123.貪欲な口
爆薬付きボウガンで倒れたゴーレムだけど当然これだけではまだ死んでない。
なので急いで駆け寄ってミスリルの短剣を抜き放ち、その胸元に突き刺す。
ズンッ!
「いっつ~」
短剣は見事相手の装甲に穴を開けたんだけど、その反動で手が痺れた。
でもそうか。
いくら切れ味が良い刃物を持ってても硬いものに突き立てればこうなるのは当然。
グゴゴッ
「のんびりしてる暇はないか」
ゴーレムが起き上がろうとしてたので急いで短剣を何度も突き刺して核まで貫き討伐に成功した。
う~む、1体でここまで倒すのに苦労するとなると複数体に囲まれたらアウトだな。
その時は爆薬を使って横に広がらずに1列に並ぶようにコントロールしてみるか。
でもそんなの無視して突撃してくる可能性もあるかな。
などと考えつつも先へ進む。
そして逃げられないモンスターは道を塞ぐゴーレムだけではなかった。
「クエーーーッ!」
空から甲高い鳴き声と共に襲撃を仕掛けてくるハゲワシ。
常に3羽~4羽編成でやってくるのでちょっと厄介だ。
だけど僕としてはゴーレムよりもこっちの方が楽。
なにせ普通にボウガンが効くから。
「グケッ!」
ばさっ
羽ばたきと共に風刃の魔法を飛ばしてくるけど、僕には視えてるので避けるのは難しくない。
適当に避けながらボウガンで2羽落とすと残りは逃げていってしまう。
1回だけ逃がさず全部倒せたんだけど、その時はレアっぽいアイテムが手に入った。
だからそれ以降は全滅させられるように狙ってるんだけどこれがなかなか難しい。
あとドロップ品の中に卵(食材)があったんだけど一体どこに隠してたのかな。
などと隠密行動と戦闘を行いながら進んだ先に遂にそれはあった。
「見た目はただの洞窟っぽい」
高さ2.5メートル幅3メートルほどの入口がぽっかりと空いていて、ご親切に立て札があった。
『ここは高難易度ダンジョン【貪欲な口】の入口。
ここより先に入るものは一切の欲望を捨てよ』
だって。
『貪欲な口』って名前のダンジョンなのに欲を捨てろって、何かのトンチかな?
そういえばリーネンさんも目的のもの以外には目もくれるなって言ってたし、多分攻略のヒントなんだろう。
僕はひと休憩してからダンジョンの中へと足を踏み入れた。
ダンジョンの中は普通の洞窟で薄暗く岩陰も沢山あるので身を隠すのに困ることは無さそう。
ただ、今のところモンスターの姿は全くない。
罠の類も無いし平和だ。
そうしてしばらく歩いた先でようやくモンスターの姿を発見出来た。
「あれはたしか、ジュエルスライム?」
先日の救出活動中に遭遇した超レアだと言われてたスライムが1体どころか数体、壁際に居た。
そっと岩陰から様子を窺ってみたんだけど動く気配はない。寝てるのかな?
スライムって目が何処に付いてるのか分からないし、もしかしたら音や振動で獲物を感知してるのかもしれないので、僕はそっと足音を立てないように慎重にその場を通り抜けた。
(ふぅ。追って来たりはしてないな)
たとえ相手がスライムでも油断はしない。
ここは高難易度ダンジョンなのだから、実はさっきのも「ジュエルスライム:レベル1万」とかだった可能性が……あったかもしれない。
とにかく慎重に進もう。
次に現れたのは体育館位の広さの空間に幾つも出来た池。
池の中はぼんやりと明るくなっていて底には宝石のような煌めきが見える。
また池の周囲には見たことのない草が沢山生えていた。
(フランが居たらどんな薬草なのか教えて貰えたかもしれない)
外には生えてない事から、かなり貴重なものなのだろう。
一瞬、薬草園の芋虫さん達にお土産に摘んでいこうかとも思ったけど思いとどまった。
今回は短剣の素材を取りに来たのだから他は触らない方が良い。
(それより隠れる場所が無い場所だからモンスターの姿が無いうちに急いで通り抜けよう)
この判断は幸い間違っていなかったようで、次の通路に入ったところで遂にこのダンジョン初のどう見ても危険なモンスターを目撃することになった。
ズシン、ズシン。
ゆっくりと歩いて来るのは足の太さだけでも50センチを超える亀。
ただしその甲羅は僕の持ってるミスリルの短剣と同じ輝きを放っていた。
(あの甲羅が全部ミスリルだったら、この短剣が何本作れるんだろう)
討伐出来れば一生遊んで暮らせるだけの財産が手に入ると思われる。
もちろん討伐出来ればの話だけど。
岩陰に隠れて様子を窺っていると、亀は先ほどの池の周りに生えていた草を食べ始めた。
どうやらあの亀の好物のようだ。
あっ、ということはもし僕がお土産にと摘んでいたら草の匂いで位置がバレて、草の代わりに僕が食べられてたかもしれない。
(なるほど。欲を捨てろっていうのはそういうことか)
その先にも水晶や何かの金属の鉱脈や虹色のキノコや、はたまたあからさまに怪しい宝箱などを全て無視して先へ進んだ。
モンスターも亀の他には象だったり巨大蟻の群れも居たけど、どれも岩陰に隠れるだけでやり過ごすことが出来た。
普通なら蟻とか絶対僕の事を見つけられてたと思うんだけど鼻が詰まってたのかな?
まぁいいや。
とにかく僕は奥へ奥へと進み、そして遂にダンジョンの最奥と思われる場所へとたどり着いた。
(ここが最奥で間違いないよね)
そう思った理由。
1つ。その部屋の中には沢山の金銀財宝が敷き詰められていたから。
1つ。天井に穴が開いててそこから差し込む光で金銀財宝がキラキラと輝いていたから。
1つ。その財宝の前に柔らかそうな草が敷き詰めてあってその上にドラゴンが寝ているから。
いやドラゴンですよドラゴン。
そりゃあ魔鋼を切り裂ける爪や牙を持ってるモンスターって何って聞かれて真っ先に思い浮かんでたけど、本当にドラゴンだとは。
これなら確かにフォニー達が居ても絶対に勝てないと断言できる。
まあ道中のモンスターにも勝てなかったと思うけどね。
えっと、それで?
これから僕はあのドラゴンが寝ている隙に巣に忍び込んで後ろの財宝の中からドラゴンの爪や牙を探し当てて持ち逃げすれば良いのかな?
(持ち逃げって。泥棒かな)
自問してみたけど、それは違うんじゃないかなって思う。
フランが起きてきた時に「僕は泥棒をして強くなったよ!」とか言いたくないし。
だからここは正々堂々と行くことにした。
ダメだったら?頑張って逃げよう。
幸いここまでの通路はそれ程広くないからあのドラゴンが飛んで追いかけてくるのは無理だろう。
僕は身を隠していた岩から出ると、そっとドラゴンの正面に移動した。
「あのぉ、お休みの所すみません」
『……』
勇気を出して話しかけてみても反応は無し。
でも僕の姿を見た瞬間襲い掛かってくるって可能性もあったのでむしろ好反応と言えるだろう。
いや、ただただ寝てるだけって可能性もあるけど。ドラゴンだし。
この後はどうしようと思ってたら耳元でささやく声が聞こえてきた。
『よし、寝てる隙に頂くもの頂いてずらかろうぜ』
『何を言ってるんだ。いっそのこと急所を一突きしてドラゴンバスターの称号をゲットだぜ』
『このダンジョンの初攻略者として世界に俺の名を轟かせるのだ!』
『そしてここから俺様の伝説が始まるのさ』
……えっと?




