110.やってる本人は緊張してたんです
そしてやってきました団体戦。
参加する予定は全く無かったのでまさか自分がステージに立つ側になるとはびっくりだ。
それと団体戦も個人戦同様に参加チーム多数の為、予選は4ステージ同時、かつ各ステージに1チームから3人、5~6チームが決勝トーナメントへのチケットを賭けて戦う。
それ以外のルールは決勝トーナメント同様にチームから1人リーダーが決まっていてリーダーがやられると敗退。チームメンバーも強制的に控室に戻されることになる。
「ステージの上からだと観客席は見えないんだね」
「決勝トーナメントでは見えるそうですよ」
観客席からはステージ上は小さく見えていたので逆はどうなんだろうと楽しみにしていたのに拍子抜けだ。
代わりに歓声だけは聞こえるっぽい。
なので意識すると僕らの事を言ってる声がそこかしこから聞こえてくる。
『おい見ろよあそこ。例の3人組だ』
『装備も地味だしあまり強そうには見えないなぁ』
『特殊な祝福持ちなのか?』
『なんでもいいから真ん中の男、俺と替われ!』
『他のチームであの裏山男をタコ殴りにするのだ』
なにか呪詛の様なものも聞こえるけど気にしない事にしよう。
それよりも気にすべきは対戦相手の5チームだ。
幸いにして知らない人ばかり。
これなら心置きなく叩きのめせる。
いや逆に叩きのめされる可能性の方が高いけど。
「見られてるね」
「はい。まぁ仕方ないと思います」
「有名税って奴ね」
全チームが他を無視して僕らを注視していた。
これもしかして本当に全チームが一丸となって僕らを攻撃する未来もあり得るな。
「じゃあ最初は作戦通りに」
「はい」
「失敗したら笑ってあげる」
審判役の騎士団員が参加者を見回し、準備が出来ていることを確認した。
そして右手を上げて、
「それでは団体戦予選第1試合。始め!」
開始の合図と共に僕は堂々と前に一歩出た。
それを見た対戦相手は、半分くらいの人が驚いた顔をしてる。
なにせ僕が『十六夜』チームのリーダーなのだ。
落とされれば即チーム敗退が決まるので普通なら後ろに控えてるのが常識。
特に見るからに盾役のコロンが居るのだから、それを無視して前に出るなんてありえない。
「まさか1人で俺達全員を相手しようってのか?」
「舐めやがって。やるぞ皆」
「おう!」
どこかのチームリーダーの掛け声で5チーム15人が一斉に僕に武器を向けた。
だけどそれは僕にとって期待通りの動きだ。
お陰で勝てる可能性が出てきた。
彼らの一番の勘違いは、自分たちがいつも一緒に活動してるチームメンバーではないという事だ。
その状態では当然連携なんて取れるはずもない。
僕に武器が届くのなんて先頭の2人くらいなもの。
遠距離プレイヤーは仲間が邪魔で攻撃出来ないし、近距離プレイヤーも僕しか視えていないから何もできずに団子状態だ。
「ここっ!」
「俺の一撃を受けただと!?」
「だがこれでお前の両手は塞がったぞ」
僕は先頭2人の攻撃を短剣でそれぞれ受け止めることに成功した。
問題はここから。
女神の祝福で攻撃がすり抜けるとか、電撃で追撃とか無い?
受け止める為に結構足を踏ん張ってるから足元掬われると困るんだけどそれも無し?
よかった。これなら僕達の勝ちだ。
「おい、どうして追撃しないん……」
最初の1撃を放ったプレイヤーが後ろを振り返ろうとしてそのまま消えていった。
リーダーが倒されたので控室に飛ばされたのだ。
「いったい何がおき……」
続くもう1人も訳が分かってない顔のまま消えていく。
そしてステージ上に残ったのは僕ら3人だけ。
それを見て審判の騎士団員が淡々と宣言した。
「勝者『十六夜』チーム。
おめでとうございます。それでは控室に転送いたします」
控室に戻ってきた僕達は緊張を解きほぐすように椅子に座って息を吐いた。
いや緊張してたのは僕だけか。
「上手くいって良かったね」
「むしろ上手く行き過ぎ。これ絶対また騒がしくなるわよ」
「何というかものすごく消化不良です」
おっとフォニーが若干バトルジャンキーな発言をしている。
でもまぁそう言ってしまうのも仕方ないのかも。
なにせ僕が全員の視線を集めてる隙に相手リーダーを背後から殴って回るだけの簡単なお仕事だったから。
抵抗されるどころかフォニーもコロンも気付かれてなかった。
もちろんこれは僕だけの手柄ではなく、足音や打撃音はフォニーが消していたし、コロンも盾を保護色にして隠れながら行動してくれたから出来た芸当だ。
「掲示板では私とフォニーが高レベルの隠形スキル持ちなんじゃないかって言われてるわ」
「実際にはそんなスキル、欠片も持ってないんですけど」
「あ、こいつラキアの事を悪く言ってる」
「まあまあ。僕がやったのなんて相手の視線を一身に受けて生き延びたってだけだし」
「でもラキアが居なかったら苦戦は必至だった」
「僕だけでは勝てなかったのも事実だよ」
結局どちらが欠けても勝てなかった。それでいいと思う。
それこそがチームで戦う事の意義なんだから。
「それより決勝トーナメント1回戦をどうやって負けるかを考えよう」
「「え?」」
「ん?」
僕の言葉に驚きの声が返ってきた。
あれ、そんなに変なこと言ったかな。
「あ、もしかして二人とも優勝したかった?」
「いえ、流石にそれは難しいと思いますけど」
「決勝トーナメントは6人まで参加OKだし、普通に考えて優勝は無理ね」
そう、予選は全チーム3人ずつだったけど決勝トーナメントは最大6人まで参加できるのだ。
トップチーム相手に人数半分で勝てる可能性はほぼ無い。
流石に同じ手は通用しないだろうし。
チーム『十六夜』のお披露目としては予選突破出来たことで十分だろう。
「それに本番は決勝戦の後、でしょ?」
「そうだった」
「あの、そのことで今日ステージに立って確信が持てたんですけど」
フォニーの説明に僕らはお互いに顔を見合わせて頷く。
どうやら敵の計画が判明したようだ。
だけどそれが全容とは限らない。
もっと別のルートもあるかもだから油断は禁物だ。
それか別のは他のプレイヤーに任せて僕らはフォニーが見つけてくれたのに専念するのもありだな。
まあそれもこれもまずは僕達の大会を終わらせてから考えよう。
「でもその前に」
「その前に?」
「腹ごしらえに行こう」
闘技場の外に出ればそこにあるのは王都まで続く屋台の行列。
お祭り気分で人が集まる時は財布の紐も緩みやすくなるので商売人にとっては稼ぎ時だ。
食べ物、飲み物、お酒の屋台は当然として、アクセサリーやお土産の屋台も並んでいる。
その中で僕らが向かうのは食べ物の屋台だ。
僕は早速いい匂いを放ってる肉串屋に突撃した。
「やあおっちゃん。儲かってるかい?」
「おう、ぼちぼちな!」
景気のいい挨拶を交わしながら焼けている肉串を見る。
脂も乗っていてなかなかに美味しそうだ。
何の肉かは、聞かぬが花って奴かな。
まあ僕の味覚なんて牛と豚は何とか見分けられる程度で部位を当てろとか言われても絶対無理なレベルだ。
だから美味しければ細かいことは気にしない。
「じゃあその肉串を」
「じー……」
「4本もらおうか」
「まいど!」
早速焼きあがった串を受け取りフォニー達に1本ずつ渡す。
そして。
さっきから僕の持ってる肉串をじっと見てる少年の前に1本持っていく。
「やあ少年。また会ったね」
「やあお兄ちゃん。また会ったね」
真似された。
そう、そこに居たのは以前焼き鳥をあげた少年だった。
「肉串欲しい?」
「うん」
「そういう時はどうするんだっけ」
「えっと……あ、そうだ。
『今日は午後から、上も下も騒がしくなるから注意した方が良いよ』。これでいい?」
少年は以前僕が教えたように何かが欲しい時は情報を対価にするというのを実践してくれた。
それにしても上と下が騒がしくなるってなんだろう?
まあともかく僕は少年に持っていた肉串を渡した。
少年は口をめいっぱい開けて肉串に齧り付くと満面の笑みで「美味しいね」って笑っていた。
かと思えばその目が向こうに居た女性プレイヤーをロックオンした。
「あ、おでんのお姉ちゃんだ。僕ちょっと行ってくるね。
肉串ありがとう、お兄ちゃん!」
あっという間に肉串を食べ切った少年はその女性プレイヤーの元に突撃していった。
『お姉ちゃん、このまえはおでんありがとう!』
『あらあら、ちゃんとお礼を言えて偉いですね。
じゃあ今日は一緒にこのトンジルを食べませんか』
『やったーお姉ちゃん大好き!』
遠くで微笑ましいやり取りをしてるのが見えた。
いつの間にかあの少年も逞しくなったものだ。
あれだけ世渡り上手になればしっかり生きていけるだろう。




