120.チームの役割
休憩所の扉を破壊したモンスター。
全身が真っ黒な鉄板で覆われた二足歩行ゴーレムとでも言えばいいのかな。
恐らく今回のイベントのボスなんだろうけどなかなかの巨体だ。
身長は頭がギリギリ天井に届かない程度で横幅もほぼ通路を塞げられるほどだ。
手足の太さも1メートルくらいある。
ただその巨体のお陰で扉を壊したものの休憩所の中にまでは入れない様子。
「フォニー。まずは奴の注意をこっちに引き付けよう」
「はい。すぅ~『こっちを向きなさい』!!」
『!!?』
フォニーにしては珍しく大きな張りのある声が響くとボスモンスターの首がグルっとこちらを向いた。
続いて身体全体もこちらに向き直りつつ左フックを飛ばしてきた。
「任せて」
ガガガガッ
コロンが間に入って防いでくれたけど、あのコロンが押されてる!
これはもしかしなくてもかなりの強敵だ。
そしてそれは攻撃を受け止めたコロンが一番よく分かったらしい。
「ラキアまずい。こいつ魔鋼製よ」
「まこうせい? えっとつまり?」
「今の私達だと倒せない」
なんて分かりやすい。
でもそれならどうするか。
敵の攻撃を耐えながら応援が来てくれるのを待つという手もあるけど、応援の当てはない。
それに怪我をしているという要救助者の状態も分からない。
もしかしたら早く治療しないと後遺症が残るものかもしれないから早めに彼らの元に駆け付けたい。
「……よし、決めた」
「どうやって倒すの?」
「倒さないことに決めた」
「「え?」」
僕の言葉にぽかんとする二人。
まぁ言葉が足りないから仕方ない。
「このまま後退しながら奴を引き付けて、分かれ道まで誘導する。
そこで僕らも二手に分かれて片方がそのまま囮になって奴を引きつけつつ、もう片方で要救助者を脱出させる」
「作戦は分かりましたけど、その囮役は誰がやるんですか?」
「もちろん僕がやる。というか他に選択肢が無い。
救助者を連れて脱出するには2人の戦力は必須だし、僕1人なら良い感じに抜け道とか見つけて脱出できるから」
「でも挟み撃ちにあったりしたら危険ですよ?」
「まあ最悪死んでも町に戻るだけだから。
あ、もちろん死ぬ気は無いよ?」
「ですが」
「ちょっと。言い合ってる余裕は無いわよ!」
コロンから檄が飛ぶ。
今こうして話してる間もボスからは鉄槌のような攻撃が繰り出されているのだ。
流石のコロンでもずっと防ぎ続けるのは厳しいだろう。
「とにかく後退して分かれ道まで行くよ」
「「はいっ」」
幸いにしてボスの足は遅く、そしてちゃんと僕達を追って来てくれた。
もしかしたら一定以上離れたら追ってこない可能性もあったから来てくれて良かった。
そして分かれ道に来たところで僕はボウガンを取り出した。
「さあここからのお前の相手は僕だ」
さっきのフォニーが呼びかけた時の反応で、あの全身が鉄板の様なモンスターでも顔に相当する部分があったのは分かっていたので、そこ目掛けて矢を撃ちまくる。
するとほとんどダメージは無くても鬱陶しいと感じてくれたようだ。
ボスの狙いが僕へと向けられた。
「よっと」
ゴウンッ
振り下ろされた鉄拳を後ろにジャンプして交わすと風圧で1メートル押された。
これ直撃受けたら死ぬな。
などと思いつつちらりとボスの向こう側を見れば無事にフォニーとコロンは休憩所の方に抜けられたようだ。
フォニーが心配げにこちらを見てるけど大丈夫だから。
僕は引き続きボスの顔に矢を当てつつ通路の奥へと逃げる。
あまり距離を空けすぎると僕を無視して戻ってしまう可能性があるから手が届かないギリギリの間合いに居続けないといけない。
『ラキア君。こちらは要救助者の元に到着しました。
全員無事で怪我した人もポーションで治療できる程度でした』
フォニーから連絡が届いた。
良かった。これで目標の第1段階はクリアかな。
『了解。脱出は出来そう?』
『大丈夫です。元気な人も居るのでその方に怪我をしてた人の補助を頼みつつ、今から移動を開始します』
『じゃあ僕ももう少しだけボスを引きつけたら離脱するよ。
地上で会おう』
『はい!』
よしよし。あの感じだと走るのは無理でも歩いて移動くらいは出来るだろう。
ボスもそれなりに休憩所から引き離したから仮に今から向こうを追いかけられても追いつける可能性は低い。
なのでさっさと逃げる算段を付けたいんだけど。
(ちらっ)
後ろの通路を見ればまるで通せんぼするかのように道を塞ぎじっとしてるモンスター達。
そして今いる場所は通路よりもちょっと広くなった場所。
どうやら僕とボスとの決闘の場が出来上がったようだ。
「うーん、どうしよっか」
(くすくす)
コロンに勝てないと言わせたボスモンスター。
僕の手持ちの武器はミッチャーさんに貰った火属性の短剣とボウガン。あとはフランの糸。
『視力』を駆使してボスの弱点を見つけられるかなと思ったんだけど。
「人で言うところのお臍に魔力が集中してるっぽいんだけど」
キンッ!
「だよねぇ」
敵の攻撃をなんとか避けつつ急所に短剣を突き立ててみたけど傷一つ付かない。
表面の装甲を引きはがせれば良いんだけど、継ぎ目すら見当たらない。
せめて100回攻撃すれば壊れますっていうのならチャレンジするんだけどなぁ。
他にこいつに有効そうな攻撃手段と言えば……熱疲労とか?
急加熱と急冷却を繰り返すことで硬い金属でも破壊出来るかもしれない。
あ、でも冷却手段が無いか。
いや加熱の方もこの短剣にそこまでの熱量は出せない。
「他にまだ何かないのか」
焦る僕をあざ笑うようにボスはドシンドシンと歩いて近づいてくる。
……歩いて?
「あ、もしかしたら」
ボスの身体は人間の構造に似ている。
以前聞いた話では初期の人型ロボットの最大の課題は歩くことだったらしい。
僕達が特に意識せず行ってる歩くという行為は、実は絶妙なバランス感覚の下に成り立っているのだとか。
だから段差や坂道があると簡単に転んでしまったそうだ。
その現象がこのボスにも当てはまるのだとしたら。
(アイテムボックスの中に何か丁度良いもの……あった)
以前コロンと石材集めした時の余り。
これをボスが足を踏み出した先に置くとどうなるか。
ボスは想定外の段差に若干身体が後ろに傾いた。
でも流石に耐えてるな。
ならそこから後ろに引っ張ったらどうだ。
「フラン!」
(くすくす!)
フランの糸がボスの首に巻き付く。
でもフランだけじゃ軽すぎた。
なので僕もボスの後ろに回り込んで一緒に引っ張る。
ぐらっ
「よし、もう一息」
後ろに傾き始めた。
このまま仰向けに倒れてくれればガリバーの巨人よろしく糸でぐるぐる巻きにしてしまおう。
しかしボスもただでは倒れてくれなかった。
「GAッ!」
鳴き声の様な音を立てつつ腰がグリンと回転してバックブローが僕達を襲う。
僕は慌ててフランを抱えて跳んだけど背中を思いっきり殴られた。
肺から息が吐きだされ、浮遊感など感じる間もなく反対側の壁に激突した。
そこで僕の意識は途切れたのだった。
(くすくす!!)




