128.12月といえばあれですよ♪
時の流れるのは早いもので気が付けば12月。
12月と言えば一大イベントがある。
そう。
「期末試験」
「いやそこはクリスマスだろっ」
教室で友達と「今月どうする」って話をしてたらツッコミを入れられてしまった。
僕的にはクリスマスはケーキを食べる日ってイメージでそれ以上の何かは無い。
うちはプレゼント交換みたいなのもやらないし。
強いて言えば街頭にクリスマスの飾りが増える分、歩きにくくなるなって思ったり、クリスマス当日は外出する人が増えるだろうから家から出たくないなって思うくらい。
「クリスマスは家でのんびりケーキ食べてるよ」
「おいおい、青春真っ盛りの高校生の発言とは思えないな。
周りを見てみろ。今年こそは彼女作ってクリスマスデートするんだって意気込んでる奴らばっかりだぞ」
「いや視えないから」
『見てみろ』『いや視えないから』は僕らの鉄板のネタだ。
なので別に僕を揶揄っている意図は無い。
それと視えてなくてもそわそわしてる雰囲気は何となく伝わってくる。
恋愛願望の強い人達からしたら、12月のクリスマスに始まり、元旦の初詣、2月のバレンタイン、ついでに3月のホワイトデー。
もっと言うとその前の学園祭もかな。
これらイベントラッシュを恋人と過ごせるかどうかが今後の人生を大きく左右するのだろう。
「ちょっと気になるのはさ」
「ん?」
「『誰でも良いから付き合いてえ』って声がちょいちょい聞こえてくるのは何なんだろう」
「ボッチは嫌、もしくはダサいって思ってるんじゃないか?」
「そんなのに付き合わされる相手も可哀そうだよね」
「そこは大丈夫だろう。大抵そういうのは相手も同じ考えだから」
なるほど。そういう見方もあるか。
まぁいずれにしても僕には関係のない話だ。
目の視えない僕とわざわざ付き合いたいっていう奇特な女子はまずいない。
と思っていたのだけど。
「あの、照元君ですよね?」
「はい。そうですけど」
廊下で女子に呼び止められて声の方を振り向く。
声に聞き覚えは無いからクラスメイトではないだろう。
「2年の坂本です。
あの、学園祭の演劇観ました。凄く格好良かったです」
「あ、はい。ありがとうございます」
感想を伝えに来ただけ、にしてはやけに緊張してるように感じる。
まさか隙を見て背中に隠した短剣で暗殺しに来たのか!?
ってゲームじゃないんだからそんな訳ないか。
ちょっと思考がゲームに浸食されてえるかもしれない。
「えっと、照元君はクリスマスの予定ってまだ空いてますか?」
「特に何も予定は入ってないですけど……」
「良かった。それなら私と一日デートしてくれませんか?」
えっと?
もしかしなくても告白されている?
いや好きとは一言も言ってないので愛の告白では無いのかも。
でもそれなら「デート」とは呼ばない気がするが。
こういう時に早とちりはいけない。
「あの坂本さん。もしかして僕を遊びに誘ってくれてます?」
「遊び……そうですね。それで出来たら付き合って貰えたらなって思うんですけど」
「ふむ」
これ普通は大喜びする場面なんだろうな。
坂本さんがどんな人かさっぱり分からないけど声からして女子なのは間違いないし。
でも僕には喜びよりもまず驚きというか疑念が頭にこびりついていた。
「遊びに行こうって誘ってくれたのは嬉しいし歓迎するんだけど。
付き合うかどうかは慎重に考えた方が良いですよ」
「えっ私じゃ駄目ってことですか?
それとも別に好きな人が居るんですか!?」
「そうではないけど」
「なら良いじゃないですか。お願いします」
そう言って坂本さんは距離を詰めて僕の左腕に身体を押し付けてきた。
うーん、これは。
身長154センチってところかな。
いやそういう問題じゃなくて。
どう伝えようかと考えてたら坂本さんの方が先にぼそっと呟いた。
「えっこれで無反応って……」
「どうかしました?」
「いえ、何でも。
う~んでも今日の所は一時撤退が良さそうですね!
それじゃ、また!」
そう言って坂本さんは去っていった。
何だったんだ?
翌日この件を友達に相談したところ、色々判明した。
「2年の女子で坂本さん?
学内でも有名な動画配信者のあの人かな。
大方ネタに困ってドッキリ企画でもしようと思ったんじゃないか?」
「あぁそういう。それなら納得かも」
僕は一応この学園で唯一目が見えない男子生徒として知れ渡っているし、その男子に告白したらどんな反応を示すか、みたいな企画をやってみた訳か。
だけど僕の反応がいまいちだったから、これじゃあ視聴回数を稼げないだろうと見て退散したと。
僕も最近ゲームの配信をしてる一人として、生配信の視聴者数や過去のアーカイブの閲覧数はチェックするようにしている。
時々特に何もしてない回が閲覧数伸びてたりするのが謎だ。
自分で見返してみても何が良かったか全然分からないから配信って奥が深いなぁってつくづく思うよ。
「何か面白いリアクション取ってあげれば良かったかな」
「やめとけ。どうせ不自然になってヤラセだ何だって炎上するだけなんだから」
確かに台本ありならともかく、即興で演じろって言われたら変になるか。
「ところでその坂本さんに抱きしめられたのに反応しなかったのはなんでなんだ?」
「え、あぁ。ほら、僕って目が視えないでしょ?
だから普段から家族の愛情表現はボディタッチが多いんだよ。
うちはお姉ちゃん居るから昔から頭抱きしめられてナデナデ超えてゴシゴシはよくあったから。
……もし若禿げになったらそれが原因だと思う」
「な、なるほど。羨ましいような恐ろしいような何とも言えない環境だな」
「仲がいい分、相当恵まれた環境だと思ってるよ」
でも禿げるのだけは勘弁してほしいかな。
今のところは大丈夫だけど。
家に帰って『究極幻想譚』を起動した僕の所に通知が1件来ていた。
どうやら冬イベントの告知のようだ。
【メリークリスマス♪
気が早い?いいのいいの♪
だってこれからクリスマスに年末年始。更には1周年イベントも控えてるんだよ♪
もう間違いなく不眠不休でお仕事が待ってるんだよ。クリスマス気分を味わうなら今のうちなんだよ♪
え、クリスマスに恋人と一緒に過ごせないなんて残念ですね?
恋人なんて居る訳無いだろコンニャロー!!
けふんけふん♪
冬イベントのメイン企画は2つ♪
1つ目は日ごろの感謝を込めてお世話になった人にプレゼントを贈ろう企画♪
贈る相手は友達、恋人、誰でもOK♪
贈り物の素材は各地のモンスターがドロップしてくれるよ♪
落とすものはモンスターの強さに依存しないから安心してね♪
これをきっかけにあの子のハートをゲットだよ♪
ただし出来上がりは製作者の腕に依存するよ♪
もしかしたらイメージしてたのと全然違う謎のクリーチャーが出来上がるかも♪
2つ目は雪像、氷像製作♪
お題は女神様および女神様と戦った過去の英雄、聖獣達♪
彼らの姿絵は教会に所蔵されてる書物や、各地にあるダンジョンや聖域に壁画として残ってるから探してみてね♪
その出来次第で女神の祝福がパワーアップしたり、特殊装備が手に入っちゃったりするかも♪
またその中で優秀作品は各街の中央広場等で飾られるよ♪
各町の冒険者ギルドで受付してるから腕に自信のある人はぜひチャレンジしてみてね♪
それといつも通りこれ以外にも期間限定イベントが各地で発生してるから探してみてね♪
上手くいけばこっちでもレアアイテムが手に入るかも♪
イベント期間はこの告知が届いた時間から12月23日まで♪
12月26日から1月5日は年越し&1周年イベントになるからそちらもお楽しみに♪
】
なんかもう、この♪マークだらけなのにも慣れてきた。
それにしても贈り物かぁ。
お世話になった人にってことは結構な数用意しないとな。
年末年始とサービス開始を重ねるとか普通は無い気がする・・・
しかし1月遅らせて2月開始にすると今度はバレンタインと被るし・・・
ゲーム会社はそう言う事も考えてリリース時期を決めてるんだろうか。




