12.危険な森に響く音
無事に馬を借りた僕ら(というと語弊があって借りたのは僕だけだ)は街の外に出て、早速馬に乗ることにした。
ちなみに街中では中型以上のペットは連れ歩けないのでアイテムボックスに仕舞っておいて、外に出てから改めて呼び出す必要がある。
「馬って乗ったことないけど僕でも乗れるのかな」
『大丈夫』
僕の疑問に力強く頷いたフォニーは自前の馬を呼び出してさっと乗って見せてくれた。
横で見ていた感じ、急に綿毛のように軽くなった身体がふわりと持ち上がったように見える。
これはたぶんゲーム的な力が働いてるっぽいな。
ならばと僕も自分の馬を呼び出してその鞍に手を掛けて、
「よっと。おぉ~」
なんか不思議な感じ。
一瞬だったけど無重力を体験した気分だ。
そして馬上の人となった僕の視線は普段よりずっと高い位置にある。
高さが変わった。
ただそれだけのはずなのに全然違う景色が目の前に広がっていた。
「わぁ」
「?」
「あ、ごめん。また新しい世界が見れたから感動してた」
「くすっ」
笑われてしまった。
でも仕方ないよね。新しいものを知った感動は止められないもの。
笑いながらフォニーは馬を僕の方に寄せてきた。
「あ~あ~あ~~♪」
「?」
フォニーがまるで歌うように僕の馬に声を掛けると馬体がキラリと光った。
『私は音に色々な効果を加えられるんです。今のは強化バフ』
「へぇ~」
どうやらフォニーが授かった祝福は音に関するものらしい。
このゲームで音が聞こえるようになったフォニーらしい祝福だ。
それと馬に乗りながらスケッチブックで会話するのは難しいのでメール機能で文章をやり取りしている。
僕でも文章を書けるのかっていう疑問はあったんだけど、手書きじゃなくて意識した言葉がそのまま文章になってくれるので大丈夫だ。
書きながら別のことを考えると文章が変になるのでそこだけ注意が必要だけど。
後は「OK」とか「ダメ」とかの良く使う言葉は簡単なジェスチャーでやりとりする。
『じゃあ行きましょう。手綱を持って軽く振れば走って、引っ張るようにすると止まります』
「分かった」
言われた通り手綱を振ってみれば、ぱっかぱっかと歩き出した。
意外と揺れないものだな。
たしか慣れないうちはお尻が痛くなるって聞いたことがあるからこれもゲーム的な力なのだろう。
そして歩くのが出来たから次は駈足。
カッカッカッカッとリズムよく響く足音と共に僕は風になった。
「って速すぎ!!」
まだ全然全速力では無いはずなんだけど、すごい勢いで景色が流れていく。
馬って凄い。それともさっきフォニーがバフを掛けてくれたお陰かな。
これゲームだから大丈夫だけどリアルだったら絶対振り落とされてる自信がある。
「そうだ、フォニーは?」
『いますよ~』
慌てて振り返ろうとした僕の横で余裕の顔でフォニーは並走していた。
その姿はまさにベテランって感じ。
余裕の笑顔で僕に手を振ってくれてる。
まあ自前で馬を所有していた所からしてだいぶ慣れているんだろうとは思ってたけど。
どうもさっきから男として情けない姿ばかり見られている気がする。
これは現地に到着してから気合を入れて汚名返上しなくては。
10分ほど移動して着いたのはとある森の入口。
どうやらこの森の中にクマハチの巣があるらしい。
馬から降りた僕たちは武器を手に森の中へと入っていった。
『あまり私から離れないでくださいね』
「え、あ~うん」
それってどちらかというと僕が言うセリフじゃないかな。
とは思うもののフォニーの持っている武器を見たら僕よりフォニーの方が前衛っぽい。
「フォニーの武器は棍棒であってる? ちょっと細いけど」
『うん。正確にはドラムのスティックみたいなものですね』
そのドラムは楽器のドラムで合ってるかな。
長さ1メートルの鉄の棒で叩いたらドラム壊れちゃうと思うけど。
でもその言葉の意味はすぐに知れることになった。
「フォニー」
『うん。敵ですね』
僕が気付くのとほぼ同時にフォニーもモンスターの気配を察知したようだ。
少しして茂みの向こうから現れる二足歩行のモンスター達。
その数12体。
「って多すぎ。フォニー逃げた方が良くない?」
『大丈夫。そこで見ててください』
僕の心配をよそに余裕そうなフォニーは武器を構えモンスター達に飛び掛かっていった。
『ふっ』
鋭い呼気と共に振り下ろされた右手の棍棒がモンスターの脳天にドンッと叩きつけられる。
続いて左手に持っていた棍棒が別のモンスターの頭にドンッ。
更に右手の棍棒でドンッ。
モンスターの反撃には素早く横に振ってカカカッと弾き、態勢を崩したところへ再び振り下ろしでドンッ。
ドンッドンッドンッ、カカカッカ、ドドンド、ドンッ♪
なぜか凄くリズムよくフォニーの棍棒が打ち鳴らされていく。
一体どうなってるんだろう。
モンスターの頭を殴っても絶対こんなきれいな音は出ないと思うんだけど。
それにフォニーの腕にはそんなに力が籠められているようには見えないんだけどモンスター達はまるででっかいハンマーで殴られたように吹き飛ばされていった。
更に畳みかけるように大きな声を出すフォニー。
「わっ!」
「「っ!!」」
ビクッと驚いたモンスター達はその場で固まってしまい、その隙にまたフォニーの棍棒が見た目はぺちぺちと、されど音は激しくドドンドドンと打ち鳴らしモンスター達を倒していく。
モンスターは12体も居たのに全く為す術もない。
(って、向こうの木の上!)
目の前のモンスターに気を取られてたけど、奥に弓を構えたモンスターが隠れてた。
フォニーは、気づいてない。なら僕がやるしかない!
素早くボウガンで狙いを定めて、発射!
パスッ
「よしっ」
僕の放った矢は見事モンスターの喉元に突き刺さり木から落とすことに成功した。
僕の一撃で倒せたとは思ってないけど木の上に隠れてないなら問題ない。
あの様子からしてフォニーなら飛んでくる矢も叩き落せそうだし。
だから僕は次の矢を装填しながらまだ他に居ないかと目を凝らした。
(あ、やっぱり)
最初のと合わせて3体のモンスターが隠れていたので順番に射落としていく。
とどめは既に前衛の12体を倒し終えたフォニーが刺してくれるだろう。