表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/20

第16話-真相

「全員散開! 火力集中させろ!!!」


隊長の咆哮が響き渡った。彼は手にした地図を投げ捨て、真っ先に目の前の怪物へ向けて引き金を引いた。

イ・ヒョンプンと残された五人の兵士たちも散り散りになり、遮蔽物を見つけては狂ったように銃弾を撃ち込んだ。


耳を劈く銃声が、通りの静寂を粉砕する。

一匹、二匹、四匹……。濃烈な生臭い臭いと共に、車ほども巨大な狼たちが、次々と通りに姿を現した。

青灰色の毛皮に、顔や四肢に刻まれた奇妙な黒の紋様。

その口は、成人男性を丸呑みにできるほどに巨大だった。

断言できる。これは地球上に存在する生き物ではない。ゲームの中から這い出してきた魔物そのものだ。


何より恐怖だったのは、これほど巨大な巨体がすぐそばにいたというのに、誰一人として気づかなかったことだ。

(まさか、俺たちがここを通るのを知っていて、待ち伏せしていたのか?)

その疑問を深く追求する余裕など、ヒョンプンの脳内には残されていなかった。


計七頭の巨獣たちは、想像を絶する敏捷さで通りを駆け巡った。

軽く跳躍するだけでSUVを飛び越え、ある個体は重力を無視してビルの壁面を疾走する。

四人の兵士が掃射しても、その尻尾さえ捉えられない。

奴らの顔……あれは、楽しんでいるのか?


突然、壁を走っていた巨狼が天を仰いで遠吠えを上げた。

刹那、草緑色の光を放つ刃が虚空に無数に出現し、弾丸に劣らぬ速度で飛来した。

瞬きする間だった。三人の兵士の肉体は、遮蔽物ごと微塵に切り裂かれた。

離れた場所にいた隊長とヒョンプンは、一瞬だけ視線を交わした。

次の瞬間、二人は迷うことなく銃をフルオートに切り替え、ありったけの火力を叩き込んだ。


空薬莢が舞い、血肉が飛び散る。

ここは戦場ではない。地獄だ。



「……ふぅっ!」


ヒョンプンは勢いよく顔を上げた。後頭部が鉄製の棚に強く当たり、スナック菓子の袋が数個落ちてくる。

周囲の光は先ほどより暗く沈んでいた。……寝てしまったのか?

窓の外に目を向けると、通りは夕焼けに染まっていた。間もなく夜が来る。


隊長たちはどうなった……。無事に逃げ延びただろうか。


「こちらビー8。隊長、聞こえますか」


耳元に届くのは、ただの静寂。

ヒョンプンは激しい頭痛に襲われた。

地図を持っているのは隊長だけだ。彼がいなければ、駅の臨時拠点に戻ることなど不可能に近い。

太陽の位置から方角を推測することはできるが、一人での行動はあまりに無謀だ。

(他の部隊の救助を待つか? ……いや、上層部が助けをよこす保証なんてない。そもそも俺の居場所も分かっていないんだ)


やはり、自力でこの街を抜けるしかない。駅か、あるいは他の拠点が設営されている場所まで。

明日の朝に出発すれば……。

いや、ダメだ。昔、動物チャンネルで言っていた。狼は極めて知能が高い生き物だと。

人間と同じく、環境に合わせて活動時間を調整し、狩りの効率を最適化させる。

昼間に遭遇したのなら、夜こそが奴らの休息時間である可能性が高い。

奴らの朝食にされる前に、この夜のうちに逃げるチャンスを逃してはならない。


だが、夜には別の魔物が現れるかもしれないし、照明器具もない中で暗闇を移動するのは現実的ではない。

……なら、今すぐだ。

まだ残光があるうちに、ホテルかどこか、安全な避難所を見つけて一晩を凌ぐ。それが最善だ。


「よし……!」


決意を固めたヒョンプンは、店内の物資を漁り始めた。

無駄に動き回らず、手近な棚からビーフジャーキーやチップスを掴み、ミネラルウォーターで胃に流し込んだ。

腹を満たすと、予備のチョコレートとジャーキーをポケットに詰め込み、レジにあったライターを二つひっ掴んで、店の外へ出た。

柱の陰に隠れ、慎重に通りを窺う。


(……あそこにある建物、オーガスタス・ホテルじゃないか?)


今夜の宿はあそこに決めた。

周囲に危険がないことを確認し、ヒョンプンは全速力で駆け出した。

驚くほど幸運なことに、道中で魔物に出会うことはなかった。

ホテルの向かいにある路地まで、スムーズに辿り着いた。

あの通りを横切れば、安らかな夜が手に入る。


「ハニカムへ。ビー8、支援を要請する。応答せよ」


ホテルに入る前、最後にもう一度だけ救助を求めた。どうせ繋がらないだろうと思っていたが、今度は応答があった。


『こちらハニカム! 現在の状況を報告せよ。全部隊と通信が途絶している! ビー8、貴様の現在地は? 生存者は何名だ!? どのような支援が必要か!?』


「俺は……!」


狂喜したヒョンプンが答えようとした、その時。

目の前の光景に、彼は氷ついた。全身に鳥肌が立つ。


ホテルの開け放たれた入り口から、一頭の巨狼が悠然と歩み出てきたのだ。

毛並みも、紋様も、今朝遭遇したあの魔物と同じ群れのものだ。

狼の前に黒い渦が現れ、中から淡緑色の水晶が一つ、転がり落ちた。

狼が前足でそれを踏み砕くと、瞬く間にその巨体は透明になり、大気へと溶け込んで消えた。


ヒョンプンは両手で必死に口を塞いだ。眼球がこぼれ落ちそうなほど見開かれる。

今朝の出来事が、脳内で急速に再生される。

突如として現れた魔物。陥落した拠点。

これは災害などではない。仕組まれた「陰謀」だ。

奴らはただ巨大化した獣ではない。思考する「悪魔」だ。

そして、目の前にそびえ立つホテルは、避難所などではなく、決して足を踏み入れてはならない「魔窟」だった。


**――シュッ!!**


突然、頭上から空を切り裂く音が響いた。

ヒョンプンが顔を上げる。


――そこには、**「羽の生えた太陽」**があった。


それは鋼鉄をも溶かす熱量を孕み、隕石のような速度で、彼めがけて突き進んでくる。


(……俺は、死ぬのか?)


『ビー8! ビー8! 応答しろ! 位置を報告するんだ! ビー8!!』


ヒョンプンは答えなかった。

彼はただ静かにその光景を見つめ、耳の無線機をそっと外した。


次の瞬間、太陽が着弾した。

炭素で構成された肉体は抗う術もなく、文字通り「炭」へと変わった。

街は、再び沈黙に包まれた。



同じ時刻。新手シンシュウ市から約二百キロ離れた場所。

エリンデ共和国の首都、天龍テンリュウ市。

市中心部のあるビルは、今や災害対策センターへと作り変えられていた。

スーツ姿の役人、迷彩服の軍人、警察制服の警官。

服装はバラバラだが、彼らには一つの共通点があった。

誰もが、一刻の猶予もないほどに忙殺されているということだ。


新手シンシュウ市の臨時司令部から連絡です。本日派遣した部隊は、すべて音信不通となりました……」

「第四救助部隊は隣町で待機中。明朝、一番で出発可能です……」

「江博士との連絡はまだか? 放射能汚染の検査報告書はどうなっている!」

「先ほど電話しました。データの整理中だそうで、二十分後にはファックスで届くとのことです」

「大統領閣下からの至上命令だ。今夜中に信頼できる報告書をまとめろ。明朝、記者会見を開いて真相を公表する……」


上層部の面子を守るため、そして国民の圧力に応えるため、対策センターの全員が死に物狂いで働いていた。

理由は他でもない。各国のニュースのトップを飾った重大事件――新手市の大規模「神隠し」事件である。


事件発生の翌日、新手市へ通勤しようとした人々は驚愕した。街から「生きた人間」が一人残らず消えていたのだ。

280万人の市民が、跡形もなく消え失せた。

電灯やエアコンは正常に作動しており、食卓には料理が並べられたまま。テレビからはバラエティ番組の笑い声が虚しく響いている。

すべてがいつも通り。ただ、それを享受する「主人」だけがいないのだ。


何が起きたのか、消えた人々がどこへ行ったのか、誰も知らなかった。

警察当局は必死に手がかりを追った。監視カメラの映像、ドアの破損、交通事故の痕跡、放射能、ウイルス。ありとあらゆる調査を行ったが、何も出なかった。

銀行の金庫は一つも破られておらず、不法侵入の形跡もない。

自然災害でも、人為的な破壊でも、放射能でも毒素でもない。

まるで、一秒前までテレビを見ながらビールを飲んでいた人々が、次の瞬間、そのまま空間から蒸発してしまったかのように。


事件の二日目、軍は街へ通じるすべての道路を封鎖し、専門の科学調査チームを送り込んだ。

市街地では電波障害が起きていたが、駅周辺では辛うじて通信が可能だったため、軍はそこを気に留めず臨時司令部を設営した。

当初は順調だった。何の問題も起きていなかった。


だが、三日前。突如として一個小隊が消息を絶った。

二日前、サンプル採取のために市中心部へ潜入した五人の科学者と、七つの捜索チームが定刻を過ぎても戻らなかった。

そして今日――。

駅の臨時司令部を除き、市街へ入ったすべての人間が消え去った。


「どうしてこんなことになる……。280万人が消えて、手がかり一つないだと? エイリアンの誘拐じゃあるまいし、ふざけるな! 明日の記者会見、上層部に何て説明すればいい。ネットの連中に何て言えばいいんだ!」


ようやく完全な報告書を手にした臨時調査指揮官、警政署長の陳家慶チン・カケイは、安堵するどころか、その顔に深い皺を刻んだ。

人生で最も緊張した一日は、妻が子供を産んだ日だったが、今日はそれを軽く超えている。

この「ゴミの山」で、どうやって国民を納得させろというのか。


陳は報告書を床に投げ捨て、窓の外を睨んだ。

気候、建物被害、人為的破壊、放射能、ウイルス、通信記録、出入国記録……計十二項目にわたる報告。

中身は実質、白紙も同然だった。結論はすべて「異常なし」の一言に集約されるからだ。


「異常なしだと? これこそが最大の異常だろうが! 畜生め、どいつもこいつもどこへ消えやがった!」


陳は着任してまだ三ヶ月。私腹を肥やす間もなく、責任を取って辞任しろというのか。

その時、オフィスにもう一人残っていた人物が、散らばった紙を拾い上げ、丁寧にデスクに戻した。


「陳署長、一つ奇妙な点があります……」


仕立ての良いブルーのスーツを着たその男は、胸に精緻なアカデミーのバッジを付けていた。一見すれば大学生のようだ。

普段なら陳も親切に茶を出し、世間話でもしただろう。だが今の彼に、そんな余裕はない。


「奇妙な点だと? 奇妙じゃない点があるなら教えてくれよ! エイリアンが攻めてきたって言われた方がまだ信じられるわ!」


陳は八つ当たり気味に青年の言葉を遮った。

青年の名は佐藤新二さとう しんじ欧林オーリン共和国でその名を知らぬ者はいない「学生探偵」だ。

彼の家系は古くから推理に長け、特に父親はテレビでもお馴染みの世界的名探偵である。

新二もまた、その才能を色濃く受け継いでいた。幼少期から頭角を現し、数々の難事件を解決してきた彼は、警察界のスーパースターだ。


彼の最も有名な手口(?)は、遊園地で怪しげな取引を行う黒ずくめの男を目撃した際のことだ。注意を逸らすためにシェリー酒の瓶を投げつけ、相手が振り向いた隙にサッカーボールを「股間」に叩き込んで制圧したという。

後にニュースで「爆弾(玉)事件」と報じられた伝説である。


政府はこの未曾有の事態を重く見て、新二に支援を要請した。陳自身も彼の能力に頼り切り、最大限の調査権限を与えていたのだ。


「いいえ、陳署長。監視カメラのない一般住宅はともかく、銀行や重要施設には24時間体制で警備員がいたはずです。ですが、夜の10時前後を境に、モニターに映っていた人々が不自然に消失している。分かりますか? 次の瞬間、突如として、瞬時に、完全に……消えているんです」


佐藤新二は真剣な面持ちで、事件の核心を突いた。


「……つまり、超自然的な現象だと言いたいのか?」


280万人を跡形もなく消すなど、人間や組織、国家にできる芸当ではない。

だとすれば残る可能性は一つだ。

科学の時代。ロケットが月に届き、メタバースが実現したこの時代に「オカルト」か。陳は内心で鼻で笑ったが、それ以外に説明がつかないのも事実だった。


「陳署長、これが超自然現象かどうかは別として、もはや我々警察の手に負える規模ではありません。大統領府へ報告し、彼らに伝えてもらうべきです」

「……GCPのことか?」


陳は言い淀んだ。

エリンデ共和国はかつてGCPの植民地だったが、戦後は良好な関係を築いてきた。経済、文化、犯罪データベースまで共有している。

そしてそこには、公にされない秘密条約があった。

「超自然現象が発生した場合、必ずGCPに通報しなければならない」という強制規定だ。

当時のGCPの態度はあまりに強硬で、国家間の対等な交流というより、上司から部下への命令に近いものだった。

エリンデ政府はそれを飲み込むしかなかった。国際社会は正義や善意ではなく、力(拳)の大きさで動いているからだ。


「いいだろう……。どのみち我々にはどうすることもできん。事件が解決するなら、それでいい……」


数秒の葛藤の末、陳家慶は折れた。

受話器を取り、大統領府へ直通の電話をかける。


「大統領閣下。陳家慶です。今回の調査結果ですが……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ