101.美味しいは正義
さてここからどうすれば従魔たちを保護しつつ敵を一網打尽に出来るか。
そのカギを握ってるのがここにいるお姉さんだと思う。
さっき雇われたって言ってたし、その辺が糸口になりそうかな。
信用を得るにはまず自分から開示することだ。
「そういえば自己紹介どころか名前も言ってませんでしたね。
僕はラキアです。一応今は冒険者っぽいことをしてます」
「アミラよ。これでも西国では結構有名な冒険者なんだけど、こっちではまだまだみたいね」
あ、冒険者だったんだ。
なら敵の組織の一員という可能性はかなり低くなったな。
「アミラさんはこの依頼が終わった後はどうされるんですか?」
「そんなの王都に戻って次の依頼を探すだけよ」
「まぁそうですよね」
「そういうラキアはどうするの?」
「僕も同じです。王都で待ってる人が居るので、出来るだけ早く今回の件を終わらせて戻るつもりです」
「そう……」
僕の返事を聞いてアミラさんの縦長の瞳孔がきらりと光る。
あれ? この感じ、もしかして僕の方が値踏みされている?
敵認定したら即座に切るつもりなのか、それとも役に立つかを考えているのか。
前者なら打つ手なし。なら後者だと思って提案してみるか。
「あのもし良かったら、ですけど。
知り合いにボランティアで従魔たちのお世話を手伝って貰えないか聞いてみましょうか?」
「ボランティアって。そんな奇特な人が居るの?」
「ええ多分。もちろん借りを作ることになるので後で何らかの形で返すことになりますけど、そこは僕が何とかしておきます」
「そうね……正直人手は多い方が助かるし、それじゃあお願いできるかしら」
「はい」
アミラさんの了解を得られた僕は早速ミッチャーさんと連絡を取ることにした。
『ミッチャーさん。急で申し訳ないんですが、従魔のお世話が得意な人に心当たりはありませんか?』
『あ、ラキア君。聞いたわよ。また1人で無茶してるのね。
それでお世話が得意なって、もしかして体調の良くない子が多数いる感じ?
今回の作戦に裏方で参加してくれてる人が居るからその人達に頼んでみるわ。
どこに向かわせればいいの?』
流石ミッチャーさん。話が早い。
僕の言葉を聞いてある程度の状況を察してくれた。
そしてここに来る方法だけど、1つ心当たりがある。
『知り合いに案内してもらえないか聞いてみます』
『分かったわ。じゃあその間にこっちも準備を進めておくわ』
よし、じゃあ次だ。
フレンドリストから目的の人物にメッセージを送った。
『イールさん。お願いがあるんですけど』
『お、ラキアか。どうした?』
『先ほど見つけたイベント空間に平屋の建物があったと思うんですけど、そこの位置情報を王都西の花畑で待機してるミッチャーさん達に伝えて欲しいんです』
『おっと。俺が上空を飛んでたのを見られてたのか。仕方ないなぁ』
僕が地上で敵を追いかけている間、上空からイールさんも付いてきているのは気付いてた。
敵を見失った頃にはイールさんも見えなくなっていたので、恐らくはそのまま敵を追いかけてアジトの位置も突き止めていたのだろう。
その後イールさんなら王都に報告に戻るはずなので、そのついでにミッチャーさん達にも情報を展開してもらえるようにお願いしてみたのだ。
これでしばらくしたら応援が来てくれるだろう。
僕が走って30分だから、馬で走れば5分くらい?
準備の時間も考慮して。
「連絡取れました。多分10分くらいで来てくれると思います」
「魔道具の類なのかしら。最近は便利になったのね」
「ははは」
そうか、チャットとかメール機能って僕達プレイヤー限定の能力だよね。
笑ってごまかしたけど、あまり人前で堂々と使うのは避けた方が良いかもしれない。
どういう仕組みなのって聞かれたら女神の祝福ですって言って逃げることにしよう。
そしてこういう時は話題を逸らすべき。
「小腹が空きましたね。何か作りましょうか」
「そうね。ただあまり材料は無いわよ?」
まぁ従魔に謎の液体スープを飲ませてたくらいだものね。
出てきた材料は、小麦粉、長ネギ、ごま油。これだけ。
え、アミラさんは普段何を食べてるの?
気にはなったけど聞くのは失礼かな。
それよりこの材料で作れるのは……あっ、ごま油。
「以前、父さんが作ってくれた料理があるのでそれにしましょう」
僕は小麦粉を水で捏ねながら当時の事をちょっと思い出した。
『父さんだって料理出来るんだからな!』
『漫画やアニメで見たのが美味しそうだからって練習したのよね』
『雪山の山荘で遭難したら作ってみてくれ』
いや、多分そんなところ行かないから。
悪戦苦闘しながらも何とか完成した料理の名前は『ローピン』。
ごま油の香ばしい匂いが凄く印象的だった。
その時聞いた作り方が確かこんな感じで、よし良い感じ。
1枚目は単純に長ネギだけで作って、2枚目以降は何かアレンジしてみようかな。
などと考えながら無事に1枚目が焼きあがった。
記憶にある通り、ごま油の香りが部屋中に広がった。
「美味しそうな匂いだね!」
「「!!?」」
突然、僕でもアミラさんでもない少年の声が聞こえた。
慌てて振り返るとそこには、以前焼き鳥を買ってあげた少年がニコニコと立っているではないか。
いったいいつの間に?
ここの近所に住んでる子だったのかな。匂いに誘われて来ちゃった感じ?
「えっと、食べる?」
「良いの!?」
「こういうのは皆で食べた方が美味しいからね」
「わ~い」
少年は僕が切り分けてあげた分を早速食べ始め「美味しいね」と無邪気に笑っている。
それを見ながら自分でも食べてみて、なかなかによく出来たんじゃないかなと喜んだ。
「アミラさんも一切れどうぞ」
「わ、私は良いわ。今はそっとしておいて」
「??」
アミラさんはいつの間にか僕らから一番遠い部屋の隅に移動して全力で目を背けようとしていた。
え、ローピン嫌いだった? それともごま油アレルギーとか? 聞いたことないけど。
もしくはカロリーかな。これごま油を沢山使ってるから。
なら本人が言う通りそっとしておこう。
「そう言う事なら残りも食べていいよ」
「やった~」
僕の言葉に少年は諸手を上げて喜び、凄い勢いで残りのローピンを食べ始めた。
先日の焼き鳥の時といい、普段はあまり食べれてないのかな。
「ところで君はどうやってここに来たの?」
「家の近所が騒がしくなってきたんだ。
だからちょっと散歩してたんだけど、いい匂いが流れて来て窓から見たらお兄ちゃんが居たから来ちゃった。
っと。ここもちょっと騒がしくなりそうだね。
じゃあまたね。お兄ちゃん。ご飯ありがとう」
お礼を言って少年は窓から飛び出して行ってしまった。
身軽だなぁ。
そしてそれと入れ替わるように玄関をノックする音が聞こえた。
多分ミッチャーさんにお願いした人達が到着したんだろう。
迎えに行くために部屋を出ようとした僕の耳にアミラさんの呟きが聞こえた。
「なんであんな化け物がこんなところに居るのよ。
私聞いてない。聞いてないわ。
やっぱりこんな変な依頼を受けるんじゃなかった」
「??」
化け物ってさっきの少年のこと?
確かに変わってる子だなとは思ったけど、恐れるような何かがあったかな。
ドンドンドンッ
「はーい、今行きま~す」
気にはなるけどまずは来てくれた人達を出迎えることにしよう。