえばクマハチってどんな魔物か知ってる?」
『クマみたいな見た目の種族は蜂のモンスター。おすすめ討伐レベルは20以上です』
20!?
それって僕のレベルの10倍じゃないか。
そりゃあんな高額報酬になる訳だ。
フェルトさんもどうしてそんな無理なクエストを僕らに紹介したんだろう。
なんて考えたけどその答えは続くフォニーの言葉にあった。
『大丈夫。今の私のレベルは30ですから』
「あぁ!」
そういえばクエスト難度はフォニーに合わせてってお願いしたのは僕だった。
というか30!?
確かに自前で騎乗用ペットを所有してたし、さっきの戦いも余裕があったから強いとは思ってたけどそんなに強かったんだ。
ならクマハチの討伐レベルが20ってことはフォニーとしては楽勝なクエストなのかもしれない。
フェルトさんは僕が同行することを考えて楽なクエストを紹介してくれたってことか。
でもフォニーにとっては手ごたえが無いかも。
「もしかして僕のせいで退屈なクエストをさせちゃってる?」
『全然そんなことないですよ!
私は、ほら。喋れないから今までソロ活がメインだったから誰かと一緒にっていうだけで楽しいですし』
「ならよかった」
ちなみに今のやり取りも全部メール機能を利用している。
フォニーとしては発声訓練や聞き取りの練習も出来た方が良いと思うので、メールで文章を書きながら読みながらついでに身振り手振りも交えての会話だ。
お陰で普通に話すよりも手間が掛かってしまっているけど、僕も漢字が読めないところをフォローしてもらってるしお互い様だ。
でも一般の健常者が相手だと面倒とか億劫だとか思われるんだろうな。
いや、そう思われてしまうのを僕たちの方が気にしてしまうのか。
だから基本的に誰とも組まずに一人で活動することが多くなる。
折角のMMOゲームなのに勿体ないとは思うけど、こればっかりは仕方ない気もする。
他人に迷惑かけながらじゃお互い楽しめないからね。
『そろそろクマハチの活動範囲です』
「うん」
フォニーの注意喚起に頷き、より一層警戒を強める。
視界いっぱいに広がる森の中、木々が邪魔で奥まで見通せない。
こういう時は目以外に意識を置いた方が良い場合もある。
このゲームはモンスターの毛並みまで作りこまれているほど精巧だ。
だから生き物の歩く音や振動などもリアルと同じように伝わってくる。
「多分あっちの方に何かいる」
『行ってみましょう』
極力音を立てないようにしながら僕の示した方へと移動した先にそれは居た。
「えっと、蜂の仮面を被ったクマ?」
『そう。誰かが仮面ライターっぽいって言ってました』
いやそれ僕らのおじいちゃん世代のアニメ。
たしか普段は雑誌のライターをしている主人公が悪と戦うときには変身して虫スーツを着込むとかなんとか。
それはともかく、首から上だけ蜂のクマモンスター。いや身体がクマの蜂モンスターだっけ。
どっちでもいいや。
「それでどうやって戦うの?」
『多分近くに仲間が居るから呼ばれると面倒。
こっちに誘き寄せて1体ずつ倒したいです。
1体なら余裕だから』
クマを相手に余裕で勝てると豪語する少女。なにそれ格好いい。
でもおびき寄せるというのなら僕の出番かな。
相手から見えない位置でボウガンを構えて、撃つ!
トスッ
「??」
クマハチは突然足元に刺さったボウガンの矢に顔を近づけしげしげと眺めだした。
そこへ追加で矢を放つ。
今度は少し前方の地面に刺さったのでそっちに何かあるのだろうと移動を開始。
茂みを抜けたところで待ち構えていたフォニーがその頭に全力の一撃を叩きつけた。
ホスッ
何やら気の抜けた小さい音しかしなかったけど威力は絶大。
不意打ち効果も乗ったのかフォニーのスティックは相手に反応する隙も与えず絶命させていた。
「お見事」
『うん。いや私も凄い威力にビックリしてます』
なぜか攻撃したフォニー本人が一番驚いていた。
『仲間を呼ばれないようにと思って音を全部打撃力に変換するイメージで攻撃してみたんだけど』
思いがけず新必殺技が完成したらしい。
音って言うのは空気の振動、つまりエネルギーを持っているからそれが攻撃力として計算されたのか。
「じゃあ前のドンドコ戦うやり方はもうしないの?」
あれはあれで隣で聞いてる分には楽しかったんだけど。
『ううん。あの音には敵を牽制したりする効果もあるから集団戦の時は今まで通りです』
「なるほど」
『それに今のは不意打ちだから上手くいったって気もしますし』
「ふむふむ」
ということは今後の戦いでの僕の立ち回りは集団戦なら後衛の遠距離攻撃モンスターを牽制して、単独の強敵相手にはこう上手い具合に隙を作るような動きをするのが良さそうだな。
今の僕ではここのモンスターに有効なダメージは与えられそうにないし。
『クマハチは3,4体で1つの巣を守ってる筈だからこの調子であと2体倒しましょう』
「おっけー」
そうしてもう1体も同じように倒し、続く2体は同時に来てしまったので片方をフォニーが倒すまでもう片方を僕がバタバタと囮になって逃げ惑うことで何とか討伐に成功したのだった。
クマハチが二足歩行でのっそのっそ走るモンスターで助かった。