113.ええい、合体させればいいじゃないっ(やけくそ)
『僕は戦闘に参加しないからまた後でね』
そう言い残して少年は飛び去ってしまった。
いやうん。最初から普通の子供だとは思って無かったけど、重力無視して飛べるのか。
ま、少年が何者かは別に詮索しなくても良いだろう。
それより目の前のモンスターの対応だ。
ちらりと闘技場の外に目を向けてみると逃げ出す人の姿もモンスターの姿も見えない。
多分モンスター発生と同時に出口も封鎖されたんだろう。
あ、でも王都の方から向かって来てる人は居るから途中参加は可能なのかも。
そして闘技場の中はといえば大分落ち着きを取り戻してきている。
『モンスターの狙いは従魔だ。従魔法具持ちは積極的に前へ』
『羽虫なら風圧に弱いはず。風魔法を使える人は攻撃よりも強風で敵を翻弄するんだ』
『非戦闘プレイヤーはとにかく自分の従魔を守れ』
『夏イベントと同じ流れなら従魔がやられる程、この後のボスが強くなる。
絶対に従魔を守り抜くんだ!』
『電光石火』のハルトさんを始め、トップ攻略チームの人達が声を掛けて立て直しを図っていた。
そのお陰でモンスターに襲われる従魔は大分減ったように見える。
という事はそろそろだな。
「GRAAAAッ」
「jiiiiii!!」
地上と空で同時にボスモンスターの鳴き声が響いた。
それに呼応して散らばっていたモンスターが数か所に集まって合体。
1体が5メートル級の大型モンスターへと変貌した。
合体したモンスターは先ほどとは比べ物にならないパワーで観客席もろともプレイヤーを吹き飛ばしていく。
だけど。
「こっちの方が楽」
「ですね」
そのうちの1体の攻撃をコロンの大楯が防いで動きを止め、すかさずフォニーが脳天を叩き潰して討伐して見せた。
湧き上がる歓声。
そしてそれに続けと他プレイヤー達も反撃を開始した。
これなら地上は大丈夫そうだ。
だけど問題は空。
羽虫のモンスターも合体して巨大化していた。
こちらは手の届かない中空に居るし、大きくなった羽はちょっとの風ではびくともしないどころか逆に突風を巻き起こして地上を攻撃している。
お陰で弓も魔法も風で逸らされて当たらない。
ちょっとずるくないかな。
なんて思ったりもするけど、それを言ったら女神の祝福を貰ってるプレイヤーの方がずるい。
「はっはっはーっ。空の覇者を名乗るには100億光年早いぜ!」
「イールさん。それに」
「ひゅ~~、良い風吹いてるねぇ」
「真っすぐ飛んですべてを焼き尽くすのよ!」
両腕が翼になっているイールさんを始め、グライダーで飛ぶ人やボードで空中を滑走する人、更には箒で飛ぶ魔女スタイルの人まで。
やっぱり空を自由に飛びたいっていうのは人類共通の夢なんだろう。
彼らによって羽虫モンスターも攻略されていく。
「一方的だな」
なぜなら速度が違う。
この羽虫モンスターは蚊をイメージしたものなんだろうけど、その所為で静音性とホバリングに重点を置いていて蠅や蜻蛉みたいに高速飛行には適していない。
更に大きくなってしまったので動きがもっさりしている。
気球vs飛行機。
それくらい動きに差があるし、風を起こして防御に徹しようにも空を飛べるプレイヤーはやっぱり風系統のスキルも持っているので焼け石に水だ。
こうなってくると最大の問題はあれだ。
(折角外壁に登ったのに僕の出番が無い)
このまま静観しているだけで無事に勝ててしまいそうだ。
フォニー達が頑張ってるのに僕だけ楽してて良いんだろうか。
当初のボスを見つけ出して倒すっていうのも、敵が無数に居たから意味があっただけで今みたいに両手で数えられるくらいに纏まってくれてるならあまり意味が無い。
そして敵もこのままじゃマズいと考えたようだ。
カッ!
上空の雲が雷で光ったかと思えば魔法陣みたいなのが浮かび上がった。
同時に地上に居たモンスターも羽虫のモンスターも全て靄のようになってその魔法陣に吸いこまれていく。
どうやら早々に第3段階に移行したようだ。
これで最後かな? 流石にまだあるって言われたらくどい気がするし。
生き残っているプレイヤー全員が見守る中、魔法陣が明滅を繰り返し。
「……」
「……」
「…………え、まだ?」
数分待っても何も出てこない。
何かトラブルかな?
他の皆もざわついてるし、絶対によくあることでは無さそうな雰囲気なんだけど。
あ、やっと出てきた。けど。
「あれって」
「「えぇ~~」」
なんとも残念な声が響き渡る。
いやそれも仕方ないだろう。
なにせ出てきたのはさっきまで戦っていた地上のモンスターと羽虫のモンスターを合体させただけのキメラだったのだから。
まあ多分だけど、さっきよりさらに巨大化してるからパワーとか凄いんだろうけどね。
でもなんか手抜きっていうか「慌てて取り繕いました」感がハンパない。
多分本当になにかトラブルが起きてて運営の人達は今てんやわんやなんだろうなぁ。
ともかくこれが最後だという証拠に上空の雲も無くなり、地上に降り立った巨大モンスターとのラストバトルが始まった。
「流石に一筋縄では行かないか」
残念感は漂っててもボスはボスだ。
それにみんなここまでの戦いでかなり疲弊してるので苦戦している。
強そうなプレイヤーが数人後方に下がったのは魔力補給の為かな。
さっきまで守られてた人達が中心になって休憩所みたいなのが作られてるし。
そうした中、僕に出来ることは何だろうと考える。
僕の特技と言えばやっぱり視ることだ。
最近は自分のだけじゃなく相手の視線も分かるようになってきた。
ちなみにこの巨大モンスター、前にも後ろにも目が付いている。
(合体させるときに前後間違えた?)
いやそんな初歩的なミスはしないか。
それにそのお陰で全方位のプレイヤーに油断なく対応出来てるし。
だから死角はない……事も無いか。
真上やや前寄りが見えてないな。
あと多分、お腹の下も死角だ。潜り込むのはほぼ無理だけど。
それを踏まえて敵の急所を探すと……あれだな。
ボウガンだと周囲の風で防がれる。なら近づいて短剣で切るしかないか。
『コロン、手伝ってほしい事があるんだけど』
『何?』
『ボスの真上付近に行きたいんだけど足場作ってくれないかな』
『……私の盾は踏み台じゃないんだけど。まぁいいわ。すぐそっちに行く』
『うん、ごめんね』
イールさんに運んでもらうというのも考えたけど、やっぱりここはチームメンバーの力を借りるべきだろう。
ボス前から僕の所まで来てくれたコロンは鱗盾を空中に出現させて足場を作ってくれた。
「多分距離的にボスの上には届かないわよ?」
「ありがとう。行けるところまでで大丈夫。最後の1枚は長めに残しておいて」
コロンにお礼を言いつつ足場を駆け抜ける。
下を見ればコロンも真下を走っていた。多分少しでも長く盾を出していられるようにしてくれてるんだ。
それでもボスまでまだ距離があるところで最後の1枚になった。
その数歩手前。僕はその1枚にフランの糸を投げて巻き付けて、糸の反対側を持って飛び降りた。
重力で加速しつつ、振り子の要領で軌道を真下ではなく斜め前に変えた僕は無事にボスモンスターの首の後ろくらいに着地した。
「ここまでは成功だな」
正直、飛距離が足りなくてボスの目の前に落ちる可能性もあった。
そうなってたらあっという間に踏みつぶされて終わってた。
幸いここはさっき確認した死角の場所なので巨大なボスは僕が乗った事にも気付いてないだろう。
僕は短剣を構えてボスの背中を凝視した。
「やっぱりやっつけ仕事なんだろうなぁ」
元々違う2種類のモンスターを強引につなぎ合わせようとした結果、その縫い目が残ってしまっていた。
上手く保護色にしたつもりなんだろうけど僕には視えている。
なのでそこに短剣を刺しこんでいけば結合が解けてボスはその姿を維持できなくなるって寸法だ。
プツプツと糸が切れると同時にボスが悲鳴を上げている。
やはり急所のようだ。
反撃しようにも僕は『背中の手が届かない場所』に居るし周囲のプレイヤーの相手もしないといけないから振り落とすことも出来ない。
「これで最後っと」
プチっという音を立てた後、ボスの身体はがばっと上半分がダンプカーの荷台のように持ち上がりながら全体が崩壊し消えていった。




