表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/109

103.20人vs数千体

 TNTツルハシさんを連れていったん台所に移動する。

 廊下で話すと部屋の方まで聞こえそうだしね。

 ちょっと強引に引っ張って来たけど暴れないでくれて助かった。

 そして台所の奥にある勝手口の隙間から外の様子を窺えば、大型犬サイズのモンスターが大量にここを取り囲んでいた。

 見える範囲だけでも100体を超えてるんだけど。

 これだけの数のモンスターが急に湧いて出てきたの?

 いやゲームだから有り得ない話ではないけど。


「リーダーに確認したら向こうも敵の本拠地に襲撃を開始したところらしく、こっちに人を割く余裕はないそうだ」

「そうですか」

「くっそぉ。多少補強したとはいえ、あんな大群に攻められたらこんな小屋、一瞬で破壊されちまうぞ。

 どうすりゃいいんだ!!」

「はぁ」


 おろおろと落ち着きなくうろうろするTNTツルハシさん。

 見た目凄く強そうなのにこの落ち着きの無さはなんだろうね。


「皆さんって戦えないんですか?」

「俺達は大工だ。家を補強したり家具を作ったりは得意だが戦闘はそんなに強くねぇ。

 王都周辺のモンスターなら何とかなるが、集団で囲まれるとキツイ」


 なるほど、ある意味自分たちに出来る最大限を頑張ってくれていたのか。

 それはありがたいんだけど、このまま騒がれるのは良くないな。


「じゃあ戦闘は僕達がやるので、皆さんには別件で仕事をお願いしても良いですか?」

「あ、あぁ。俺達に出来ることなら」

「大丈夫です。お願いしたいのはこの建物の中を見回って床が壊れそうな場所があったら修繕してほしいです」

「床?」

「そうです。やっぱり思いがけない場所から突破されるのが一番危険ですから」

「なるほど、分かった」


 彼らは僕の指示に従って家の点検を始めてくれた。

 それを見送った僕は改めて待っていてくれたフォニーとコロン、そしてアミラさんに向き直った。


「ということで、中の事は他の皆さんに任せて僕らで外のモンスターを殲滅しようと思います」

「ちょっと待って。

 敵は数百は居るんでしょう?たった4人でここを守りながらどうやって戦うの?」


 アミラさんの疑問はもっともだ。

 遊撃部隊として敵の中に切り込むのと、拠点を守りながら戦うのでは全然話が違う。

 この大きな拠点全体をカバーしようと思ったら50人くらいは欲しい。

 しかし今従魔のお世話をしてもらってる人達全員を集めても20人しかいない。

 しかも戦闘が得意ではない20人だ。はっきり言って無理だろう。

 なので敵が攻めたくなるような場所を敢えて作って、そこだけを僕らで守るようにしようと思う。


「この家に入る道は表の玄関と台所奥の勝手口の2か所です。

 ここを開放することで敵の注意を引き、僕とフォニーでそれぞれ守ります」


 ちらっとフォニーの方を見れば静かに頷いてくれた。

 さっきのTNTツルハシさんとは偉い違いだ。


「ただこれだけだと殲滅力不足で手の空いた敵が壁を破ろうとする可能性が高いと思います。

 なのでアミラさんには外で大暴れしてきて欲しいです」

「いや流石の私でもこの数に囲まれたらちょっと厳しいんだけど」

「はい。なのでコロンにサポートに入ってもらおうと思います。

 コロン行けるよね?」

「任せて。見た感じ単体の強さはそれ程でも無さそうだし、むしろ私一人でも十分」

「それはダメ。

 アミラさん。無理そうだと判断したらコロンと一緒に戻って来てください」

「はいはい。まあやれるだけやってみるわ」


 アミラさんは間違いなく熟練の冒険者だ。

 引き際はしっかり見極めてくれるだろう。

 よし。じゃあ作戦開始だ。

 グループチャットで臨時チームメンバーにも情報を共有しつつ、僕らは配置に着いた。


「開けてください」

「はいよ」

バタン

シュッシュッシュッシュッ


 正面扉をアミラさんに開けて貰った直後、飛び込んできたモンスターを準備していたボウガンを撃ちまくる。

 やっぱりだ。

 僕のボウガンを頭に受けただけで消えていくモンスターは単体ならそこまで脅威じゃない。

 そしてモンスター達は道が出来たと一斉に入口に殺到してくるが。


「っせい!」

ブオンッ


 アミラさんの振り回したグレートソードで10体纏めて消し飛ばされていた。

 やっぱり凄いな。

 僕だったらあの剣、振り回すどころか持ち上げるのも無理かもしれない。

 それを普段から背負って平然としてるんだから恐ろしい。


「じゃあ行ってくるよ」

「ご武運を」


 そのまま暴走トラックのようにモンスターを薙ぎ払いながら突撃していくアミラさんと、その後ろでシールドを展開しながら付いていくコロンを見送り、僕は短剣に持ち替えた。

 二人が出ていけば空いた空間はすぐにモンスターで埋められ、中を目指して突撃してくる。

 だけどここは通行止めだ。

 僕はその場で軽く腰を落とし、モンスターに向けて右手で切り上げ左手で突き刺し、また右手で振り下ろし左手で横薙ぎに切り裂く。

 そのどれもが正確に急所を捉えてモンスター達を光に変えていった。

 一息で4体のモンスターを倒したけどまだまだ後ろは控えている。

 これは手を休める暇はなさそうだな。


『フォニーの方は大丈夫そう?』

『はい。音の衝撃波で数体同時に吹き飛ばしてるので多少余裕があります』

『持久戦になると思うからペース配分には気を付けて』

『分かりました』

『中の皆さんも何か気になることがあればすぐに報告をお願いします』

『『了解です』』


 それから10分。

 外で竜巻のようにモンスターを吹き飛ばしまくっていたアミラさんとコロンが戻ってきた。


「ちょい休憩」


 僕の脇をすり抜けて家の中へ。

 そこには調理班が用意してくれたお菓子と飲み物が置いてあるので一息入れて貰う。

 何でもHPと疲労回復効果があるらしい。


「お疲れ様です。大丈夫そうですか?」

「戦力としては問題ないわ。

 モンスターはそこまで強くないし、コロンさんが期待以上にカバーしてくれるからダメージを受ける心配もない。

 ただ、私達だけで200体以上は倒したはずなのに全く減る気配が無いわ。

 これは恐らく司令塔となるボスを倒さないと終わらない奴ね」

「なるほど。アミラさんが突撃してボスを倒すのは?」

「無理ね。私じゃボスを見つけられない。

 こういうモンスターは大体取り巻きに紛れるようになってるから。

 毛の1本の色が違うとか小さい角が生えてるとかその程度の違いよ」


 やっぱり無理か。

 そうだよね。

 能力がどうとか以前にアミラさんはサポートNPCだ。

 そのNPCに大事なところ全部任せられる訳が無い。


『リーダー。そろそろヤバいかも。壁壊れそう』


 お、おう。従魔部屋のメンバーから残念な報告が。

 もちろん本来なら壁の一部が崩れても従魔に被害が出なければ問題ない。

 だけど最初に立てた目標が失敗になってしまう。

 リーダーと呼ばれている僕がここで妥協する訳にはいかない。


『あと3分だけ耐えられますか?』

『3分……何とかします!』


 さあタイムリミットが発生した。

 じゃあ配置転換だな。


「コロン。フォニーと交代してきて」

「分かったわ」

「アミラさんは僕の代わりに正面口ここをお願いします」

「良いけど私の大剣じゃせき止めきれないよ?」

『誰か3人くらい正面口の防衛のサポートをお願いします。

 アミラさんがメインで戦ってくれるのでその取りこぼしをカバーする役です』

『おう。それくらいなら【安全☆第一(おれたち)】でも出来るだろう。

 さっきは格好悪い所を見せたからな。汚名返上させてくれ』

『ありがとうございます』

「手の空いてるメンバーにサポートをお願いしました」


 これで僕とフォニーの手が空いた。


「ラキア君。お待たせしました」

「うん。じゃあちょこっとボス狩りに行こう」

「はい」


 コロンに勝手口の防衛を任せて戻ってきたフォニーは僕の言葉に疑問を挟む事もなく頷いてくれた。

 これが今日まで築いてきた信頼のなせる業だろう。


(もう慣れました)


 何か聞こえた気がしたけど、まぁいいや。

 とにかく僕達は邪魔なモンスターを蹴散らして外に出て屋根の上に登った。

 おぉ、見渡す限りのモンスター。ざっと1000、いや2000くらいは居るんじゃないか?

 この中からボスを見つけるのは中々大変だ。


「フォニー。一瞬で良いからモンスターの動きを止められる?」

「やってみます」


 僕の無茶振りに、フォニーはひとつ頷くといつものスティックを取り出しそれを打ち鳴らした。


(カンッ)ゴロゴロドッシャーン!!

((ビクッッッ))


 雷鳴が轟くような音に驚き空を見上げるモンスター達。

 その隙を使ってモンスター達を視ていく。

 360度大体同じ景色だけど1か所だけちょっと違和感があった。


「あれかな。周りのモンスターが咄嗟に守ろうとしてる奴」

シュッ……ドスッ


 大分距離があったけど僕の放ったボウガンが狙い通りモンスターを1体撃ち抜いた。

 おぉ。

 当たりだったっぽい。

 ボスを失った効果は劇的で、残ってたモンスター達が蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 これで防衛ミッションは成功かな。


「ところでフォニー。さっきの音って家の中にも響いてたのかな」

「指向性を持たせましたので、家の中には一切届いてない筈です」

「それは良かった」


 さっきのあの音は心臓の弱い子だったらショック死しそうな程だったからちょっと心配してしまった。

 そして西の空に立ち上る煙。

 どうやら敵の本拠地の攻略も進んでるみたいだな。



(後で本編で説明する予定ですが)

アミラさんが「獣魔」と呼んでいるのは誤字ではありません。

フランを始め従魔達は自然界においては「獣魔」と呼ばれ、それが契約などで人と行動を共にすると「従魔」と呼ばれるようになります。

現在療養所に居る子たちは人との契約が解除されているので、アミラさんは「獣魔」と呼んでいます。

しかしそんな事情を知らないラキア達プレイヤーは元の通り「従魔」と呼んでいます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ