112.下から上から
武闘大会団体戦決勝。
残念ながらそれは、いまいち盛り上がりに欠けていた。
「え、なんで?」
「さぁ」
フォニーに聞いても首を傾げるばかり。
勝負の内容はさすが決勝戦というだけあって見応えはあるし、チームとしての戦術も勉強になるところが多い。
それなのに他の人達の反応は、まあぼちぼち、くらい?
もしかしたらこの後に待ち受ける事件に思いを馳せているのかと思ったけど視線はまっすぐステージに向けられているのでそうでも無さそう。
「あ、私分かったかも」
「おっ流石コロン。それで原因は?」
「多分だけどドラマ性不足。私、相手チームの事を名前くらいしか知らない」
ドラマ性って、あぁそういう。
例えば『因縁のライバル対決!』とか『至高vs究極』みたいに燃える展開が無いのか。
もしくは悪役ロールとかでも良いから尖った部分があると一方を応援したくなるんだけどそう言うのも無い。
どっちも強くてどっちも正統派なチームだから「どっちが勝っても良いんじゃない?」って言う空気になってるのか。
もっと言うとここまでの試合で大体手の内も見えてしまっているので目新しさも無い。
最後まで温存しておいた最終奥義があれば良いのになって思うけどそれは欲張り過ぎだろう。
「あ、みっちゃんが仕掛けに行った!」
「相手の脇をすり抜けて後衛に向かったね」
「でも相手もそれは予想済みだったみたいです」
敵陣深くへと飛び込んだミッチャーさんは魔法の壁に阻まれて後衛まで手が届かない。
足の止まったミッチャーさんに遠距離攻撃が集中するけど。
残念それは残像だ。
その場に影だけ残して実際に向かったのはハルトさんと勝負している相手リーダーの背中。
ただそこでも撫でるくらいの斬撃を残して駆け抜けていった。
「今倒せましたよね?」
「多分。でもそれじゃあつまらないと思ったんじゃない? 証拠にほら」
ミッチャーさんの所為で集中力が途切れた相手リーダーにハルトさん渾身の一撃が突き刺さった。
それを見て歓声を上げる観客たち。
やっぱりとどめの一撃はリーダーが放った方が映えるよね。
そうして団体戦の優勝は『電光石火』チームで決まった。
その直後。
「来たね」
「はい」
「フォニーの読み通り」
場外部分の地面が崩れて飛びだしてくる大量のモンスター。
予選を終えた時にフォニーから「ステージの下に空洞がある」と聞かされていた。
そこから考えていたのは今目の前で起きてる通りの光景だ。
今回のイベントはとことん地中を掘るのが好きらしい。
なお出てきたモンスターは先日の獣魔の療養所で戦ったモンスターに似た見た目だ。でもちょっと強そうだから強化版かな。
モンスター達はステージ上には目もくれず観客席へと乗り込んで来た。
各所で上がる悲鳴。
応戦する人も居れば 慌てて逃げようとする人も居る。
お陰でちょっとしたパニック状態だ。
(これはすぐに動いたら巻き込まれそうだな)
なので僕らは壁際に固まってここからどうしようかと考えることにした。
あぁそうそう。僕らの周りはコロンがガードしてくれてるからひとまず安全だ。
お陰でゆっくりこれからの行動方針を決められる。
「敵の狙いは従魔で間違いないよね」
「ここまでのイベントの流れから考えても間違いないと思います」
「闘技場を狙ってきたのも今なら従魔持ちのプレイヤーが沢山集まってるからって考えるのが妥当」
「返り討ちに遭うリスクも高いのに」
それでもやる価値はあると判断した根拠は何だろう。
地面から飛び出すっていうプレイヤーの意表を突くことで勝てると踏んだ?
確かに最初こそ混乱したけど、時間が経てばみんな落ち着いて対処し始めるだろう。
このまま鎮圧して終わり、なんて詰まらない話では無いはず。
「おい上を見ろ。空から何か降ってくるぞ」
誰かの声を聞いて空を見上げる。
決勝戦の前くらいから曇っていた空から遂に雨が降り出したのかと思えば違った。
雲の中からまるで黒い柱の様なものが何本も落ちてきていた。
その正体は羽虫の大群。
「もしかして蚊柱?」
「ラキア君。本来の蚊柱は地上から上昇気流に乗って立ち上るものです」
冷静なフォニーのツッコミを聞きつつ、こちらが本命なのかもと思う。
地上はまだまだ混戦状態だ。そこに空から奇襲をかけて従魔を狙う。
そういう作戦なのかも。
あとこの物量で来るやり方はこの前見た。
多分だけどボスを倒さないといけない奴。
であるならばだ。
「ふたりとも。僕は羽虫のボスを見つけ出して倒そうと思う」
「援護は要りますか?」
「ううん。羽虫が相手ならフランの独壇場だから大丈夫」
「なら私達は地上の支援に向かいます」
「気を付けて。夏イベントみたいに魔神とかラスボスとかが控えてる可能性もあるから」
「はい」
そうして僕らは2手に分かれた。
僕の目指すは観客席の外壁の上。フランに手伝って貰いながらなんとかよじ登った。
その間も空から降ってきた羽虫たちが僕というよりフランを狙おうとしてたけど、全部フランの糸に絡め取られて落ちていく。
「やっぱりフランの糸って、こういう羽のある虫に強すぎない?」
(くすくすくす)
糸を扱う従魔なら他にも居そうだからフランだけが特別とは言わないけど。
ともかく高い所に登ったお陰で闘技場全体が良く見える。
プレイヤーは10人~20人くらいずつで纏まって防御を固めているけど、それを嘲笑うかのように羽虫たちが上から静かに従魔を狙っていた。
広範囲の魔法を放って焼き尽くしても後から後から湧いて来るので切りがない。
「あっ、取り付かれた」
従魔に取り付いた羽虫は本当に蚊のようにその嘴を従魔に当てて何かを吸い出すような仕草をしていた。
それに気付いた近くのプレイヤーが慌てて羽虫を倒したけど時すでに遅し。
従魔はぐったりとその場にへたり込んでしまった。
そんな光景が他の場所でも散見されている。
吸い出された何か(精気?)は羽虫が倒されても煙のように立ち昇り、風も無いのに横に流れていくと全てが1か所に集まっていく。
その先に居るのは……見覚えのある少年だった。
僕は外壁から足を踏み外さないように慎重に進んで彼の元まで辿り着いた。
「やあ少年。また会ったね」
「やあお兄ちゃん。また会ったね」
昼間のやり取り再び。
違うのは僕の手には肉串ではなく短剣が握られており、少年の手の中には色とりどりの石があった。
挨拶している間にもその石が1つ追加されていた。
どうやら従魔から吸い出された物がああして結晶化しているようだ。
まぁそれはともかく。
「こんなところで何してるの?」
「ご飯が貰えるって聞いたから来たんだ。でも」
答えつつ手の中の石を1つ口の中に入れた。
あれ石かと思ったけど飴玉だったのか。
でもガリガリと噛み砕いてる少年の表情は優れない。
「あんまり美味しくない?」
「うん……栄養はありそうなんだけど。僕はお兄ちゃんに貰った肉串とかの方が好き」
あれかな。
『カロリースティック』とか『10秒ライフinゼリー』みたいな。
お腹は膨れるし栄養もあるのは分かるけど、食べて幸せになれるかは別ってやつ。
それで生活してると段々心が動かなくなって機械になるから気を付けろってお姉ちゃんが言ってた。
つまり子供に必要なのは栄養よりも美味しい食事!
それなら僕に当てがある。
「このイベントが終わったら、みんなで打ち上げしようと思ってるんだけど、来る?
美味しい料理も沢山あるよ」
「え、いいの? でも僕、今お兄ちゃんに渡せる情報無いかも」
「そこは心配しなくて大丈夫。
お祝い事は皆で楽しむものだから。
特に今回、少年のお陰で色々助かった部分もあるからね。
みんなも歓迎してくれるよ」
「わぁ。うんじゃあ行く!」
よし。じゃあ楽しみにしてる少年の為にもこのイベントは大成功で終わらせないといけないな。
気合を入れてボスモンスターを討伐して行こう。




