116.飴玉(綺麗な石)の使い道
残った飴玉をどうするか配信を観てくれてる人達に相談した結果。
・指輪にしてチームメンバー全員に配る
・装飾品に加工する(指輪以外)
・罰ゲームで食べる
・売る
などなど
指輪にする案が全体の8割を超えたんだけど。
いや何人かが言ってるけど、絶対炎上すると思う。
たとえゲームで装備品の1つだと分かっていても指輪を異性に贈るのは特別な意味に取られかねないし、それを複数の異性に渡すとかどう考えても背中を刺される案件でしょ。
提案した人達も分かってて言ってるっぽい。
え、もちろんやりませんよ?
『くっこういう時にスパチャが送れたら』
『安価してくれたら』
「??なんですかそれ」
よく分からない単語があったので聞いてみたら、スパチャはスーパーチャットの略で強制力は無いけど「お金払うからやって」と言いたかったらしい。
僕の配信はそういうの受け付けないので無理だし、お金貰っても人間関係を壊す真似はする気はない。
また安価というのは配信者がよくやるネタで「この書き込みの下n番目に書き込んでくれた案を絶対採用します」というもの。
「下の案」→「案下」→「安価」ということらしい。
自分から案を募集するのでどんな無理難題でも達成しなければならない。
配信者の皆さんは身体張ってるなぁと感心してしまう。
僕はもちろんそんな博打のようなこともしない。
ただ、折角案を聞いたのに全部採用しないというのも不義理だし、ちゃんと良い案もあった。
「チームメンバーでお揃いのアクセを作るのは良いかもですね。
食べられると言っても見た目は綺麗な石ですから」
そして装備品の加工と言われて思い浮かぶのは最初の街のおじいさん。
でも楽隠居状態のおじいさん達を配信で流すのも違うか。
「これからちょっと行きつけの職人さんに相談に行ってきます」
『おぉ。ラキアさん御用達の職人!』
「でもそこの公開は出来ないので今日の配信は一度止めます」
『『ええぇ~~~』』
「無事にアクセサリーが出来たらお披露目しますね」
残念がるコメントが書き込まれているけど気にせず配信は終了。
そして気ままに泳いでたラッコさんに別れを告げて最初の町へとやって来た。
こっちは変わらないなぁ。
「良い天気ですねぇ」
「そうですねぇ~」
おばあさんとお茶を飲みながら干し柿を頂く。
こうして季節の味覚を頂くと今が秋なんだなって実感が沸く。
お姉ちゃんなんかは雪虫が飛んでるのを見ると秋だなって思うらしい。
「おう来てたのか」
「お邪魔してます」
家の中から縁側に顔を出したおじいさんも一緒に並んでお茶を飲む。
って。ここにくると毎回まったりしてしまうな。
「あの、おじいさん。これでアクセサリーって作れますか?」
「!!」
僕の差し出した箱に入った大量の飴玉を見たおじいさんは驚きに目を見開き、更には険しい顔で僕を見た。
「お前さん、これをどこで手に入れた?」
「え?えっと、拾い物なんですけど」
「これが何か分かっているのか?」
「栄養があるけど美味しくない飴玉、ですよね」
「・・・・・・はぁ~~~」
僕の回答を聞いて大きなため息をつくおじいさん。
「お前さんの事だから犯罪に手を染めた訳じゃないとは思ってたがな」
「えっと、麻薬みたいにもしかして持ってるだけで捕まる物ですか?」
「数個だけなら問題ないんだが」
そこからおじいさんはこの飴玉が何かを教えてくれた。
正しくはこれ、従魔結晶って呼ばれるもので飴玉どころか食べ物ですらなかった。
従魔が成長する過程で少しずつ大きくしていくもので、ある程度大きくなったらプレゼントしてくれるらしい。
なので従魔1体に付き1つか2つ持っている分には何も問題が無い。
だけど10を超える数を持っていると話は変わってくる。
従魔結晶には別の生成方法があって、それは従魔から強制的にエネルギーを吸い出し結晶化させるというもので、こちらは違法なのだそうだ。
だから箱いっぱいに入ってる従魔結晶を見たおじいさんは犯罪を疑ったと言う訳だ。
「じゃあ警察……警備隊?に引き渡した方が良いですか?」
「いやまぁ大っぴらに見せびらかさなければ問題ないだろう。
強引に結晶化させるのは罪だが所持するだけなら罪では無いし」
「そんなものですか。
ちなみに希少性が高いなら実はかなり高価なんじゃないですか?」
「安くはないがそこまでではないぞ。
宝石としての価値は他のものより劣るし、獣魔の巣やダンジョンを探せば見つかることもある。
何より数年前に海辺の町で大型の貝の従魔が毎月1つ生産することが発見された。
まぁここから大分遠い町だから輸送費は掛かるがな」
貝の従魔って、真珠貝みたいな?
意思の疎通とかどうやったんだろう。
でもとにかく持っていても問題ない事は分かった。
「それでこれの加工ってお願い出来ますか?」
「残念だがそれは専門外だ。代わりに知り合いの職人を紹介しよう」
「ありがとうございます」
おじいさんは懐から紙と筆を取り出してサラサラと紹介状を書いてくれた。
そして書き終えた後筆は再び懐に仕舞われる。
……おじいさんの服の中はアイテムボックスなのかな?
「場所は王都の北、鉱山の町から更に奥に行った場所にある町だ。
周辺のモンスターはちと強いが今のお前さんなら大丈夫だろう。
ついでに鉱山の町で武器も新調していくと良い」
「分かりました」
僕の普段使ってる短剣は2つ。
1つはミッチャーさんからのお下がりの火属性の短剣。
もう1つはこの町で買ったものだ。
ゲームのお約束として最初の町で買える武器より先にある町の方が良い武器が売ってるものだろう。
鉱山の町なら鍛冶屋も多そうだし。
王都に戻った僕は馬に乗って早速北へ。
道中のモンスターは無視で良いかな。
見慣れない薬草とか生えてたら寄り道して行こう。
あ、あと配信も再開してっと。
「ラキアです。アクセサリーの件ですが、職人さんの所に行ったら自分はアクセサリーは専門外だからと言われてしまいました。
なので今は別の職人の元に向かうために王都から北上中です」
『王都の北っていうと鉱山の町か』
『あそこに宝飾系の職人なんていたっけ』
『職人系のプレイヤーに頼むって手もありそうだけど』
「あ、たしかに」
最初の町でも自作の服を売ってる人達が居たし、アクセサリーを作ってる人も普通に居そうだ。
ただ従魔結晶はあまり大っぴらに見せるものではないみたいだし、出来れば信用の置ける人に託したい。
って、あれ?
前方の地面に黒い網が落ちてる。
「よっと」
馬から降りて観察してみると網の4隅に細い糸が付いてて少し離れた木の枝に繋がっていた。
ということはモンスターを捕まえるための罠?
でも周囲を見渡してもプレイヤーの姿は無い。
もしかして設置するだけ設置してどこかに行ってしまったんだろうか。
「まったく危ないなぁ」
間違って通行人が踏んだらどうするんだ。
こういう時はあれだ。
「えいっ」
どしんっ。ギュンッ!
手頃な岩を投げ込んで罠を発動させた。
これでもう大丈夫だろう。




