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100.追いかけた先で

 煙幕を張ってバラバラに逃げる敵の中から首魁と思われる人物を追って西へと走る。

 幸いにしてそこまで足が速くないようで助かった。

 そうじゃなかったらあっという間に引き離されて見失っていただろう。

 まぁそれでも向こうの方が速いけど。


(おっと)


 奴は追手を気にして時々振り返っていた。

 なのでその視界に入らないように気を付ける。


(これ多分女神の祝福のお陰だよね)


 僕は意識すれば相手がどこを見ているのかが分かるようになっていた。

 その視線が僕に向けられる直前に一瞬止まって受け流してあげると相手は僕を視認できなくなる。

 そして僕を通り過ぎたらまた全力疾走で追いかける。

 何というか『だるまさんが転んだ』状態だ。

 違うのは掛け声が無いことと、一度通り過ぎた後に戻ってくる事があるので難易度高めなところだ。

 そうして追いかけること30分。

 残念ながら見失ってしまった。

 一応最後に見えた方に走ってるけど、さて。


『ラキア君。今どこに居ますか?』


 おっとフォニーから連絡が来た。

 どこって、いやここどこだろう。

 王都から見て西なのは確かなんだけど、今までこっちには来たことなかったし。

 そうだ、システムでマップを確認すれば……あ。


『えっと、方角で言うと花畑から西に30分くらい行った所なんだけど、どうやらイベント空間に入っちゃったみたい』

『あ……はぁぁ。なるほど』


 何となく重たい「なるほど」だな。

 これがコロンだったら「今度は何やらかしたの!」って怒ってそうだ。

 それより連絡をくれたって事は向こうはひと段落したんだろうか。

 僕は周囲を警戒しながら向こうの状況を確認することにした。


『フォニー達の首尾はどんな感じ? コロンも無事?』

『はい。それなりに抵抗は受けましたが私もコロンちゃんも無事です。

 捕らえられていた従魔も多数保護することに成功しました。

 ただ、花畑に戻ってきたら敵の別動隊に奇襲を受けていたらしく、かなりの被害が出てました。

 そして襲撃者たちも既に逃げた後でした』

『うん、その襲撃だけど、僕途中から見てた。

 そしてその逃げた1人を追って今ここにいる感じ』

『なるほど、そう言う事でしたか』


 今度の「なるほど」は肩の荷が下りた感じだ。

 そう、別にサボって変なことしてた訳じゃないんだよ?

 いやフォニーはそんなこと一言も言ってないけど。


『応援は要りますか?』

『今はまだ大丈夫。

 追ってた奴も見失っちゃったし、何があるのかゆっくり探索中』

『分かりました。じゃあ私達はしばらくは花畑に居ますので何かあれば連絡してください』

『うん、ありがとう』


 あ、そうか。

 花畑は僕のフレンドしか入れないからフォニー達と、あとミッチャーさんくらいしか中に入れないのか。

 保護してきた従魔たちのお世話を彼女たちだけだと大変だろう。

 これはちゃっちゃとこっちを終わらせて手伝いに戻った方が良いな。

 でも敵の本拠地とかだったら僕の力じゃ攻略は無理だ。

 情報収集だけして戻ることも視野に入れておこう。


「お、家発見」


 林の奥にひっそりと佇む木造平屋の家。

 ただ普通の民家を幾つか並べた位の大きさ。

 教会にしてはそれっぽい建物はないし、別荘にしては庭の手入れすらされていない。

 悪の本拠地って感じでも無いなぁ。

 イベント空間にあることからただの民家って事も無いだろうけどさて。


「ここは時間も勿体ないし正面から行くか」


 道に罠っぽいものはなし。

 玄関先には轍の跡があるってことは倉庫という可能性もあるか。

 慎重に、だけど挙動不審にはならないように注意して歩き入口まで辿り着いた。

 入口の扉にはドアノッカーが付いている。

 という事は人が住んでるってことか。


コンコンコンッ

「はぁーい」


 奥から女性の声で返事が返ってきた。

 女性ってことはさっきまで追ってた奴とはまた別の人か。

 少し待って出てきたのは僕より身長がちょい高いロングヘアの女性。


「どなた?」

「えっと……」


 あれ、なんて言えばいいんだろう。

 怪しい男を追ってきた冒険者ですと正直に言うのはマズい気がする。

 かといって迷子とか通りすがりですって言うのも怪しいよね。

 などと考えていたら女性の目が僕の持っている物に向けられた。


「それって。あぁなるほど。頼んでた追加の人員ね。

 なら付いてきて。

 もう私ひとりで大変だったんだから!」

「は、はぁ」

 

 あれ、何かと勘違いされた?

 僕の持っている物と言えばダウジングの時に使ってた例の棒だ。

 実はこの世界、ダウジングする人が意外と多くて、その仲間だと思われたとか?

 今まで僕以外に見たことないけど。

 とにかく彼女に続いて廊下を進むと1つの部屋に案内された。


「さあ入って」

「はい。って、これは……」


 そこは学校の教室くらいの広さで、床には座布団が敷き詰められていた。

 そしてその座布団1つ1つに横たわっているのは。


「従魔?」

「そう獣魔よ。この子達のお世話が私達の仕事」


 僕の呟きを聞いて彼女は若干疲れた笑顔を見せた。

 いや、え、待って。

 この部屋の中だけでも30体近い従魔が居る。

 しかも例外なく元気が無さそうだ。

 つまりここは従魔の療養所的な場所?

 1体1体は小さいけれど、それをひとりでお世話するのはかなりの重労働だっただろう。


「今から食事を配るところだったのよ。

 あなたも手伝って」

「分かりました。って、食事ってこれですか?」


 入り口横のテーブルに用意されていた大鍋に入ってたのは乳白色のドロッとした液体。

 具の1つも見えないけど何かのスープなのかな。

 美味しそうではないし、あまり健康にも良くなさそうだ。

 これを食べて元気になれって、それは無理だろう。


「あの、僕のアイテムボックスから食べ物を出して配っても良いですか?」

「良いけど、後から代金請求しても支払われないわよ多分」

「そこは気にしません」


 許可を得た僕は従魔たちを周って果物盛合せと薬草とパンと干し肉のセットを見せて好みを聞きつつ全員に配っていった。

 いやぁこんなこともあろうかと王都でも食料を買い込んでおいて良かった。

 案の定、久しぶりに美味しい食事にありつけた従魔たちは勢いよく全部食べ切り、健康には睡眠が大事と言わんばかりに眠りに就いていた。

 それを見て目を丸くするお姉さん。


「凄いわね。いつもなら食事を終えるまで結構時間が掛かるのに」

「そりゃこんな不味そうなもの出されても食べたいとは思わないでしょ」

「予算が無いから仕方ないと思ってたけど、これは考え直さないといけないわね」


 ため息をつくお姉さんと一緒に部屋を出て台所へと移動した。

 そこで改めて話を聞かせて貰おうと思う。


「あの従魔たちってどこから連れてこられたんですか?」

「さぁ。私は雇われて来ただけだもの。詳しいことは教えられてないわ。

 ただあの様子からして余りいい扱いは受けてこなかったようね。

 『このままじゃ使い物にならないから元気にさせろ』とか言われたし」

「雇い主は今どこに?」

「この先の洞窟で何かゴソゴソやってるわ。

 って、あなた何も聞かされてないのね」

「はい。突然イベント空間(ここ)に放り込まれた感じなので」

「なにそれ」


 呆れられてしまった。

 でも正直分かってることは少ない。

 タイミングから考えて襲撃者たちは従魔の密売組織の手の者だろうとは思う。

 じゃあここに集められた従魔は、これまでに買われた子たちなのか?

 そして目の前の女性は敵なのかどうか。

 仮に戦って勝てるかと聞かれたら、正面からだと無理だと思う。

 なので選択を間違えたらバッドエンド行きだな。



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