102.臨時お世話チーム
玄関を開けてみれば、そこに居たのは20人を超えるプレイヤーの皆様。
いや多いな。
てっきり2、3人くらいだと思ってたからびっくりだ。
しかもその中にフォニーとコロンの姿もある。
「えっと二人が来てくれたのは心強いんだけど、花畑は大丈夫なの?」
「はい。妖精の女王と名乗る方が突然現れて保護した従魔たちを引き取ってくれました」
「フランも警戒してなかったし多分お助けNPCみたいな位置づけで預けても大丈夫だろうというのが私達の見解よ」
「あ、うん。その人なら僕もあったことあるよ。
悪い人では無いはずだから心配ないと思う」
妖精の女王か。
1度話しただけだったけど、蜜蜂たちの事も助けようとしてくれてたし良い人だと思う。
などと話してたら視線が。玄関でずっと立ち話してたらそりゃ怒るよね。
「ひとまず中へどうぞ。紹介したい人も居るし」
みんなを引き連れてまずは台所にいるアミラさんの元へ。
アミラさんは、あ、良かった。無事に落ち着いてくれたみたいだ。
「アミラさん。こちら僕の友人と応援に駆けつけてくれた人たちです」
「あ、うん。そうか。
こんな短時間でこれだけ集まってくれるなんて、ラキアは人望もあったんだな」
あ、まだ若干動揺が残ってるっぽい。
それと人望があるのは僕じゃなくてミッチャーさんや攻略チームの方々です。
まあ説明しだすと面倒だから割愛するけど。
ひとまず顔合わせをして、次は従魔たちの様子を見に行こうかなと思ったところで手を挙げる人が居た。
身長180センチで筋骨隆々のガテン系兄ちゃんって感じの人だ。
「チーム【安全☆第一】のTNTツルハシだ。実はうちのリーダーから伝言を預かってる」
「なんでしょう」
「リーダー達前線メンバーは今、ここから更に西に行ったところにある敵の本拠地へと奇襲を掛けようとしている。
敵に備える猶予を与えないために電撃作戦で行くって言ってたから、恐らくあと10分としない内に攻撃を始めるだろう。
その際、ここが安全である保障は無いから警戒を怠らないように、だそうだ」
王都で敵のアジト襲撃&従魔救出を行った直後なのに、更にボス戦に突入するのか。
元気だなと感心するべきか、無茶してないかなと心配すべきか。
でも僕が心配するまでもなくあの人たちは大人なんだから自分のペースくらい把握してるよね。
それよりさっきの言い方がちょっと気になる。
「もしかして何が起きるかも予想出来てるんですか?」
「あぁ。あるとしたら防衛もしくは脱出ミッションだろう。
そこで確認なんだが、ここに保護されているという従魔たちを別の場所に移動させることは可能だろうか」
問いかけられたアミラさんは顎を軽くさすりながら思案して「無理ね」と結論を出した。
「肉体が弱っている獣魔が何体か居るの。
その子たちを抱きかかえていくならまだしも、モンスターから逃げるために全力で走る馬車に乗せるのは逆に命の危険に繋がるわ」
「なるほど。なら向こうが終わるまでここを死守するのが俺達の役目だな。
建物の補強とかはしても大丈夫か?」
「え、えぇ。終わった後に元に戻してくれるなら問題ないわ」
「うし。じゃあ俺達は早速そっちの作業に取り掛かる」
力強く頷いたTNTツルハシさんは数人を連れて出て行ってしまった。
多分一緒に行ったのは同じチームの人かな。
行動が早いのは良い事なんだけど……まぁいっか。
ともかく僕らは僕らでやれることをやろう。
「えっと、じゃあ残ってる皆さんはまずここで療養してる従魔たちのところに案内しますね」
「「はい」」
残っている十数人を連れて隣の部屋へ。
そこではさっき部屋を出た時にはぐっすり眠っていた従魔たちが半分くらい起きていて、毛繕いをしていたり元気な子はトテトテと部屋の中を歩き回ったりしていた。
その姿を見た何人かの目がハートになった気がする。
「はわっ。可愛いのですが。これお金払わず見て良いものでしょうか」
「ペットショップとか猫カフェのような雰囲気だな」
「ゲームならではだけど、爬虫類とかも若干デフォルメされてぬいぐるみっぽくなってるから余計そう感じるな」
「お持ち帰りしたらダメですか?」
「ダメです」
ちなみにこれ全部男性プレイヤーの発言です。
いや男でも可愛いものが好きで全然悪くないけど、ここまで行くとちょっと引いてしまう。
でもきっと悪い人ではないはずだ。
「ごほんごほん。
えっとそれで俺達はこれから何をすればいい?」
あ、正気に戻ってくれたらしい。よかった。
それでこの後の作業って、もしかして僕が指示を出す感じで良いのかな?
バラバラに動かれるよりその方が良いのは分かるんだけど、みんな納得するんだろうか。
「先に確認なのですが、僕が皆さんに指示を出して従ってもらうって形で良いんですか?」
「ん?どゆこと?」
「いやほら。僕が先にここを見つけたってだけで、皆さんより偉い立場って訳じゃないじゃないですか。
同じチームって訳でもないですし。
さっきのTNTツルハシさん達みたいに『状況は理解したから後は勝手にやる』とか、『年下の指示なんて聞きたくない。それとも失敗したら責任取ってくれるのか?』みたいに言われても仕方ないのかなって思うんですけど」
「ふむ」
僕の言葉に顔を見合わせている。
首を傾げたり頭を掻いたり。
そうして出てきた答えは。
「まあいいんじゃね?」
なんかすごい軽い返事だった。
その発言に他の人達もうんうんて頷いてるし。
「じゃあこう考えよう。
俺達は俺達のチームリーダーから『向こうに行って第1発見者の指示に従って行動しろ』と言われた。だから君に従った。
その結果、失敗に終わったらそれは俺達のリーダーの責任ってことで」
「だな。それに俺達だって盲目的に従おうって訳じゃない。
あまりに頓珍漢なことを言われたら反発するさ」
「俺としてはむしろ【安全☆第一】の奴らの方がどうなんだって思うな。
安全第一なら独自の判断で勝手に動くなっていう」
「それな!」
小さく笑い声が響く。
何というか気のいい人達ばかりのようだ。
「分かりました。
じゃあこの場はここにいるメンバーで臨時チームって事で僕が指示を出します」
「よっ。臨時リーダー。よろしく頼むぜ」
「はい!」
リーダーのやるべきこと、やってはいけないことっていうのは以前聞いたことがある。
それは、こっちに行くぞって決めることと、決めたら迷わない事だ。
リーダーが迷ってしまうと後ろから付いて来る仲間たちもどうすれば良いのか分からなくなる。
だから誰もが分かるゴールを決めて突き進む。それがリーダーだ。
「ではまず最初に、今回の作戦の達成目標を決めます」
「達成目標?」
「なんじゃそりゃ」
「まあまずは黙って聞けって」
なんとなくサブリーダーというか場を落ち着かせる役の人が居てくれるっぽい。
お陰で話しやすくて助かる。
「今回僕達が成し遂げたいことは、ここにいる従魔たちが健康になって健やかに過ごせるようにすることです。
さっき言われたここが襲撃されるんじゃないか、なんてのは天気予報の台風情報みたいなものです。
備えることは大事ですが、それは本質ではありません。
ということで、
『従魔たちには最大限元気になってもらう』
『外の騒動はそもそも気付かれない』
『もちろん従魔が怪我をするなんてもっての外』
『当然僕らも全員無事』
これが今回の目標です。
これを達成するために各自出来ることを考えて話し合い、行動しましょう」
「了解」
良かった。僕の意見は概ね受け入れて貰えたようだ。
と、そこへ壁に何かを打ち付けるようなドンドンドンという音が響いた。
それを聞いて何体かの従魔がビクッと怯えてしまっている。
「おっと、早速仕事だな」
「はぁ~い、従魔ちゃんたち。大丈夫ですよぉ~。怖くない怖くな~い」
赤ん坊をあやす感じで従魔たちを宥めてくれる臨時チームメンバー(男)。
うーむ、傍から見てると結構シュールだけど本人は至って本気っぽいし、ちゃんと従魔はあやされてるから良いのか。
そしてそれを皮切りに他のメンバーもそれぞれ出来ることを始めた。
外からの音が響かないようにする人。
従魔たちの毛繕いをしてあげる人。
お菓子を用意しようと台所に向かう人。
何をするのかは一言報告してから行ってくれるから助かる。
それぞれに考えて行動してくれる人も居れば、もちろんそうでもない人も居る。
なのでその人達には僕の方から作業をお願いして動いて貰った。
そして。
「おい。思った通りモンスターの大群が来やがったむぐっ」
「はいはい。そんな大声出さなくても聞こえてます」
外で作業していたTNTツルハシさんが飛び込んできたので口を押えて廊下に押し出した。
従魔たちは、よし。気にしてないな。