122.新しい武器を求めて
翌日。
冒険者ギルドに戻ってきた僕は改めてリーネンさんに短剣について相談することにした。
「リーネンさん。『まこうせい』のモンスターも切れる短剣が欲しいです」
「まこうせい……あぁ、魔鋼製ね。
昨日の坑道内に居たのよね。(普通、鉄の坑道には出ないのだけど異変の前兆かしら)
あれを切るとはまたハードルが上がったわねぇ。
魔鋼の特徴はとにかく頑丈で重い。そして雷にめっぽう弱いのよ。
だから魔鋼製のモンスターを倒すなら雷魔法か雷属性が付与された武器を使うのが一般的なの。
ただ短剣でとなると、全身を絶縁性の装備にしないと自分も感電する危険があるわ」
「まぁ電気ですからねぇ」
思いがけずあっさりと魔鋼の弱点が判明した。
うん、確かに僕らで雷属性を扱える人は居ない。
そして持ち手と剣身が近い短剣だと敵を切り付けた放電で自分もダメージを受けるのか。
「普通は柄の長いハンマーとかで使うものよ」
「ふむふむ。じゃあ投げナイフとして使うのはどうでしょう」
「発想としては悪くないけど、雷属性の魔石は希少だから数を揃えるのは難しいわ」
使い捨てとまでは行かないけど、投げたのを回収するのは戦闘後になるだろう。
敵が1体だけとは限らないし、それを主軸に戦うのは厳しそう。
予備で1本持っておくくらいが妥当か。
「他に方法は無いですか?」
「考えられるのは2つ。
1つは相手が何であれ関係なく切れる程のレベルとスキルを身に着けること。
真の剣士は木刀で魔鋼を切れるらしいわ」
なるほど、女神の祝福とかでもありそうだし、それ以外でも剣術スキルとかを鍛えて行けばって感じか。
ただ、今から剣を極めるのは違う気がする。
このゲームはコンセプトからして1つの能力を極めた方が良さそうだし。
「すみません。僕は剣の達人を目指す気はあまりないです」
「そうよねぇ。
それなら、より上位の素材を使った武器を手に入れる。
これしかないわ」
実にシンプルな答えだけど、もちろんそんな武器が簡単に手に入る訳が無い。
まず店売り品ではありえないだろう。
となると高難易度ダンジョンを攻略して回るとか?
いや、そんなダンジョンの所在を知らないし、知ってても今の僕で攻略できるとは思えない。
でもリーネンさんが提案してくれてるって事はなにかあるのかな。
「もしかしてその武器に心当たりがあるんですか?」
「心当たりがあるのは素材の方。
ここから北東にある山の中腹に『貪欲な口』と呼ばれるダンジョンがあるの」
「えっと、そこって僕でも攻略出来るんですか?」
「無理ね。チームの子たちと一緒でも絶対無理でしょうねぇ」
え、ダメじゃん。
流石にまた死ぬの覚悟で挑戦なんてしたら今度こそフォニー達にげんこつを貰ってしまう。
そんな思考が顔に出たのだろう。
リーネンさんがちょっと可笑しそうに笑みを浮かべながら策を教えてくれた。
「攻略は無理だけど、戦わずに必要な素材を取って戻ってくるだけなら可能性はあるの。
ダンジョン内は隠れる場所も沢山あるし動きの早いモンスターも居ないから。
ラキアちゃん1人ならきっと無事に帰って来れるわ」
何だろう。つい先日僕が同じような発言をした気がする。
ただ違うのは今回はまだモンスターに見つかっていないという点かな。
見つかった後だと意味無いけど、見つかる前なら敵の視線を逸らして隠れて進むことは不可能ではないはず。きっと。
それにリーネンさんが大丈夫と言ってるのはそれなりに根拠があるんだと思う。
「ちなみに他の冒険者も同じような感じでダンジョンから素材を取って来てるんですか?」
「うーん、昔はそれを専門にやってた人が居たんだけど、今は誰も居ないわ」
「そうですか」
居るならその人から買い取るって手もあったけど無理らしい。
楽はさせて貰えないか。
「……よし。じゃあ今から行ってみます」
「短剣に必要な素材はダンジョン最奥に落ちてるはずの爪や牙よ。
それ以外には目もくれない様に。そうすれば帰って来れるわ。
あ、それとこれを受け取って」
思い出したように渡されたのは1本の短剣。
鞘から抜いてみると白銀色に輝く刀身が綺麗で高価であることが一目で分かる。
「ミスリル製の短剣よ。
残念ながら今のラキアちゃんでは魔鋼を切り裂くことは出来ないけど、魔力を通すことで敵の魔法を切ることが出来るわ」
「そんな凄いものを貰っていいんですか?」
「良いのよ。昨日の救助クエスト中に短剣を折ってしまったのでしょう?
それを聞いたデルモント達、あぁ救助された人達ね、が報酬に加えてくれって言ってきたの。
彼らは短剣は使わないから返品されても困るでしょうね」
「なるほど。そう言う事なら遠慮なく」
これもしかして僕が魔鋼の件を出さなかったらこの短剣を貰ってめでたしめでたしだったんだろうなぁ。
この短剣があれば間違いなく今より1ランク上の戦いが出来るだろうし。
そしてこれより更に切れ味の鋭い短剣の材料となる爪や牙。
当然それらは獣魔やモンスターの身体の一部だったものなので、ダンジョンは彼らの巣なのかもしれない。
いやそれ本気で戦闘になったら勝ち目は無いな。
若干不安が強くなりつつも僕は教えて貰ったダンジョンに向かうためにギルドを後にした。
そしてまず向かうべきは道具屋。
そこで多少なりとも戦力アップになるものを購入していく。
ダンジョンでは戦いを避けるにしても出来る強化はしておくべきだろう。
使えるものを買った後は食べ物系を補充して街を出発。
平野から山間部に入ったあたりで僕は自分の見通しが甘かったことを悟った。
「ちょっ、冗談だよね?」
どごーん!
慌てて跳んだ僕の横に岩が降ってきた。
その岩を降らせたのは道の先に居るゴーレム。
幸い魔鋼製では無さそうだけど、金属なのは間違いなさそう。
それが複数体居るのだ。
要するにダンジョンだけじゃなく道中もモンスターが凶悪だった。
戦う?逃げる?
(今は逃げよう)
幸い敵の足は遅そうだし、目的のダンジョンでも隠れながら進むことになるのだ。
その予行演習だと思って極力戦わずに進んでみよう。
ひとまずゴーレム達は岩陰に隠れてやり過ごし、直線コースよりも大分迂回しながら進む。
ついでに壁に張り付いて顔だけ出して道の先にモンスターが居ないか確認してみたりして気分は潜入だ。
きっと後ろから僕の行動を見てる人が居たら「変な人が居ます」って通報されてたかも。
ただそうして気を付けて進んでも全く戦わずに済ませると言う訳にはいかなかった。
今いる場所は左右が壁になってる谷間で、道を塞ぐように立っているのは青銅色の金属ゴーレムだった。
やっぱり鉱山が近くにあるからゴーレムが多く出るらしい。
僕は距離がまだ離れている内にとボウガンを構えた。
「早速町で買ってきたものを試してみるか」
シュッ……ボンッ!
僕の放ったボウガンの矢がモンスターの首(頭と胴体のつなぎ目)に当たったところで爆発した。
その衝撃で後ろに倒れるモンスター。
よし。期待通りだ。
何をしたかと言えばボウガンの矢に爆薬を装着して打ち込んでみたのだ。
鉱山の町だから爆薬とかが普通に売ってて良かった。
これで硬い敵相手でも遠距離からダメージが与えられるだろう。




