108.優勝者へのサプライズプレゼント
個人戦の優勝者が決まった後はそのまま表彰が始まった。
ステージの上には決勝戦の2人の他、準決勝を戦った2人も並んで騎士団長からお褒めの言葉と賞品の授与が行われている。
「普通は団体戦も終わった後に纏めて行うものよねこれ」
「そうなの?」
コロンの言葉に一瞬首を傾げたけど、想像してみると確かにその方が締まりが良い気がする。
なのにそれを別々に行う理由は?
その疑問にフォニーの呟きが重なった。
「そういえばイベント告知にあった個人戦優勝者へのサプライズプレゼントって何でしょう」
「なんか告知してたね」
すっかり忘れてたけどそんな話もあった気がする。
それだけ大々的に「あるよ」って言ったのなら後でこっそり本人にだけ渡しましたとは言わない筈。
なら表彰式で直接手渡すのかな。
などと考えていたら、そのプレゼントが会場入口から登場した。
「おうおう盛り上がってるなあ」
「こんなものを建てる予算があったらもっと貧しい人の為に使えばいいと思います」
「そのお金を私に預けてくれれば何倍にもしてあげるのに」
「……」
賑やかな4人組は一目で強者と分かるオーラを纏っていた。
彼らの姿を見て観客席も騒然となる。
あの人たちはいったい何者なのか。
その答えは表彰の進行を務めていた騎士団長が教えてくれた。
「よく来てくれた。勇者コギトと【鬼神】の方々」
「ああ。ちょうど諸々補給をしたいと思ってたからな。そのついでだ」
勇者コギト。
それは以前、フェルトさんから聞かされた現役最強の冒険者の名前だ。
その最強が率いるチーム【鬼神】のメンバーも当然最強クラスの冒険者だ。
多分だけどここにいる全プレイヤーで勝負を挑んでもあっさり蹴散らされるだろう。
で、その最強がこのタイミングでここに顔を出した理由はと言えば。
「女神の祝福を受けた奴らがどれ程のものかと思って来てみたんだが、まだひよっこだな」
「「!!」」
残念そうに吐き捨てた言葉に会場中のプレイヤーが目を見開いた。
驚き半分、怒り半分って感じかな。
いや。相手はレベル300超えの人だよ?
その人から見たら僕らなんて赤子同然だって。
でも勇者コギトの事を知らない人からしたら、突然やって来たおっさんに見下されたら怒るか。
そして最も怒りを顕にしてるのが目の前で言われた表彰中の4人。
代表して優勝者の黒拳士が食って掛かった。
「おいおっさん。勇者だか知らないが随分な物言いじゃないか。
そこまで言うって事は相当強いんだろうな?」
「もちろんだ。
本来なら優勝者に稽古を付けてくれって話だったがまだその段階では無さそうだな。
よし。お前たち4人で掛かってこい。
俺に1撃でも当てられたらさっきの言葉は謝罪しよう」
「言ったな! やるぞ皆」
黒拳士の言葉に白騎士がちらりと騎士団長を見れば、騎士団長は無言で頷いた。
どうやら許可は出たらしい。
ならば遠慮は無用と4人全員が武器を構えて勇者に攻撃を仕掛けるが。
「ふんっ」
「うがっ!」
「ぎゃあっ」
「ぐふっ」
「げふっ」
4人とも勇者に触れるどころか近づくことも出来ずに吹き飛ばされてしまった。
たったそれだけで4人は立つことも出来ないようだ。
「おいおい、もう終わりか?」
しんと静まり返る会場内。
多分皆には鼻息ひとつで勇者が勝ったように見てたんだろう。
どんな化け物だ。
実際には無色の魔力波を飛ばしてボディブローを決めていた。
あれでかなり手加減してくれたんだろうなぁ。
そうじゃなきゃ今頃彼らは肉片になっていた。
そんな勇者たちは今度は観客席へと視線を移した。
その目はどうやら僕達を品定めしているっぽい。
(よっと)
ちょっと嫌な感じだったので僕らの所に回ってきた視線をひょいっとずらしておく。
よしよし、気付かれてないな。
戦闘力は化け物級でも視力は僕の方が上っぽい。
(おっとまた来た。ほい。ほいほい、ほいっと)
なんだろう。さっきから僕らの所だけ連続して見られてる気がする。
特にあの無口の黒装束の人がしつこい。
って黒装束の人が消えた?!
「っ!!」
キンッ
とっさに頭の上に掲げた短剣が金属音を立てた。
いったい何が起きたのかを確かめる余裕もなく僕は前に飛びだした。
その背中を何かが通り過ぎていった気配。
そこでようやく振り返ることが出来た僕は、襲撃者と目が合った。
「……今のは勘か?」
「偶然、ですかね」
「ふむ。……む、手首に糸? 一瞬鈍ったのはこれか」
襲撃者は先ほどまでステージ上に居た筈の黒装束の人。
どうやら今の一瞬で僕の背後に移動し、手に持っている巨大な針のような武器で僕を攻撃してきたみたいだ。
……いったいなぜ?
殺気は無いし、これ以上攻撃する気も無さそうなんだけど、そもそも襲われる理由に心当たりがない。
あと一連の騒動でみんな僕を見てるんだけど、黒装束の人を見てる人は居な、あぁ。そうか。
(僕だけがこの人の事を視えているから興味を持たれたのか)
隠形の達人が自分の技を看破されたら気になるのは当然だ。
視られているっていうのは敏感な人だと感知出来てしまうからそれで気付かれたっぽい。
もっと言うと観客席を観察して僕の所だけ何故か確認出来なかったから直接確認しに来たのだろう。
その人は武器を仕舞うと何も言わずにステージに戻っていってしまった。
いや何だったの?
「ラキア君。今のは」
「う~ん、僕にもよく分かんない」
「どうでも良いけど、思いっきり見られてるわよ?」
「げっ」
いつの間にか勇者たちにガン見されていた。
ついでにニヤニヤと僕を指差して笑っている。
更にその中の魔法使いっぽい女性がこちらに杖を向けた。
「コロン。前方に全力ガード」
「また厄介事を。カガミ、やるわよ」
(シャーッ)
コロンがいつもの大楯に従魔の鱗盾を全力で付与して構えた。
そこへ女性から放たれた青白い光線が衝突する。
一瞬で赤熱していく大楯。
「このっ!」
コロンは何とか盾を上に傾けて光線を弾くことに成功した。
これ上に弾いたから良かったけど、左右にやったら近くの人に流れ弾が当たって大惨事確実だった。
なお、僕らの周りに座っていた人達は何かヤバいと慌てて距離を置いている。
お陰で向こうからも僕ら3人が丸見えだ。
「あら防がれたわぁ」
まるで悪戯が失敗しちゃったってくらい軽いノリで笑う女性。
彼女からしたら今のだって相当手加減してたんだろうけど。
でもそんな遊び感覚で殺されたら堪らない。
「反撃行きます。カート」
(チチッ)
フォニーが若干むっとしながらホイッスルを吹き鳴らす。
指向性を持たせたそれは犬笛のように横に居た僕らにも一切音を漏らさず。
しかしステージ上の勇者チームに大音量の重低音を響かせた。
「おっとこれは腹に響く」
「ぐおぉ、音による爆撃ですか。威力はまだまだですがこれは防げませんね」
「なかなかにロックな子が居るのね」
「……」
例えるなら全校集会の時に大型スピーカーの目の前に立ったようなもの。
あれ音のハンマーで殴られたみたいにズシンと来るんだよね。
突然やられると心臓に悪いんだ。
ただもちろん勇者チームにはほぼダメージにはなっていない。
それでも意趣返しにはなっただろう。
その証拠に彼らは楽しげに笑っている。
「いやあ騎士団長。予想外に楽しめたぜ。
それと、そこの3人。顔は覚えた。また今度ゆっくり遊ぼうぜ」
そう言い残して勇者チームは会場から去っていった。
残されたのは最初の一撃で吹っ飛ばされて動けなくなってる優勝者たち4人と、周囲から注目を集めまくってる僕達3人。
え、この空気どうするの??




