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不自由な僕らのアナザーライフ  作者: たてみん


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109/128

109.突然ですがチーム結成します

 闘技場を抜け出した僕達は冒険者ギルドの一室へと避難していた。


「居たか?」

「いやダメだ。探索系の祝福持ちもプライバシー保護の影響でマーカーを付けてないプレイヤーの位置情報は把握出来ないそうだ」

「既にログアウトしてる可能性もある」

「それならログイン場所を特定出来れば出待ちするって手もあるが」

「無理だろう。王都の宿屋は口が堅い。宿泊客の情報を聞き出そうとしたら衛兵を呼ばれるぞ」

「ちっ、とにかく探すぞ」


 部屋の窓から僕らを探すプレイヤー達が散っていくのを見ながら大きく息を吐いた。

 ひとまずこれでしばらくは時間を稼げるだろう。

 ここに案内してくれたギルド受付のニットさんは僕達の為にお茶を用意してくれていた。


「すみません、ニットさん。急に匿ってほしいなんてお願いをしてしまって」

「冒険者を保護するのもギルドの役目ですからお気になさらず。

 それよりどういう状況なのか教えて頂けますか?」

「はい」


 僕は決勝戦の後で起きた闘技場での出来事をかいつまんで説明した。

 それを聞いたニットさんは首を傾げる。

 どうやら説明した内容と今の状況が繋がらなかったらしい。


「闘技場でのことは理解しました。

 勇者様方は悪い人ではないのですが、遊び心が豊かと申しますか。

 きっとラキア様達を評価したからこその行動だと思います」

「あ、はい。それは何となく分かってます。きっと悪気は無かったんでしょう」

「はい。ですがそれと異界の方々がラキア様達を探し回ることにどう繋がるんですか?」

「多分自分たちのチームに引き入れたいんだと思います」


 フォニーやコロンはそれなりに有名人だけど、僕はほぼ無名だ。

 以前のイベントでも目立った活躍はしてないし、配信だって超マイナーな日常配信ばかり。

 そんな僕が突然脚光を浴びたら?


『あいつ誰だ?』

『いや知らん』

『無名の新人?』

『どこのチームにも所属してないんじゃないか?』

『なら自分の所に引き入れたら今後の攻略が有利になるんじゃないか』

『更に一緒に居る女子2人も来てくれたら』

『ぐへへっ』


 いやぐへへと言ってたかどうかは分からないけど、そんな会話がされてたのは想像できる。

 きっと今のまま彼らの前に姿を見せればどこかのチームに所属するまでしつこく付きまとってくることだろう。

 はっきり言って嫌すぎる。

 特にフォニーとコロンは女の子だから猶更嫌だろう。

 そこまで聞いたニットさんがポンと手を叩いた。


「それならば良い手がありますよ」

「そうなんですか?」

「はい、簡単です。皆さんでチームを結成してしまえば良いのです」


 確かにそれなら「僕達もうチームに所属してるので」って断れば良いだけか。

 でもその為には1つ問題がある。


「コロンは既に『電光石火』のチームに所属してるよね」

「それなんだけど、ちょっと待って。

 みっちゃん今良い?うん、そう。うん、うん。じゃあ。

 ということで向こうのチームから抜けたわ」


 え。そんなあっさり。良いの?

 今の感じだとミッチャーさんと2言3言話しただけっぽいのに。

 ミッチャーさんの事だから今回の事件を知ってこうなるだろうなって予測してたのかも。

 というかまだチームを結成するとは言ってなかったんだけど、もう後には引けないっぽい。


「えっとじゃあ僕達3人でチームを結成しようか」

「はい」

「ええ」


 二人の合意も取れたので早速新規チームを立ち上げる。

 その為に必要なのはチーム名とリーダーの設定だ。


「リーダーはラキアね」

「はい。私もそれで良いです」

「あれ?」


 僕が何か言う前にリーダーが決まってしまった。

 てっきり年長者がとか、レベルの一番高い人がって話になるのかと思ったのに。

 それとも面倒な役を押し付けたかっただけかな?まぁ良いけど。


「じゃあ後はチーム名だね。何か良い案はある?」

「……『十六夜いざよい』というのはどうでしょう」

「いざよい?ってどんな意味?」

「漢字で書くと十六夜こうです。

 満月を1日過ぎて少し欠けている月の事で、完璧ではないからこその魅力があるという意味です」


 完璧ではない、か。

 なるほど。リアルでは僕は目が見えないしフォニーは耳が聞こえない。コロンも人見知りというか対人関係で問題を抱えていると聞いている。

 そんな僕らが集まって輝けるチーム。


「良いんじゃないかな」

「えぇ。私も良いと思うわ」

「じゃあ決定で」


 リーダーとチーム名も決まっていざチーム結成を、と思ったのだけど、そこで問題が発生した。


【チーム結成には初動メンバーとして5人必要です】

「え」


 まさかの人数不足。

 あ、でも同好会とかも結成するにはメンバー5人と顧問の先生が必要だしそういうものか。

 でもあと2人?

 誰か知り合いに声を掛けてみるか。

 ミッチャーさんは、まず無理だよね。『電光石火』の主要メンバーだし引き抜いたら向こうから怒られる。

 イールさんは、王都警備隊の特別顧問って立場だからこれも特定の冒険者チームに所属は厳しいか。

 後知り合いっていうと王都に移動する時に出会った、チョコパイさんとアップルパイさん?

 いや何となくだけど2人はコロンと相性が悪い気がする。

 ……あれ?

 僕の知り合いってこれだけ?

 既にこのゲームを始めて3か月も経ってるのに。

 フォニーとコロンに目を向けてみるけど首を横に振られた。

 どうやらふたりも呼べる人に心当たりはないらしい。

 さて困ったぞ。

 と思ったところにノックと共に救世主は現れる。なんて都合のいい話は無いか。


コンコンッ

「姉さん居る~?」

「ってホントに来た!」

「はい?」


 部屋に入って来たのは最初の街の冒険者ギルドで受付をしているはずのフェルトさん。

 確かニットさんとは姉妹だって言う話だっけ。

 並んで立っているとほとんど違いが無い。強いて言えばニットさんは目じりに小皺があるくらい?


「(キラッ)!」

「いえ、何でもないです」


 ニットさんに睨まれ慌てて首を横に振る。

 お姉ちゃんもそうだったけど女性は読心術が使えるのは間違いないようだ。

 それはともかく。


「チーム結成には5人必要みたいなんですけど、ニットさんとフェルトさんのお名前を借りても良いですか?」

「あら私達ですか?」

「構わないですが、冒険者ではない私達でも通るのでしょうか」

「まぁ物は試しという事で」


【以下の内容でチームを結成します。

チーム名:十六夜

リーダー:ラキア

メンバー:フォニー、コロン

メンバー(サポーター):フェルト、ニット】


「お、行けたみたいです」

「おめでとうございます」


 サポーターって付いてるのは恐らくこの世界の住人の事だろう。

 普段は冒険に同行しないけど何かあれば優先的に手助けしてくれる、みたいな。


「じゃあラキア。登録が完了したなら次よ」

「次? まだなにかあるの?」

「配信よ。ちゃんと私達がチームを結成したから他所の勧誘は受けませんって宣言しないと」

「それなら明日の武闘大会に参加するのも良いかと思います」

「え、飛び入りで参加できるんですか?」

「今ならまだねじ込めます。ですのですぐに手続きしてきます」


 ねじ込むって。

 言うが早いかニットさんとフェルトさんは部屋を出ていった。

 残された僕達はこのままここで配信だ。

 だいぶ慣れてきた手つきで配信操作を実施する。


「みなさんこんにちは。ラキアです。

 いつもながら突発的な配信ですみません」


 ほんといつも何も告知とかしてないからこれで観てくれる人が居るのが奇跡だと思う。

 ほら今回も早速3人視聴者が増え、え?

 何故か続々と増えていくんだけど。


『あ、出来たら数分待ってほしいです』

『こういう時に40秒で来れないのはモグリ』

「え、え……」


 驚いている間に視聴者は500人を超えた。

 でも驚いてるのは僕だけでフォニーもコロンも当然って顔で頷いてる。


「もしかして皆さん、闘技大会での騒動はご存じなんですか?」

『モチ』

『今各種SNSはその話題で持ち切りです』

『あの勇者チームに目を付けられた奴らは誰だって』

『3割くらいは両手に花でけしからんって言ってる馬鹿だけど』

『以前の薬草園の件もあったから特定もすぐでした』

「はぁ~」


 情報社会恐るべし。

 超絶マイナー配信者の僕の情報がそこまで拡散されているとは。

 まあ僕の方で止めることも出来ないのでそこは諦めるしかない。

 気が付けば視聴者は1000人超えてるし。


「えっと、もうそろそろ良いですか?

 今回はそのことで1つ発表があって動画を回しています。

 実はこの度、僕とフォニーとコロンでチームを結成することになりました。

 チーム名は『十六夜』です」

『おぉ遂に』

『おめでとう!』

『あれでもチーム結成って最初5人以上必要じゃなかったっけ』

「はい。なので現地の方にも入って頂くことで解決しました」

『なるほど、好感度が高いNPCが加入できる仕組みがあったな』

「ということで他チームに勧誘されても全てお断りしますし加入希望も受け付けてません。

 あと、どうして勇者チームに目を付けられたのかとか聞かれても僕達も分かりません。

 今のところ追加のイベント等も発生してないので何も伝えられる事がないです。

 なので粘着とかそういうのは止めてください」


 よし、伝えるべきことは伝えたかな。

 っとそうだ。


「最後に、明日の団体戦の予選に僕らも参加することになりました。

 優勝はまず無理ですが応援よろしくお願いします」

『はぁっ!?』

『勇者に認められた実力、見せて貰おうじゃないか』

『これは明日の団体戦も目が離せないな』



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