修行2
「そろそろ休憩にしましょうか」
ツバキさんの提案に、思わず体から力が抜ける。魔力の放出の難しさにもどかしさを覚える。日常的に感覚として持っている人たちと比べるのは違うのだろうが、やはり一筋縄ではいかないのはつらい。こんなところでつまずいているわけにもいかないのに。
「調子はどうだ、八雲。と言ってみたものの――あまりよさそうではないのう」
がはは、と豪快に笑うこいつの無神経さに腹が立つ。
(そういえば……剛玄はどれくらいできるようになったんだ?)
自分の修行に集中していたため、隣で修行してたのをすっかり忘れていた。もしかしたら魔力の放出をもうできるようになっているのかもしれないと思い、とたんに焦りが生まれる。
「まぁ――あまり気にするな。わしもほとんど出来とらん。焦っていても結果がついてくるとは限らんしのう」
「そう……なのかもな」
「それにじゃ。短い期間とはいえ、裏を返せばそれまでのタイムリミットがあるということ。はじめの一歩というのは人それぞれじゃが、わしにとっての一歩目は、おぬしとともに修業を始めたこと……どうじゃ? 偉大な一歩目だろう?」
「そうだな、ツバキさんのところに言って少し休もうか」
「おう!」
ありがとう、と小さくつぶやく。聞こえただろうか、あるいは、聞こえずにいただろうか。どちらでも構わないな、と、この秘めた感謝の念を心にしまう。この友人は感謝されるためにやっているのではないのだから。
ツバキさんのところに着くと、すでにお茶を飲みながら団子を食べているコータの姿があった。
「お前は……本当に変わんないな」
「ズズッ――あん? どういう意味だ、それ?」
「お二人もどうぞ座ってくださいな」
「ありがとうございます」
差し出されたお茶と団子を頂きながら、コータに話を振る。
「それで、お前はどの程度できるようになったんだ?」
「……おいらの話はまた今度でいいだろ。そんなことよりおいら、お前らがどれくらいできるようになったのか知りたいね」
(……自分のことを棚に上げておいて人のことを聞きたがるとは、さては、こいつなんも成長してないな)
生意気な少年に少し意地悪してみたくなったので更に話を振る。
「まぁまぁ、そう言わずに。実は僕たち――あまり進んでいなくてね。できたら、魔法の使えるコータに教えて貰おうかなって」
「――仕方ないな。少しだけだぜ」
(こいつ、ちょろいな……)
困り顔で相談を持ち掛けてみると、ヤレヤレ、といった感じで立ち上がる。そのまま、僕たちに見せびらかすように、何もない原っぱの方に手のひらを突き出す。そして、渾身のキメ顔を見せながら、魔法を唱えた。
「ファイアっ、ボーーール!!」
その瞬間、手のひらから炎の玉が放出される。その玉は、火力を維持したまま原っぱを飛んでいく。だが、魔法である以上、それは無限に飛び続けることは出来ない。やがて、命が尽きるのを感じさせるように、小さくなって、そして消えていった。10メートルほど先で。
「……カッコつけた割にはしょぼいな」
「ンなッ⁉ じゃ、じゃお前ら出来んのかよ! やって見せろよバーカ、バーカ!」
顔を真っ赤にして怒っているコータを微笑ましく見ていると、ツバキさんがコータに呆れるような視線を向ける。
「本当に――あなたは、成長というものがありませんね」
悔しそうに戻ってくるコータを慰めつつ、ツバキさんの方に視線を向けると、少し離れたところから戻ってくる途中だった。その手には、刀が握られており、浮かべている笑顔に少し恐怖する。
僕達が食べ終わったのを確認して、戻ってきた彼女は驚くべきことを告げる。
「では、そろそろ修行再開と行きましょうか。あなたたちに――剣術を教えます」
「剣術は分かるが――手に持っているのは木刀か何かか?」
「――いいえ。正真正銘、本物の刀ですよ」