第18話-ほんの少しの優しさ
「『タノシ牧場共和国』……?」
画面に表示された文字を見て、タノシは不思議そうに問いかけた。
「直球だろう? 少し前に思いついたんだ」
タン・ピンはそっけなく答え、キーボードを叩く速度を上げた。できれば夕食前にはすべての仕事を片付けたい。
「正式名称は『神聖タノシ牧場共和国』。名前の前に『神聖』を冠することで、この国には神が宿り、宗教を基盤とした国家であることを示す」
「中央の『牧場』という言葉は、国家の運営方針の暗喩だ。すべての営みは『産物』を生み出すためにある、ということ」
「そして最後の『共和国』は、平和の象徴だ。外部への侵略の意図がないことを示している」
「……ダメか?」
タノシはスマホをいじりながら、無表情であるショートメッセージを削除した。
それはブレノからの報告で、こう書かれていた。
**【36人確保。うち4人損壊】**
タン・ピンはファイルの編集を続け、その異変には気づいていない。
「滄海国には古くからの格言がある。『高く壁を築き、広く糧食を蓄え、緩やかに王を称す(高築牆、廣積糧、緩稱王)』。何の準備もなしに戦争を仕掛けるのは得策じゃない。僕たちの目的は利益の最大化であって、ただの殺戮じゃないんだ」
タン・ピンはマウスを操作し、完成したファイルをタノシのスマホへ転送すると、プロジェクターでその内容を映し出した。
その二十七ページ目には、巨大な毛筆体である言葉が書かれていた。
「『タノシ主義』……?」
タノシは一字一字、読み上げた。文字は読めるが、意味が繋がらない。
タン・ピンは頷き、解説を始めた。
「世界の他の『主義』と同じく、タノシ主義はこの国の核心的な発展方向だ。政治、経済、外交、民生……あらゆる重要領域を網羅している」
「目的は二つ。第一に、利益最大化を核とした宗教至上主義の神権国家を築くこと。第二に、誰もが憧れる『ユートピア』を創造することだ」
「前者は文字通りだ。後者は少し複雑でね……僕のような『社会の廃人』でも、気楽に生きていける世界を作りたいんだ」
「ゲームのように、誰もがその中で自分の楽しみを見つけ、キャラクターを構築し、強力なスキルを磨いていく。そんな世界だ」
タン・ピンはスマホを掲げた。画面には彼が愛好しているソーシャルゲーム『銃撃少女』が映っている。
「ここには、君を罵る奴も、君を搾取する奴もいない。誰もが自分自身の主人になれる」
「新しい政治体系を一から作るつもりはないよ。現実世界の事例をそのまま転用して、欠点を削り、利点を加える。シンプルでいい」
「完璧である必要はないが、適切であるべきだ。この国の文化と、現代の価値観に合致していればそれでいい」
「基本的には、外の世界の既知の国家――世界第一の強国『GCP』、民主主義の起源『欧州』、文明の古国『滄海』――彼らだって皆そうやっている」
「完全な資本主義も、完全な社会主義も存在しない。料理と同じだ。自分の好みに合わせて塩を足し、時には砂糖を……おっと、どうした? なんでそんな目で見てるんだ?」
自らの幻想に酔いしれていたタン・ピンは、ふと、女神様が両手で頬を包み込み、ニヤニヤしながら自分を見つめていることに気づいた。
タノシの目は三日月のように細められ、背中の八本の触手はリズムに乗って左右に揺れている。
「やっぱり、真剣に働く男って最高にクールね!」
「口では嫌がってるくせに、体は正直に働き続けて、私に骨抜きにされてるじゃない! ああ、こんなにも美しく罪作りな私が、迷える子羊を禁忌の深淵へと導いてしまうなんて。私はなんて罪な存在なのかしら!」
「……いや、そんなことはない」
タン・ピンの頬が引き攣った。生まれて初めて女性を殴りたい衝動に駆られた瞬間だった。
「ふふっ! ツンデレな男って本当に可愛いわね。やっぱりアンタ、ポテトをLサイズに……」
「No! Thank you!」
タン・ピンは断固として拒絶した。
「うふふっ」
タノシは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、「お見通しよ」という表情を隠さない。
「隠れファン」という不名誉なレッテルを剥がせないと悟り、タン・ピンは慌てて話題を切り替えた。
「……早く建国して、信仰の力を得たいんだろう?」
タノシは笑顔で頷いた。
「なら、僕のやり方に従ってくれ。僕はここの人間だ、この星での生き方を誰よりも熟知している。君はポテトチップスでも食べながら漫画を読んで、十数年ほど待っていればいい。その頃には、すべてが手に入っているはずだ」
「ほう……」
タノシが目を細めて彼を凝視する。タン・ピンはその視線に居心地の悪さを感じた。
「なんだよ?」
「アンタ、以前とは少し雰囲気が変わったわね。あの日、アンタが言った言葉を覚えているわ。『あいつらには残酷であるべきだ』……復讐の炎を宿したあの瞳は、今も私の脳裏に焼き付いているもの」
タノシはタン・ピンの顎をそっと持ち上げた。
深淵のような紫の瞳が、魅惑的で致命的な光を放つ。意志の弱い者なら、ひとたび見つめ合えば二度と逃れられないほどの魔力。
「状況が変わったんだ……」
タン・ピンは静かに彼女の手を払いのけた。
彼は掃き出し窓の前に立ち、外の景色を眺めた。
排気ガスの汚れひとつない青い空と、どこからともなく芽吹いた鮮やかな緑。
目の前のすべてが生命力に満ち、万物が競い合うように芽吹いている。
ただ自分だけが……何も変わらないままだ。
明るい陽光が、タン・ピンの影を長く伸ばす。
しばらくして、彼はぽつりと一言だけ漏らした。
「……もう、お腹はいっぱいなんだ」
「自分の能力は、自分が一番よく分かっています。あなたの助けがなければ、あの狭い賃貸部屋が、私の最後の墓場になっていたでしょう」
「これがブルーオーシャンだということは理解しています。今、死に物狂いで踏ん張れば、十年後には富も権力も手に入るでしょう。ですが……興味がないんです」
タン・ピンは自らの両手を見つめた。
スマホとコーラを持つ以外、この手は何も掴めない。一国の重みを支えるなど、到底無理な話だ。
建国初期の数年ならまだしも、国民が増え、物事が複雑化すれば、自分には対応できなくなる。無能な人間が重要な地位に居座り続け、部下に引きずり下ろされるのを待つのか?
いや……そんな不条理な光景は、学校や企業、政府の中で嫌というほど見てきた。
「餅は餅屋、人にはそれぞれの志があります。自分のものでないものを無理に奪っても、いつかは指の間からこぼれ落ちてしまう。今のままで、十分に満たされているんです」
「私は貧しい家庭で育ち、まともな家庭教育を受けてきませんでした。社会に出て初めて、自分の内側が空っぽなのだと気づかされたんです」
(あるいは、認めたくなかっただけか……)
タン・ピンは自嘲気味に笑った。
「目的も、夢も、やりたいことさえ何もない。極端な話、明日死ぬと言われても、恐ろしくも何ともない。静寂……おそらく、そこが私の行くべき場所なのでしょう」
タノシは目の前の男を注視した。
今のタン・ピンは、最初に出会った時よりも陰鬱に見える。自分の問いかけが、彼の忌まわしい過去を呼び起こしてしまったのかもしれない。
「ですが、私は幸運でした。あなたに出会えたからです。私の抱える不安や劣等感など、あなたの至高の力の前では、ちっぽけな胡麻一粒にすぎません」
タン・ピンは、キャンディを貰った子供のような笑みを浮かべた。
「あの1000億を受け取った瞬間、人生で初めて『生きている』という実感が湧きました。揺るぎない、頼れる避難所を持つことが、これほどまでに心を安らかにするものなのかと。私のすべてを捧げる以外に、恩返しする方法が見当たりません」
人類を守ることと、自分を救ってくれる悪魔。タン・ピンは迷わず後者を選んだ。
それは彼の罪ではなく、世界の罪だ。
望んで産まれたわけではなく、家族の重荷になりたかったわけでもない。それでも彼はこの世に生を受けた。
被害者でありながら、加害者のような顔をして育ち、道徳という重圧の下で「感謝と報恩」が人生の唯一の指針となった。
周囲には、彼を助けようとする者も、助けられる者もいなかった。
そうして24歳まで生き延び、タノシに出会ったのだ。
もしこの世に偶然がなく、すべてが必然であるならば、この「罪」からも彼は逃れられないだろう。
「私の独りよがりかもしれませんが、この出会いは偶然ではなく、運命だと信じています」
足元の闇はこれほどまでに深いというのに、タン・ピンの瞳には新しい光が宿っていた。
目の前に立つのは、強大な力を持つ古き存在。
数千年前、神が未開の人類を文明へと導いたように。
千年後の今、この腐敗した世界を救うのも、また彼らなのかもしれない。
「絶望的な世界で、私を救ってくれる神に出会えた。ええ、あなたはクトゥルフであり、邪神だ。新手市の惨劇は起きてしまったし、それは誰にも取り消せません」
「ですが、私は信じたい。私を救ったこの力が、同じ境遇にある他の誰かをも救えると。それこそが、社会から脱落したルーザーである私が、この世に生を受けた意味なのかもしれません」
タン・ピンは両手を握りしめ、言葉に狂信的な熱を帯びさせた。
「神代が絶えたこの世界で、あなたはかけがえのない宝物です」
「ほんの少しでいい。あなたの優しさを分けてください。ギャルゲーにあるような、誰もが笑顔になれるハッピーエンドが訪れることを、少なくとも……私はそう願っています」
「そんなの当然じゃない! 私は神よ? とっても偉いのよ! 人間の不幸なんて、私が指先を動かせば、すぐに地球上から絶滅させてあげるわ!」
タノシは誇らしげに胸を張った。
その豊かな膨らみが激しく揺れ、間近で見ていたタン・ピンは思わず生唾を飲み込んだ。
「私の母様(母神)が言っていたわ。闇が空を覆うには一晩かかるけれど、曙光は一瞬で世界を照らし出すって」
「人類だけじゃない、アンタも救ってあげるわ、タン・ピン!」
タノシは指を突きつけ、男を真っ直ぐに見据えた。
その顔に迷いや退き腰は微塵もない。あるのは底知れぬ自信だけだ。
「劣等感なんて、私が気にかけるほどの欠点ですらないわ」
「嫌なら、逃げなさい!」
「怖いなら、隠れなさい!」
「もし本当に道に迷ったなら――私を見なさい!」
「私の可愛い契約者、未来を隣で歩む伴侶よ。アンタの心の闇、確かに受け取ったわ!」
「私は自由。そしてアンタは庇護される者。案ずることはないわ。私の偉大なる輝きに照らされて、思う存分駆け抜けなさい!」
「この道の果てには、完璧なゴールが必ずある。それを探しに行きましょう!」
「この大邪神タノシが、許可してあげるわ!」
銀髪の女神は男の顎を持ち上げ、祝福という名の接吻を与えた。
柑橘系のボディソープと潮の香りが鼻をくすぐり、タン・ピンは呆然と立ち尽くした。
先日、親密な関係になったとはいえ、彼はどこか実感が湧かずにいた。
タン・ピンは恐る恐る彼女を抱きしめた。至高の存在はそれを拒まず、彼は安心して天の恵みに触れた。
タノシは慈母のように、彼の不遜な振る舞いを受け入れた。
タン・ピンにとって、それは純粋な性欲ではなく、信頼の証だった。
タノシならば、自分がどんなに子供じみた行動をとっても、きっと包み込んでくれる。
そしてタノシにとって、キスは何ら恥ずべきことではなかった。
幼い頃、母神はよく父神を押し倒しては愛を囁いていた。最初は乗り気でなかった父神も、情欲が高まれば、かえって激しく応えていたものだ。
母神は彼女に教えた。
「愛の中には性が潜み、性はより深い愛を育むの。もし将来、好きな人ができたら、愛し惜しんではいけないわ。堂々と示しなさい」
「結末がハッピーエンドであろうとなかろうと、それは貴女の人生の重要な宝物になるから」
もちろん、このルールは「好きな相手」にしか適用されない。
もし嫌いな奴がそんなことをしてきたら――。
母神は目を細め、「分かってるわね?」という表情を浮かべた。
タノシは理解した。それは「皆殺しにしていい」という意味だ。
「それから、クトゥルフ一族の少子化を食い止めるために、私とお父様は今、多大な貢献をしているところなの。貴女みたいな置き物(ルリ灯)は、邪魔だからあっちに行ってなさい!」
「訓練室にタイタンシャークの幼体を百体放しておいたわ。全部切り刻んでから戻ってきなさい。夕食の時間までに終わらせるのよ。料理が冷めちゃうから」
そう言って、母神は当時わずか五歳だった自分を、部屋から放り出したのだった。
あの頃の幼い自分には、彼らが何をしていたのか分からなかった。だが、大人になった今なら分かる。
これが母様が夢中になっていたことなのね……。
なんて気持ちいいのかしら……。
初めて肉の悦びを知ったタノシの瞳は、次第に熱を帯び、とろけていく。
彼女はすべての警戒を解き、甘美な接吻に身を委ねた。
なるほどね、セイランが私に内緒で、こっそり彼とこんなことをしていたわけだわ……。
なら、私が少しだけ我儘を言っても、バチは当たらないわよね?
タノシが心の中で念じると、オフィスの床に巨大な魔法陣が出現した。
眩い白光が部屋中を照らし出し、一瞬にして二人の姿を消し去る。
**(ドボンッ!)**
全身を刺すような冷たさが這い上がる。
接吻に溺れていたタン・ピンは、即座に目を見開いた。
「!」
蒼の世界……。
絶え間なく昇っていく気泡……。
これは……海水!?
どういうわけか、二人は海の中へと転移していた。
タノシは相変わらず楽しそうに微笑んでいるが、泳げないタン・ピンはパニックに陥る。
逃げ場のない極限状態で、彼はタノシの体に必死にしがみついた。
タノシはタン・ピンの唇を塞ぎ、口移しで空気を送り込む。
そして彼女が手を一振りすると、再び景色が切り替わった。
転移の直前、タン・ピンは奇妙な光景を目にした。
海底に沈む巨大なピラミッド。その頂上には祭壇のような施設があり――。
そこに、誰か人がいたような気がした。
次の瞬間、激しい浮遊感が全身を包み、二人は雪のように白い大ベッドの上へと転れ落ちた。
淡い薔薇の香りが鼻腔をくすぐる。
タン・ピンは体の不快感を堪え、顔を上げて周囲を見渡した。
そこは広々とした清潔な部屋で、まるで時代劇のセットのような、滄海国の古典的な様式が色濃く漂っていた。
家具はすべて木製で、鏡台に置かれた口紅やシートマスクが、ここが女性の寝室であることを物語っている。
「……ここは、どこだ?」
タン・ピンがタノシに問いかけた。
だが、返ってきたのは問いに対する答えではなく、豊潤な唇だった。
「!」
タノシの瞳は血走り、タン・ピンをベッドに押し倒した。彼女が手を振ると、纏っていた典雅な宮廷装束は一瞬でボロ布と化した。
今の彼女は高貴な女神ではない。生贄を渇望する魔獣そのものだ。
長い接吻を終え、タノシは腰を浮かせて、着衣の乱れた男を見下ろした。
二人の唇の間には、細い銀の糸が引いている。
タノシは眉を上げ、顎をしゃくって「もっと不遜に振る舞え」と暗示する。
それは誘いであると同時に、絶対的な命令だった。
タン・ピンは、自分が今、一万メートルの断崖絶壁に立たされているのだと気づいた。
後退する勇気などない。ならば、毒を食らわば皿までだ。
幾千万の人間の中で、自分だけが立つことを許された天選の地。
彼女の気高い肌に触れることを許され、女神の微笑みを得るためだけに、全存在を賭けて奉仕する。
タン・ピンには予感があった。これを続けてしまえば、もう二度と元には戻れない。
だが、彼は退かなかった。たとえ目の前の毒の花を食らうことになろうとも。
自らを生贄として捧げ、尊き神の「優しさ」を買い取るのだ。
天と地を繋ぐ架け橋となり、言語を絶する大いなる恐怖に、人間の「美しさ」を教えてやる。
タノシが自分を愛した瞬間、彼女は一人の女になる。
世界から血に飢えた悪魔が一人消え、慈愛に満ちた神が一人増えるのだ。
欲望の波濤の中で、タン・ピンは辛うじて意識を保っていた。
強大な魔力が血管の一本一本に浸透し、神との距離がわずか一歩にまで縮まる。
禁忌の花園を通り抜け、ついに極楽の浄土へと辿り着く。
苦悩も痛みも忘却の彼方へ消え去った刹那、タン・ピンは自分の内側の空洞が、満たされていくのを感じた。
(未来のことなんて考えなくていい……。このまま優しさの海に溺れ死ねるなら、それも悪くない……)
意識を失う寸前、彼はそう思った。
どれほどの時間が過ぎただろうか。再び意識が戻ったとき、すべては終わっていた。
冷静さを取り戻したタン・ピンは、タノシが依然として「純潔」を保っていることに気づいた。
タノシは彼に言った。今のアンタの功績ではまだ私に釣り合わない、だから「その時」まで待っていなさい、と。
(その日はすぐに来るわ。その時こそ、私は……)
銀髪の女神は約束を交わし、タン・ピンの頭を抱き寄せて自らの鼓動を聴かせた。
「忠実なる下僕……」
「……ん?」
「私のこと、好き?」
「……二択なら、イエスだ」
「プリンよりも好き?」
「それは確実に。比べるまでもない」
「じゃあ、世界で一番好きってことね!」
二人は顔を見合わせ、笑い合った。
「いい子にしていれば、欲しいものは何でもあげちゃうわ……」
タノシは服を整え、タン・ピンの額に軽くキスを落とした。
再び巨大な魔法陣が浮かび上がる。
タン・ピンの姿が消える直前、タノシはこう告げた。
「地下室へ行きなさい。アンタの疑問も、アンタの祈りも、全部そこに置いておいたわ。それを見れば、すべてを理解するはずよ」
白光が弾け、タン・ピンの姿はかき消えた。
一人残ったタノシは立ち上がり、革製のソファに腰を下ろした。
彼女が手を振ると、戸棚から赤ワインが自動で飛び出し、グラスの四分の一を満たして彼女の手元へと収まった。
「覗き見なんて、いい女のすることじゃないわよ?」
タノシはニヤリと笑い、グラスを揺らしながら言った。
ドアの外にいたその人物は、一瞬の躊躇の後、一歩を踏み出し、かつて自分のものだった寝室へと入ってきた。
「あげるわよ、それ。私はもういらないから」
タノシは、汗と熱に塗れたベッドを指差し、無造作に言い放った。
緑髪の龍姫――セイランには、抗う術などなかった。
彼女はただ項垂れ、両拳を強く握りしめた。爪が肉に食い込み、血が滲むほどに。
深く息を吐き出し、ようやくセイランは笑みを浮かべて言った。
「気持ちよかったでしょう? ……私が彼に教えたんだから」




