1.プロローグ~目の不自由な少年~
新連載スタートします!
以前からお付き合いくださっている皆さん、遅くなってしまってごめんなさい。
はじめましての方はようこそ!
今作はのんびりほのぼのと進んでいく予定です。
幼い頃、母が寝るときに話してくれたおとぎ話があった。
「昔々、まだこの世界になにも生まれていなかったくらい昔。
神様は右手に持っていた杖を掲げてこう言いました。『光あれ』と。
その言葉を聞いた世界は明るく照らし出され、そして様々な生命が誕生していったのです」
それを聞いて幼いながらも思ったんだ。
じゃあ世界がこんなにもキラキラしているのは神様からのプレゼントなんだろうかと。
でもそう見えていたのは僕だけだった。
キラキラしていると思っていたのは正常に像を結べなかった結果だったんだ。
そう、僕は生まれながらに目が悪かった。
それに気が付いたのは僕が2歳のころに文字に対する反応が同年代の子供に比べて鈍かったことから両親が不安に思ったことが切っ掛けだった。
……よく壁におでこをぶつけていたりもしたけど、それはドジなだけだと思われていたらしい。
病院に行って検査を受けた結果、僕の視力は眼鏡を付けても0.1もないことが判明。
ただそれでも人生に絶望しなかったのは、優しい家族が居てくれたのと、世の中には全く目の見えない人だって居ると知ったから。
わずかでも視力があるお陰でぼんやりとだけど家族の姿を見ることも出来たし、平坦な道なら一人で歩くことだって可能だ。
それにだ。
目が悪い分、それ以外の聴覚や嗅覚なんかは他の人より優れている気がする。
例えば夏に蚊の羽音を聞いて手を伸ばせば百発百中でキャッチ出来る。
ご近所さんなら体臭って言うとあれだけど普段から使ってる香水とかで判別できる。
地面を伝わる振動で半径10メートルくらいの動く人や車を感知出来るのも僕の特技と言っていいだろう。
だからまぁ、この人生も悪くはないかなとは思っている。
強いて残念なところを上げるとすれば、クラスメイトの「〇〇さんって可愛いよな」みたいな会話に共感出来ないことくらいかな。
お陰で初恋とかとは無縁です。
せめて相手の顔が判別できるようになったらなって思う今日この頃だ。
「そんな晃にこれをプレゼントしよう!」
「って、姉ちゃん!?」
今年から新社会人になり一人暮らしを始めた姉が夏休みに帰って来たかと思えば何かの箱を渡してくれた。
と言っても残念ながら僕の目ではそれが何かはよく分からない。
パッケージがカラフルなのは分かるんだけど。
腕に付けているスマートデバイスが書かれている文字を読み取って『究極幻想譚』と書いてあると教えてくれた。
この名前は聞いたことがある。学校でも話題になっていたゲームのタイトルだ。
でもゲームっていうのはもちろん目が良くないと出来ない。
だから噂を聞いた時もふーんで終わっていた。
「僕、ゲームなんて出来ないよ?」
「大丈夫だ。これはフルダイブ型のゲームだから」
「いやそれこそ出来ないよ。うちにフルダイブ型のデバイスなんて無いよ?」
「それも大丈夫だ。もうすぐ届くことになってる」
「まさか買ったの!?」
フルダイブ型デバイス。
僕がいつも身に着けている腕時計型デバイス等の情報端末とは異なり、自身の意識をデバイスとリンクさせることにより、まるで電子の世界に飛び込んだような体験を得ることが出来る装置だ。
50年ほど前に発明された当時は装置1つで1000万円以上したので金持ちや大企業しか手が出せなかったけど、ここ20年ほどで一般家庭でも手が出せるくらい安くなってきた。
それでも1台30万円以上するんだ。高性能なのは200万円を超える。
誕生日プレゼントにねだるにはちょっと高すぎる。
きっと姉の今日までの給料を全部つぎ込んでしまったんじゃないだろうか。
「ま、そんな細かい話は気にするな」
「全然細かくないよ」
「それよりダイブ空間なら五体満足で視覚も聴覚もリアルと同じかそれ以上に鮮明になるって話だから。
そこでなら晃も色々なものが見れるだろ?
デバイスに画像データを取り込めばリアルで撮影した映像もダイブ空間で見れるって話だ」
「あっ。もしかしてお姉ちゃん達の顔が分かるんだね!」
「そういうこと。あ、事前に行っておくけど、想像と違っててもガッカリとかはするなよ?」
「あはは、しないよ~」
家族の顔を見ることが出来ると聞いてさっきまでお金の心配をしてたのがどこかに吹っ飛んで行ってしまった。
自分の事ながら現金なものだ。
そんな会話をした少し後に業者の人が本当にフルダイブ型デバイスを持って我が家にやってきて、あっという間に僕の部屋に設置してくれた。
動作確認も兼ねてデバイスに乗り込んだ僕は生まれて初めて家族の素顔を鮮明に見ることが出来た。
その時思わず涙ぐんでしまったけどダイブ空間内の事なのでバレてないはず。
デバイスから起き上がった僕は真っ先に姉にお礼を言った。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「どういたしまして。
って、まだ満足するには早いよ。
もう1つ。今後はこっちのゲームも楽しんできなよ」
「あ、そういえばあったね」
正直、みんなの顔を見れただけでおなかいっぱいだ。
でも姉の好意を無碍にするわけにもいかない。
などと言ってるけど、実はゲームの方にも興味はあったりする。
だって学校でもフルダイブ型ゲームの話題は良く耳にしていたから。
何でも芸能人とか配信者がこぞってプレイしてるんだって。
それに他の人と同じように目が見えるなら友達だってたくさん出来るかもしれない。
なにより自分の目で色々な物を見て回れる世界を堪能してみたい。
なので今日は家族の姿を目に焼き付けることに集中して、翌日からゲームをスタートすることにした。
今週は毎日投稿、それ以降は隔日くらいになるかなと思います。
いつも通り初期設定のみのプロットなしで進めていきます。
(私はプロットを書いてもその通りに進めない病なのです)