125.弱体化
結論からいうとダンジョンの中は安全だった。
それというのもモンスターの方から僕を避けて行ってくれたんだ。
原因は間違いなくトトさんの短剣。
トトさんはこのダンジョンのボス的存在だったのでその人から短剣を授かった友人として敬われた(畏れられた?)みたい。
道順も薄暗くなったとはいえ1度通った場所なので迷う事も躓くことも無い。
高難易度とは名ばかりの安全な道のりだ。
外に出れば照りかえるような太陽と6人のプレイヤーが居た。
「えっと、こんにちは?」
「お、おう」
向こうも驚いてるってことは僕を出待ちしていた訳では無さそう。
ならここに居る理由は1つしかないか。
「今からダンジョンに潜るんですか?」
「まあな。この辺りでは最難関のダンジョンって噂だから冬イベント前に腕試ししておこうと思ったんだ。
そういう君は、もしかして1人で攻略してきたのか?」
「いえ、攻略はしてないです。
ちょっと探し物があったのでこっそり中に入って出てきた所です」
「よし、なら未踏破ダンジョンの可能性はまだあるな。俺達で初攻略達成してやろうぜ」
「「おうっ」」
そう言って彼らは意気揚々とダンジョンの中に入っていった。
あ、トトさんがまだ戻って来てないけど、その場合でも攻略達成ってことになるのかな?
まあそもそも中に居たミスリルの亀1体を倒すのも相当苦労しそうだし攻略は難しいと思うんだけど。
それより僕はリーネンさんに無事を報告するために町に戻ることにしよう。
と意気揚々と帰路に就いたんだ。けど。
「ちょっ、全然当たらないんだけど」
来るときは余裕だったハゲワシに絶賛苦戦中です。
なにせボウガンの矢がまったくもって当たらないんだ。
これも女神の祝福が無くなった影響なんだろうけど、如何にこれまでそれに頼りきりになってたのかが分かる。
更にハゲワシの放つ風刃の魔法も見え方が全然違っていて上手く認識できない。
当たる直前でなんとかミスリルの短剣で受け止めるけどギリギリ過ぎてダメージを受けてしまう。
奴らもこれはカモだと遠距離主体で攻撃してくるし。
「これは逃げた方が良いな」
幸い走る分には今の視力でも問題は無い。
後ろから飛んでくる攻撃には勘で避けてみても結構食らう。
そして泣きっ面に蜂というか、逃げる先に立ちはだかるゴーレム達。
こちらも以前とは違い急所の位置も手足の力の流れも視えないので次の動きが予測できない。
「こうなったら突っ込むしかない」
上手い事脇をすり抜けられないかな。
なんて期待したけどそうそう都合よくは行かないらしい。
目の前にはどーんとゴーレムの壁。
一か八かトトさんの短剣に持ち替えて胴体部分に突撃した結果。
シュルッ
「あれ?」
硬い金属の手ごたえを覚悟してたのに、ゼリーにスプーンを刺したような手ごたえの無さ。
しかし確かに切れていたらしく、ゴーレムの身体は上下にズレて、そのまま光になって消えてしまった。
残りのゴーレム達も短剣を振りぬけば全身が急所でしたと言わんばかりにバラバラになって消えていった。
トトさんの短剣恐るべし!
これなら確かに魔鋼製のゴーレムだって切れそうだ。
「クエーーーッ!」
「っといけない」
ゴーレムに潰される未来は無くなったけど、ハゲワシの脅威は健在だった。
僕は慌てて隠れられる場所を探してハゲワシをやり過ごし、大分ボロボロになりつつも鉱山の町に帰還した。
ギルドで僕を迎えてくれたリーネンさんはなぜかジト目。
「男子三日あわざれば、とは言うけど、どうして弱くなって帰って来たのかしら」
「あはは……」
どうやらリーネンさんには僕が祝福の力を失ったことが見抜かれてしまったらしい。
普通は試練を乗り越えたら強くなるものだから不思議に思われるのは仕方ない。
「色々あって女神の祝福がほぼ無くなりました」
「色々って。異界の人達は女神様の力でこちらに来ているのでしょう?
無くなっても大丈夫なものかしら」
「今のところ問題なさそうです。
それに完全になくなった訳じゃないので鍛え直せば多分大丈夫ですよ」
「ふふっ、前向きね」
リーネンさんの顔にも笑顔が戻った。
よし、これで問題は解決。
……いや、何も解決してはいないんだけど。
「ここって訓練場みたいな場所ってありますか? ボウガンの試し撃ちがしたいんですけど」
「あるわよ。付いてきて」
リーネンさんの案内でギルドの裏手へ。
そこでは冒険者になりたてっぽい少年たちが思い思いに訓練に励んでいた。
当然だけどプレイヤーの姿は無い。
この町まで来て新人研修的な事をする人は居ないからね。
そんな中、僕はボウガンを取り出して30メートルほど離れた的を狙った。
シュッ……トスッ。
「よし、ちゃんと真ん中」
女神の祝福がレベル1に戻ったからと言って、ボウガンの射撃スキルは高いままだからこの結果はある意味当然。
それじゃあ何故あのハゲワシ達に当たらなくなったのかと言えば、動いているかどうかの差だ。
もっと言うと前は祝福ありきで相手の動きを予測して撃っていたので、それが無くなった誤差に僕の感覚が追い付いていないんだと思う。
「一度ついた癖を直すのは大変だって言うけど、練習を重ねて地道に直していくしかないな」
祝福レベルが上がれば前みたいになるのかもしれないけど、また祝福の力が使えなくなる時が来るかもしれない。
その時に狼狽えることのないよう、地力を鍛えることは大切だ。
ただ動かない的ではこれ以上の成長は見込めそうにない。
ならば実戦訓練だ。
「お世話になりました」
「気を付けてね。この辺りのモンスターなら今のラキアちゃんでも大丈夫だとは思うけど」
リーネンさんにお礼を言って別れた僕は一路北へ。
チームの皆に配るアクセサリーを作るために来たのに随分と寄り道をしてしまった。
まぁ急ぐ理由は特にないから良いのだけど。
それより早速現れたのは巨大な蟻型モンスター。
貪欲な口に居たのに比べるとサイズは一回り大きいけど強さは感じられない。
多分ダンジョンの方はその空間の狭さに適合した形なのだろう。
僕は距離のあるうちにボウガンを構えて矢を放つ。
シュ……スカッ
シュ……スカッ
うーん、やっぱり当たらない。
原因は何だろう。
矢そのものは狙った場所に飛んでるように見える。
でもそこにモンスターが居ないのだ。
あ、もちろん狙っている場所は現在モンスターが居る位置ではなく、そこから矢の速度も考慮して移動した位置だ。
前はこれでモンスターの急所に吸い込まれるように刺さってくれてたんだけど。
そうこうしてる間に距離を詰められたので短剣に持ち替える。
右手がトトさんの短剣で左手がミスリルの短剣だ。
ゴーレムも切れたトトさんの短剣ならこのモンスターも一刀両断のはず。
スカッ(えっ?)キンッ!
僕の振り下ろした短剣はモンスターに紙一重で避けられてしまった。
そのまま突撃してきた所を慌ててミスリルの短剣で受け止められたけど、まさか遠距離のボウガンだけじゃなく、近距離の短剣まで当たらないとは。
ゴーレムの時はたまたま動きが遅かったから何とかなっただけなのか。




