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不自由な僕らのアナザーライフ  作者: たてみん


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115/128

115.整理整頓掃除は大事

 秋イベントも終わり王都はいつもの静けさを取り戻した。

 なんてモノローグを考えたけど、そもそも僕まだそんなに長く王都に滞在している訳じゃないのでこれがいつもなのかは分からない。

 それなりに人通りはあるしプレイヤーだらけってこともないのでまぁ普通だろう。

 そんな街並みを見ながら外壁の外に出れば相変わらず広大な畑があってこの世界の農家の人と農業プレイヤーがせっせと働く平和な風景が広がっている。


「大分虫が増えたかな」


 最初に王都に到着した時、王都の畑には虫の姿が全然無かったけど、今は蜂や蝶などの花の蜜を求めて来た虫や、その虫を狙う蜘蛛やカマキリの姿もあった。

 あ、もちろん全部普通かそれよりちょっと大きいくらいでフランみたいにぬいぐるみサイズではない。

 綺麗な景色も良いけど、こういう自然の営みを眺めるのも良いよね。

 平和平和。

 だけどその平和を乱す存在が最近増えた。


「ラキア殿とお見受けする。

 どうか吾輩と手合わせ願いたい」


 時々こうして見知らぬプレイヤーから勝負を挑まれるようになってしまったのだ。

 秋イベントで勇者チームに目を付けられて名前を公表されたのが原因だろう。

 大会に参加した時点で参加者名簿を見れば僕達の名前は分かってしまうので、言う程違いは無いかもしれないけど運営には伏せておいて欲しかったな。

 そしてこういう人に対する返事は決めてある。


「すみません。僕は対人戦に興味が無いのでお断りします」

「そこを何とか。せめて1太刀だけでも」

「じゃあ本当に1撃だけ。勝敗が付かなくてもそれで終わりですからね」

「かたじけない」


 この人はまだマシな方で、しつこい人だと何度断っても申し込んでくる人とか「受けるまでここは通さぬ」みたいに邪魔してくる人。果ては問答無用で攻撃してくる人まで居る。

 まあ最後の人達はそこまで強い人は居なかったので、フランの糸拘束から心臓一突きか首ちょんぱでお帰り頂いている。

 その内PK専門のプレイヤーとか来ないよね。流石にそれに勝てる自信はないんだけど。

 ともかくPvPの申し込みが飛んできたので受け取りつつ僕らは武器を構えた。


(あ、この人大会に出てた人か)


 話し方からして古風な感じだなと思ってたけど、個人戦を抜刀術で戦ってた人だ。

 今も刀を鞘から抜かずにその場で居合い抜きの構えを取っている。

 多分リアルでも剣術道場に通ってるとか師範代とかそういう人なんだろう。

 

(構えがすごく綺麗だ)


 そこから放たれる1太刀は、恐らく僕の短剣では受け止めきれないし、防具もまとめて真っ二つにされそうだ。

 でも綺麗すぎるからこそ視えてしまうものもある。


「えっと、ここかな」


 無造作に3歩前に出て立ち止まる。

 それを見た相手は目を見開いた。


「まさか。この一瞬で吾輩の間合いを完全に見切ったというのですか」


 僕が立った場所は居合い抜きを放たれたら薄皮1枚が切れるかなっていう位置。

 もちろん半歩踏み込めば必殺の間合いに至るけど、その半歩分の時間があれば離れることも逆に懐に潜り込むことも出来る。

 ゲーム的にどこまで再現されてるかは分からないけど鍔元近くなら威力も出ないはず。

 あとの問題は、僕の方からではここから迂闊に近づけないのでどうしようかなっていう。

 内心悩んでいると相手が構えを解いた。


「どうやら吾輩の負けのようだ。お時間を取って頂き感謝する」

「あ、いえ。満足して頂けたようで良かったです」


 勝手に納得してくれて良かった。

 一礼して去っていく背中を見送ると周囲から拍手が送られてきた。

 

「って、ギャラリー居たの!?」


 周囲には10人くらいの人が僕らの戦いを見学していた。

 畑仕事の手を止めて観てる人まで。

 僕はその人達に軽く手を振ってその場を走り去ることにした。

 はぁ~びっくりした。


『配信も見てま~す』

『相手の気迫が伝わって来てマジドキドキした』

『ラキアさんの余裕な自然体が鬼ヤバでした』

 

 そうだった。クレーム対策に配信も流してるんだった。

 なお現在の視聴者数は2000人を超えている。

 みんな暇なの?


『多分今だけ。すぐに落ち着くわよ』


 とはコロンの言だけどそうであってほしい。

 気を取り直して花畑へと向かう道すがら。

 この辺りも大分植物が増えてきた。

 どうやら僕の花畑を起点にして緑地化が広がっているみたいなんだよね。

 それに気付いた誰かが花畑と王都を繋ぐように地面に鍬を入れていった結果、草の道が出来上がり、更に広範囲に草の種が散っていった。

 このまま数年も経てば王都の周りの荒地も緑豊かな草原になるんじゃないかな。

 あ、ちなみにミントは僕の敷地から出ていないから大丈夫。

 竹林も最初に決めた範囲で落ち着いていて実に賢い。

 むしろ他の草花の方が自由奔放で困る。

 一応歩けるくらいには道を残してくれてるんだけどそれ以外はみっしりだ。

 敷地の外にも飛びだしてるし。

 それで今日は花畑に来て何をするかというと、ゴミ拾いだ。

 先日のイベントで敵が花畑の中にある池にゴミを投げ込んでいったんだよね。

 池の中だし放置しても害はない気もするけど、家の中にゴミが落ちてるのはダメだ。


「想定外の場所に荷物を置かれると踏んだり蹴ったりして危ないですよね」

『いや避けて歩けば良いだけでは?』

『ラキアさんはドジっ子属性持ち?』

「いやドジでは無いはず」


 家の中では家具の配置とかは全部覚えてるし白杖は持ち歩かないから、普段あるはずのものが無かったり逆に鞄とかが置いてあると気付かず蹴飛ばしてしまう。

 それで以前お姉ちゃんの友達が遊びに来た時に転んだっけ。

 ともかく今日はゴミ拾い。

 その為の強力な助っ人も呼んでおいた。


「ご紹介します。ラッコの獣魔さんです。

 先日の療養所から救助したうちの1体で、王都で買った川魚の塩焼き2匹で交渉しました」

(きゅいきゅい)

『え、なにその子可愛い』

『獣魔救出作戦でそんな特典があったなんて』

『従魔法具に切り替えた人達はこれを手放したのか……』


 動物園でもラッコは人気が高いので視聴者からの反応も良い。

 ただこの子、水が無くても生きては行けるらしいんだけど陸地では腹ばいで匍匐前進だから遅い。

 基本抱えるか背負っての移動になるので従魔にすると考えると敷居が高いかも。

 その分、水中では無類の強さを誇るんだけど。


「それじゃあよろしくお願いします」

(きゅい)


 元気よく手を挙げて池の中に飛び込んでいくラッコさん。

 そして1分と掛からずに問題の箱を頭にのせて戻ってきた。


「ありがと」

(きゅい)


 箱を受け取ってお礼を言うとラッコさんは優雅に池の中を泳ぎ始めた。

 どうやらすぐには帰らずここで少し遊んでいくつもりらしい。

 まあご自由にどうぞ。

 僕はその間に箱の中身を確認することにした。

 鍵とかは掛かってないらしい。


「これは……」

『おぉ、宝石箱!』

「じゃぁないです。これ宝石じゃなくて飴玉みたいなものです」

『えっ食べられるの?!』


 箱に入ってたのは例の少年が美味しくないと顔を顰めていた奴だ。

 試しに小さめのを1つ取って口の中に入れてみても何の味もしないし本当に石を食べてる気分だ。

 更に飲み込んでみても何も起きない。消化できてないってだけかもだけど。


(くすくす)

「え、フラン食べたいの? じゃあ、はい。硬いから気を付けて」

コリコリコリコリッ


 おぉ食べてる。フランって意外と歯と顎は丈夫なんだね。

 そして食べ終えたフランは……ちょっとしょんぼりしてる。

 やっぱり美味しくなかったらしい。

 口直しの果物あげたら喜んで丸かじりしてるし。

 しかしそうなると残った飴玉どうしよう。

 まだ結構な数あるんだけど。



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