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第8話-太陽に向かって歩む

タン・ピンは少し首を傾げた。

理由は分からないが、セイランが食堂に入った際、一瞬だけ自分を睨みつけたからだ。その顔にはわずかに艶然とした赤みが差していたが、それもすぐに消え去った。

最後尾を歩くタノシはと言えば、相変わらずニコニコと楽しげで、いつものように能天気な様子だった。


広々とした会議室の中、集まった者たちは目の前の食べ物を驚きの眼差しで見つめていた。


「なぜだ……? 火球ファイアボールのような魔法を使ったわけでも、魔力の波動があるわけでもないのに、中の食べ物が温まっているだと?!」


タン・ピンが電子レンジから湯気の立つトマトパスタを取り出すのを見て、一人の獣耳の青年が信じられないといった声を上げた。


「この鉄の容器の中に何が入っているんだ、臭いぞ!」


別の青年は、カセットコンロという奇妙な装置を目にして鼻を突まんだ。鉄の箱とボンベで構成されたそれから漂うガスの臭いに耐えかね、後ずさりする。その上では、鶏肉のスープがぐつぐつと煮えていた。


「不思議な香りだ……。人間の商隊でもこんな荷物は嗅いだことがない。やはりここは本当に異世界なのだな」


また別の青年が、皿に盛られたソーセージ炒飯の匂いを嗅いだ。

それは温めたばかりの冷凍食品で、玉ねぎ、人参、ソーセージ、椎茸が入っており、独特の食欲をそそる香りを放っていた。

後に彼らは知ることになる。それが「ニンニク」という名の香辛料であることを。


約二十分後、全員の手元に料理が行き渡ったのを確認し、タノシがようやく食事の合図を出した。

一同は食事を楽しみながら、タン・ピンへの自己紹介を始めた。

行儀としてはあまり良くないかもしれないが、彼らが人ならざる身であることを考え、タン・ピンもあえて口を挟まなかった。



まずは、最初に現れた緑髪の龍姫だ。


「では旦那様、改めて自己紹介をさせていただきます。私はタノシ様の眷属の一人であり、幼馴染でもある、セイランと申します。旦那様、私のことはセイランとお呼びください」

「彼女は青龍の末裔よ」


タノシが横から小声で補足すると、タン・ピンは驚きに目を見開いた。

(青龍の末裔? あの伝説の青龍のことか……?)


「老いぼれはブレノと申す。同じくタノシ様の眷属の一人にして、現在は凍土魔狼とうどまろう一族の長を務めております。そして、この三人が私の息子たちです」


老人は片手を胸に当て、敬意を表して頭を下げた。


「ブロードです。旦那様、何か任務があれば何なりとお申し付けください。この命に代えても完遂してみせます!」


三兄弟の中で最も落ち着いて見える青年が、父と同じ動作で挨拶をした。


「ブロードは我が一族の次期族長候補です。まだ学ぶべきことが多い身ですので、旦那様、厳しくご指導願いたい」


ブレノが謙虚に付け加える。


「そしてこっちはブレクス。口より先に手が出るのが欠点ですが、もしお気を悪くさせることがあっても、どうかお許しを」

「ブレクスだ、よろしくな、旦那様!」


三兄弟で最も血気盛んな様子の青年が、胸を叩いて自信満々に言い放った。


「最後が末っ子のブラックです」


ブレノが目配せをして促す。


「ブラックと申します。以後、お見知りおきを、旦那様……!」


三兄弟で一番若く見える青年が、少し照れくさそうに深くお辞儀をした。


「よろしく」


タン・ピンは笑顔で頷いた。

後ろのテーブルにはまだ二十人ほどの獣人たちが座っていたが、ブレノに彼らを紹介する様子はなかった。タノシもまた、プリンを食べるのに夢中で何も言わない。

(おそらく、彼らは一族の権力中枢にはいない者たちなのだろう)

タン・ピンはそう推測した。


次に、彼はタノシの隣に座る少年に目を向けた。少年はスプーンでコーンスープの具をいじって遊んでいた。


「ボクはヘリオス! 太陽のサン・ファルコンだよ。お兄ちゃん、あとで一緒に遊ぼうね!」


少年は無邪気に両手を挙げ、天真爛漫に笑った。


「皆さんの自己紹介が終わったところで、俺のことも簡単に紹介させてください」


タン・ピンは立ち上がり、言葉を続けた。


「俺はタン・ピン。少し前にタノシ様と契約を交わしました。現在はタノシ様の建国計画の策定と、生活全般のサポートを担当しています。今後、何か問題が起きたり、俺の至らない点に気づいたりしたら、遠慮なくフィードバックをください。よろしくお願いします」


そう言って、タン・ピンは深く頭を下げた。

タノシ以外の全員が、意外そうな表情を浮かべた。

(この旦那様、なんて感情のコントロールが上手い方なんだ……)

(自分勝手な人間かと思っていたが、これなら上手くやっていけそうだ)

互いに交わされる視線には、そんな安堵の色が混じっていた。


ただ一人、セイランだけはどこか上の空だった。

彼女はフォークでパスタを巻き取りながら、横目でチラチラとタン・ピンを盗み見ていた。

そして、赤色のソースが絡んだ麺を口に運ぶ。

(……甘酸っぱい。変な味……。でも……美味しい!)


食後、タノシがタン・ピンに計画の説明を命じた。


「忠実なる下僕よ、お前の計画を話しなさい」

「承知しました。皆さん、こちらをご覧ください」


タン・ピンは照明を消し、プロジェクターを起動した。白いスクリーンに、PPTファイルの表紙が映し出される。


「まず、ここがどんな場所か――あるいは、この惑星『地球』がどのような場所かを説明します」


彼らはタノシと同じ異世界「白砂の海」から来た魔獣たちだ。

「この星の神話の時代はすでに終わっています。かつての神々は物語の中にしか存在しません。我々が向き合う競争相手は、神への依存を捨て、『科学』という強大な力を武器にこの星を支配する種族――人間です!」


その言葉に、聴衆の間に緊張が走った。



タン・ピンは人口、国際連合、地図、現代兵器など、地球の基礎情報をざっくりと解説していった。あくまで彼らにイメージを持たせるためであり、今の主目的は滅国ではなく建国だからだ。


しかし、全員が熱心なわけではなかった。

教壇から見渡すと、真面目に聞いているのは先ほど紹介された一族のリーダーたちだけで、ヘリオスとタノシはすでに机に突っ伏して眠っていた。

(……さっき俺に『恥をかかせるな』と言ったのは誰だ。開始三分で寝てるじゃないか!)

タン・ピンは内心で毒づいた。


もう一つ、気になることがあった。

なぜかセイランがずっとこちらを見ている気がするのだ。演説者を見るのは当然だが、目が合うと慌てて俯くのは一体どういうことだろうか?


「より多くの人々を呼び込むために、インフラを整備し、国土計画と地域の発展レポートを作成する必要があります。まず、この土地を東・西・南・北・中央の五つのエリアに分けます。そして……タノシ様、出番ですよ!」


タン・ピンが肩を揺らすと、ロリ邪神はようやく目をこすりながら起き上がった。

「……んぅ? 夕食の時間か?」

「……これを出してください」


タノシは少し気を取り直し、ストレージ空間から「それ」を取り出した。


「これは……ただの土ですか?」


ブレノが不思議そうに尋ねた。タン・ピンは答えず、タノシに操作を続けさせた。

タノシは以前放った神力の残滓を感知する。その力は地下や島の各所で今なお活動し、地形をゆっくりと変えながら、膨大なフィードバックを操縦者へと送り続けている。

やがて、タノシの脳内に360度死角なしの3D地質マップが浮かび上がった。


彼女が指を鳴らすと、テーブルの上の土がまるで生き物のように蠢き始めた。

土は積み重なり、高い山を形作る。色は変化し、異なる性質の土壌へと変質していく。

瞬く間に、無人島の精密な模型が完成した。


火山、海岸、平原といった地貌がリアルに再現されているだけでなく、模型の上には二頭身の粘土細工のようなタン・ピンとタノシまで立っていた。


「こ、これは……!」


ブレノたちは目を見張った。人物の表情まで豊かに表現され、衣服や髪型、動作までもが完璧だ。

さらに、どこからか現れた水が島を囲む海となり、絶え間なく波を打っている。

そして最も目立つ火山の頂からは、なんと煙が上がっていた。


「これが計画中の五大行政区です。まずは中央の首都――『神臨しんりん』!」


タン・ピンは爪楊枝で作った、クトゥルフの紋章が描かれた小さな旗を、模型中央の高原地帯に突き立てた。

「ここは国家の政治的中心であり、神の住まい――タノシ教団の総本山となります」


「南側は熱帯、砂浜、ビキニといった第一印象を抱かせる場所だ。バカンスの聖地として計画し、沿岸を白い砂浜に改造して、ホテルやウォーターパークを建設する。熱帯フルーツも栽培しよう。名前は『南海なんかい』だ!」


言い終えると、タン・ピンはビキニの絵が描かれた旗を取り出し、模型の南側にある砂浜に突き立てた。


「西側は国内の主要な食糧産地だ。米、小麦、野菜……主要な作物をここで栽培する。名前は『西倉せいそう』!」

「北側は広大な草原と多くの湖に作り替え、畜産業と養殖漁業を発展させる。国家に豊かなタンパク質源を供給するんだ。ああ、レジャー農場に転換して、養殖と観光で二重に稼ぐのもいいな。名前は『北牧ほくぼく』だ!」

「東側の火山には地熱発電施設を設置できる。山間部の寒冷な特性を利用して、温泉観光文化を発展させるのもいい。名前は『東磺とうこう』だ!」


タン・ピンはまくしたてるように自分の計画を語り、各区域に小さな旗を次々と立てていった。

聴衆はあまりの情報量に頭がのぼせ、中には魂が抜けたように目を泳がせている者もいた。

彼らはタン・ピンが何を言っているのか正確には理解できなかったが、とにかく……「すごい」ということだけは伝わってきた。

(さすがタノシ様の婚約者だ。なんと多才な男なのだ……!)


「『神臨』の地形は、少し低めの高原にしたい。一定の高度がありつつも平坦な場所だ。東磺から流れる川をここへ引き込み、中継地点として下の三つの地域へ流す。ここには特別な文化は必要ない。邪神殿があり、神の住まいであり、政治と宗教の本拠地だ。インフラさえ整っていれば十分だろう。それから、もしかすると……」


タン・ピンは語れば語るほど興奮し、その言葉は狂熱を帯びていった。まるで体内のリミッターが外れたかのようだ。

彼は今、心の中の燃え盛る感情を歌に乗せてぶちまけたいほどだった。

目の前の目標は星の海、あるいは雲を突き抜ける壮大な峰。どんな困難も彼の歩みを止めることはできない。

もしあれば、飛び越えるまでだ。

現実味や実現可能性、合理性といった退屈なものは、今の彼には必要なかった。

彼は自由な鳥だ。嵐を前にしても、翼を羽ばたかせ、雲の上へ昇りつめることだけを考えていた。



タン・ピンが気づかぬうちに、階下で一人の表情が完全に変わっていた。

その金色の瞳に、いつの間にか彼の姿が焼き付いていたのだ。

セイランは自分の胸元に手を当てた。


(ドクン、ドクン……)

(鼓動が速い……。どうしたのかしら? 病気?)


華服を纏い、馬に跨り高飛車に振る舞う人間なら、彼女は見てきた。

ボロをまとい、壁際で施しを待つだけの人間の姿も知っている。

多くの人間を見てきたが、これほどまでに堂々と語り、未来への無限の期待を抱いて興奮している男は初めてだった。


高貴で強大な龍種である彼女は、生まれ持った素質の重要性を誰よりも知っている。

変えられない残酷な現実。それは努力の問題ではない。

海洋の魔獣たちも、鎖を断ち切り強大な存在へ脱皮することを夢見るが、それは不可能なのだ。


「白砂の海」という名は、白い砂礫を持つ海であることに由来する。

膨大な海獣たちが魔力に満ちた黒い海水に刺激され、一刻一刻と、より完璧で強大な姿を求めて進化し続ける。

彼らは戦い、食らい合う。

無数の骸が岸に打ち上げられ、自然の力で研磨され、果てしない白い砂浜となる。

それが彼らの運命だ。抗い、そして死ぬ。

(みんなが運命を受け入れれば、こんなに苦しく生きなくて済むのに……)

セイランはかつてそう考えたことがあった。


だが……目の前のこの人間はどうだ?

これほど弱く、卑しい身分でありながら。

なぜ他人のために、これほど楽しそうな表情ができるのか?

まるで神国が建設された後、彼自身が最大の受益者になるかのように。


実際はそうではない。神国ができればタノシが引き継ぎ、集まった民たちがそれぞれの生活を送るだけだ。

タン・ピンには何の関係もないはずだ。

それとも、他人が幸せになるのを見て、自分も嬉しくなるというのか?

信じがたいことに、セイランは彼から確かにそのような感情の因子を感じ取っていた。


セイランの脳裏に、問いが渦巻く。

彼女はまるで水面から飛び出した魚のように、太陽の輝きに触れた。寒さが追い払われた瞬間、新しい世界を目にしたのだ。

タノシの何気ない一言で撒かれた種が、今、芽を吹いた。

それが一筋の陽光であれ、一滴の雨であれ、もはや重要ではなかった。

彼女はもっと前へ進みたい。太陽の光に完全に包まれるその日まで。


「……大体このような感じです。いかがでしょうか、タノシ様?」


二度目の寝落ちをかました邪神お嬢様に、タン・ピンは呆れて白目を剥いた。

そして彼女の耳元で囁いた。

「夕食の時間ですよ」



初めての国内開発会議がようやく終わった。外はいつの間にか夕暮れ時だ。

電化製品や生活用品の使い方を知っているのはタン・ピン一人だけ。

そのため、夕食の準備も再び彼の役目となった。階下のスーパーには食材が山ほどある。


棚からパスタの袋を次々とカゴに入れていると、しなやかな手が伸びてきて、最後の一袋をタン・ピンのカートに入れた。


「……え? セイランさん、どうしてここに?」


突然現れた佳人に、タン・ピンは飛び上がらんばかりに驚いた。

(この人、足音が全くしないのか?)

なぜここにいるのか尋ねようとしたが、彼女は再び彼をピシャリと睨みつけた。


「今、今夜……」

「?」

「話が……あるわ」


言い捨てるなり、セイランはタン・ピンの反応も待たずに走り去ってしまった。

(???)

タン・ピンは訳が分からなかったが、深くは考えなかった。

「何か特別な生活用品が必要で、女の子としては口に出すのが恥ずかしいんだろう」程度に解釈した。

それが何であるか、タン・ピンには察しがついていた。

食材を選ぶついでに、彼は生理用品のコーナーで主要な商品を七、八点選んだ。

一瞬カートに入れようとしたが、思い直してストレージ空間にしまい込んだ。


タン・ピンは知らなかった。

ナプキンを選んでいる時から夕食を作る間ずっと、一対の金色の瞳が自分を注視し続けていたことを。



夕食が終わるまで、セイランがタン・ピンに話しかけてくることはなかった。

というより、一度も視線が合わなかった。

タン・ピンも焦りはしなかった。必要になれば向こうから言うだろう。


夜、宿泊場所を確保するため、タノシは再びプール付きの豪華なホテルを召喚した。

もはやタン・ピンは驚く気力もなかった。

(これも新手市ニュービーシティから持ってきたのか? 一体どうやって……?)

尋ねても、タノシは「うるさいわね! 下僕の分際で主人に口を出すんじゃないわよ。言われた通りにすればいいの!」と一蹴するだけだった。


タン・ピンは釈然としなかったが、毒食わば皿までだ。家もあり、食べ物もある。今はそれでいいと割り切った。

彼は再び総支配人モードになり、部屋の鍵を配り、照明やバスルームの使い方を教えて回った。

現代文明の進歩に驚きつつも、魔獣の本能か、野外を好む者たちはそれほど興味を示さなかった。


しかし、一人だけ例外がいた。セイランだ。

彼女は入浴設備やベッドの柔らかさに異常なほどこだわっていた。

何を考えているのか、彼女はタン・ピンに正しい歯の磨き方や、ボディーソープとシャンプーの使用範囲を教えさせた。

最後には、タン・ピンを隣の部屋へ行かせ、自分は元の部屋で大きな龍鳴りゅうめいを上げ、防音性能をテストした。

(この美人、もしかして寝相やいびきがひどいのか……?)

タン・ピンの中のセイランに対する好感度が少し下がったが、彼は表には出さず、自分の部屋へ戻った。


疲れ果てて泥のように眠ろうとしたその時、ドアを叩く音がした。

開けてみると、そこにはセイランが立っていた。


「……中に入れてくれないかしら?」


緑髪の龍姫は、雪のような白いバスローブを纏い、部屋の前に佇んでいた。

肩にかかる髪を指でいじりながら、顔を真っ赤にして彼女は言った。

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