118.鉱山の町
途中邪魔が入ったものの無事に鉱山の町に到着した。
なお鉱山の町と言っても町自体は山の入口に存在していて実際の採掘場は町の外になるようだ。
そちらにも宿泊施設があり、採掘者たちは平日はそっちで寝泊まりして働いているらしい。
じゃあ町の役目は何かというと、掘り出してきた鉱石の精錬所や採掘者たちの家族が暮らす家がある。
石造りの家が殆どなのは精錬所で火を扱う関係上、火事の危険があるからかもしれない。
井戸が多いのも同じ理由かな。
「あ~うん、見られてる」
お上りさん全開で街並みを見て回ってたらプレイヤーのみならず町の人達にも温かい目で見守られていた。
もっと言うとずっと配信してるので1000人以上の人に観られてるのだけど。
気を取り直して、新しい町にやって来てまず行くべきは冒険者ギルドだろう。
大分寄り道したけど。
ギギィ
軋む音を立てながら中に入ればそこはいつものギルド風景。
規模は小さいものの内装は王都のギルドと同じ。
一番の違いと言えば受付のお姉さんだろう。
「こんにちは」
「あらいらっしゃい。
珍しいわね。異界の冒険者があたし達に声を掛けるなんて」
「そうなんですか?」
「そうなのよぉ。ギルドに入って真っ先に私達受付の方を見るんだけど、なぜかみんな掲示板の方に行っちゃうの。不思議よねぇ」
そう話すのはフェルトさんやニットさんの体形を(筋肉で)横に3倍にしたようなお姉さんだった。
他のお姉さん方も同じような体格なのでこの町の標準なのだろう。
え、だから?
別に普通に話せばいいと思うんだけど。
「僕はラキアと言います。
この町で短剣を新調しようと思ってるので腕の良い職人さんを紹介してもらえると助かります」
「あなたがラキアちゃんなのね。噂はニットちゃん達から聞いてるわぁ。
あたしはリーネン。よろしくね。
この町は鍛冶師も多いから紹介出来そうな場所は幾つか思い当たるけど。
その前に今使ってるのを見せて貰えるかしら」
「はい、これです」
普段使いの2本を鞘ごとリーネンさんに渡した。
リーネンさんは慣れた手つきでそれを抜き放ち、すぐに戻した。
「ちょっと奥に来てもらえるかしら」
「え、はい」
ただならぬ様子。何か問題があっただろうか。
想定よりも痛んでいて「こんな雑な扱いをする奴に武器を作れるか!」って怒られるとか?
僕は剣の達人ではないのでそこは多少目を瞑ってもらえると助かるんだけど。
連れていかれたのはギルドにはよくある応接室の1つ。
リーネンさんは棚から取り出した水晶玉をテーブルの上に置いた。
「ちょっとこれに手を触れてみて貰えるかしら」
「はぁ」
言われた通りに水晶玉に手を置くとぼわっと青く光った。
それを見てリーネンさんは小さく頷く。
どうやら何かの検査装置だったらしい。
「ひとまず犯罪者では無さそうね」
え、それを疑われてたの?
何でだろう。ってもしかして。
「最近何度か異界の冒険者に襲撃を受けて返り討ちにしたことがあるんですが、そのことですか?」
「あぁなるほど、それで剣から人の血の臭いがしたのねぇ」
血の臭い? 全然気付かなかった。
このゲーム、血しぶきとかグロ表現はほぼ無いから短剣も血糊が付いたりしないんだよね。
でもこの世界の人達からしたら当然そういうのもあるものと認識されてる訳だ。
「襲撃を受けるだなんて、そんなに恨みを買ってるの?」
「そんなことは無いです。
ほぼ全て嫉妬か逆恨みか、はたまた僕が何か価値のあるものを隠し持ってると思って奪いに来てるんだと思います」
実際には特に何も持ってないし、仮に持っていたとしても襲撃されて殺されたら奪われるのかと聞かれたら答えはNOだと思う。
単純に街に死に戻るだけで襲撃者には何のメリットも無いんじゃないかな。
それでも襲撃してくる人達は何が目的なのか。
本当の所は僕にもよく分からない。
出来れば放っておいて欲しいんだけど。
「よく分からないけどラキアちゃんに問題が無いなら良いわ。
それで短剣だけど」
言いかけたところで扉が勢いよく開かれ慌てた様子のおじさんが入ってきた。
「鉄の3番坑道でモンスターが大量発生。デルモント達が奥に取り残された!」
「なんですって! 他の採掘者や冒険者は?」
「ほとんどが昨日見つかった新しい坑道に入ったままだ。戻ってくるのは明日以降だろう」
「なんて間の悪い」
どうやら問題発生らしい。
ならここは僕の出番かな。
「僕で良ければ救助に向かいましょうか?」
「頼めるかしら?
ただあそこのモンスターはラキアちゃんのこの短剣では歯が立たないわ」
「そこは何とかします。あと友達も呼んでみるので」
言いながらフォニー達にメールを送る。
すると1分と掛からずに返事が来た。
どうやら2人ともすぐに来てくれるらしい。ありがたい。
僕は待ってる間に詳しい情報を聞いておくことにした。
「発生したモンスターは体内に多くの鉄を含んでるものばかりだ。
当然皮膚も鉄の硬さだから刃物は殆ど通らない。
デルモント達からの信号によるとメンバーの数人が足を怪我したらしく自力での脱出は困難。
今は休憩所の1つに立て籠もっているが突破されるのは時間の問題だそうだ。
3番坑道は中の構造がだいぶ入り組んでいる。
休憩所まで最短コースを取れれば良いが、最悪その数倍の距離を歩くことになる。
ただ上手くモンスターの少ないルートを通れば最短コースよりも早く進めるかもしれない」
そう教えてくれたのは知らせに来たおじさん。
坑道の地図を見せて貰ったけどなるほど複雑だ。
幸いなのは道が枝状に分かれて行き止まりだらけなのではなく、網目状に交差してることか。
「坑道の中って景色に代わり映え無いですよね。
間違って同じところをぐるぐる回ってしまったり、出口が分からなくなったりしないですか?」
「ああ。そうならないように分岐の所には壁に番号と出口向きの矢印が書かれている」
なるほど、それなら大丈夫か。
あとはいかに早く要救助者の元まで向かうか、だな。
と、そこへ頼もしい助っ人が到着した。
「ラキア君お待たせしました」
「来たわよ」
「ふたりとも急な呼び出しに応じてくれてありがとう。
詳しい説明は移動しながらするから」
ふたりが来たのならギルドに留まる理由は無い。
僕達は急ぎ救助に必要な物資をアイテムボックスに放り込んで問題の坑道へと急行するのだった。




