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第12話-私が最も信頼する人

「一番信頼しているのは誰か、だと? そんなのセイランに決まっているじゃない!」


タノシは迷うことなく言い放った。それはまるで、太陽が東から昇るのを説法するかのような、当然の心理であった。

その言葉を受け、階下の魔狼族たちは小声で囁き合った。


「やっぱり、族長がいくら頑張っても三番手止まりか……」

「タノシ様、愛と仕事の天秤で、迷わず姉妹シスターを選んだぞ!」

「でも、セイラン閣下は本当にその信頼に応えられるのかね?」

「さあな」


タノシは連中の密談など気にも留めていなかった。

彼らは魔狼族の中でも特に若い世代だ。活発で物怖じせず、距離感というものを知らない。

もしブレノやその息子たちであれば、このような無礼な質問を彼女に投げかけることはなかっただろう。

たまたま彼らが野菜に似た植物を見つけ、タン・ピンへの研究材料として持ち帰る準備をしていた際、ふと出た疑問だった。


タノシは巨大な水球のソファに身を沈め、気怠げに言葉を繋いだ。

「あいつとは長い付き合いなの。それに我が家は、彼女の一族――亜青龍あせいりゅう一族に大きな恩を売っているわ。私とあいつの絆は、あんたたちが思うよりずっと深いのよ」


「何か面白いお話があるんですか?」

魔狼族の少女が、目を輝かせて尋ねた。

タノシは少し可笑しそうに口角を上げると、遠い過去の話を始めた。


「それは……ずいぶん昔のことよ」



TOSTTOから少し離れた、人目に付かない隠れ家的な浜辺に、緑髪の龍姫が立っていた。

靴を脱ぎ捨て、白く透き通った足を氷のように冷たい海水に浸している。

ここはセイランの秘密基地であり、タン・ピンさえも一度も連れてきたことはない。

(彼が探しに来てくれるのを、どこかで期待していた……けれど、彼は現れなかった)


明日にはタノシが戻ってくる。

この数日間、二人はただ肉欲に溺れる毎日を過ごしていた。作成するはずだった企画書も、点検すべき物資も、何一つ手をつけていない。

今頃彼は、必死に遅れを取り戻そうと作業に追われているに違いない。セイランはそう確信していた。


彼女は砂浜に腰を下ろした。海から漂う微かな魔力と水元素の心地よさを感じる。

自分は「世界意志」からの拒絶を感じない。それは自分の血筋のせいだろうか。

(ここは……おじい様がかつて暮らしていた場所なのかしら……?)

断片的な記憶が脳裏をよぎり、セイランは深い沈思に沈んでいった。


「……昔々、とてつもなく強大な一頭の龍が、時空の裂け目を超えて私たちの世界に迷い込んだの」


タノシは語る。

「エメラルドのように華麗な鱗を纏い、蛇のような姿で、口からは龍珠を吐き出す。この世界の龍とは全く異なり、気高く、悪を許さぬ正義感に満ちたその姿に、誰もが魅了されたわ。

彼こそがセイランの祖父であり、滄海大陸そうかいたいりくの神話の頂点。四象の力を操り、東方を司る古の神獣――青龍よ」



「セイランたちの一族は、上古の時代には『海皇聖龍かいおうせいりゅう』と呼ばれていたわ」

「でも、代を重ねるごとに血は薄れ、龍血は枯渇していった。周囲からは『龍の末裔』と名乗ることさえ嘲笑われる始末。連中につけられた屈辱的なあだ名は――『海皇蛇かいおうへび』」


回想の中、セイランは苦い笑いを浮かべた。

(一族の者は皆憤っていたけれど、どうしようもなかった。当時の私たちは本当に弱かったから)

強敵がひしめく魔性の海「白砂の海」において、海皇蛇は第四階級の弱者に過ぎなかった。

(毎日のように同胞が殺され、それでも報復すら許されない。ただ耐えるだけの地獄だった。けれど、三千年前にすべてが変わった。おじい様が現れたのよ)


「青龍はこの世界に来て間もなく、滅亡の危機に瀕していた海皇蛇一族に出会ったの」

「正義漢の青龍は、同じ龍族の末裔がこれほど無惨な扱いを受けているのを見過ごせなかった。彼は圧倒的な力で一族を救い、守護神となったわ。ようやく後ろ盾を得た海皇蛇たちは、死に怯える日々から解放されたのよ」


「……待ってください。異世界から来たのなら、世界意志の制裁は受けなかったんですか?」

採集を終えたブレクスが、素朴な疑問を投げかけた。タノシは「これだから馬鹿は」と言いたげな顔で白目を剥く。


「馬鹿ね。相手は四神の一柱、善神陣営の頂点よ。あんたが世界意志なら、帰れる見込みのない最高戦力を追い出す? それとも、必死に引き止めて自分の味方にする?」

「あぁ……」


タノシは語りながら、思い出して腹が立ってきた。

あちらの世界意志はこれほど話が分かるのに、こちらの世界意志ときたら、執拗に嫌がらせをしてくる。

(ケチくさいわね。人を見て態度を変えるなんて、最低だわ!)


「タノシ様、あんな馬鹿の言うことは気にせず、続きをお願いします」

ブレノが息子を叱りつけながら、先を促した。



(おじい様は結局、元の世界へ戻る方法を見つけられなかった。失意の末、彼は世界意志の誘いを受け入れ、この世界の一員になることを決めたの。

そして海皇蛇の雌たちを妻に迎え、多くの血を繋いだわ。生まれた子供たちは濃い龍血を受け継ぎ、その特徴から『亜青龍』と呼ばれるようになった。一族は瞬く間に白砂の海の頂点へと返り咲いたわ)


「つまり、セイランのじいさんは異世界に転生してハーレムを作ったってことか?!」

ブレクスが呆然と叫び、周囲からも驚きの声が上がる。

「まあ、そんなところね」


「……どうして俺にはそんな幸運が……あだっ! 痛い痛い! 冗談だって、本気にすんな!」

未婚妻に脇腹を抓られた魔狼族の青年の悲鳴が響く。


そこへ、ヘリオスが羽ばたきながら降りてきた。足には立派なマグロを掴んでいる。

「お姉ちゃん、続きは? どうなったの?」


タノシは不機嫌そうに鼻を鳴らした。

「強くなりすぎた亜青龍は、同時に多くの敵を作ったわ。終わりのない戦争が始まり、せっかく増えた人口もまた減り始めた。

族長である青龍は焦った。けれど、その頃の彼はすでに美色と戦火に蝕まれ、かつての輝きを失っていたわ。

老いた龍が選んだ道は、再びの『血統改良』。一族の若く美しい雌をすべて自分の後宮に囲い込み、無理やり強い個体を生み出そうとしたのよ」


タノシは軽蔑の色を隠さない。

(あんな偽善者が、なぜ私より世界意志に愛されるのか。人間を少し殺したくらいで私を悪者扱いして。納得いかないわ!)


「やがて一族の雌は皆、彼の血を宿した。けれど、生まれてくる小龍たちの実力は上がらなかった。追い詰められた老龍は、ついに自分の孫娘――セイランに目を向けたの」


セイランは砂を握りしめた。

(母様は反対した。おじい様自身も葛藤していたわ。毎日、傷だらけで狩りから戻ってくる同胞たちを見て、彼の正義感は悲鳴を上げていた。

けれど、もう限界だったのよ。一族の精鋭が伏兵に遭って全滅し、父様も兄様も、次世代の希望がすべて死に絶えたあの日……。

おじい様は、自分の一族を再び地獄へ落とすわけにはいかなかった。そしてその夜、私は彼の部屋へ呼ばれたわ。でも、そこで……)


「私が乗り込んだのよ」


「えぇっ?!」


一同が耳を疑う中、タノシは平然と言い放った。

「何よ、変なこと? 近所に私より強くて美人の龍の末裔がいるって聞いて、一度叩きのめしてやろうと思ってたの。ちょうどその夜、暇だったから行ってみたんだけど……結果は……」


魔狼族たちが生唾を飲み込む。


「私、あのじいさんに半殺しにされたわ。

でも、運悪く(?)、私の両親が遊びに来る途中でその場面を見ちゃってね。激怒した父様と母様が、その場で青龍をひねり潰して殺しちゃったの。

ついでに亜青龍一族をまるごと属国ボトムにして、『娘に恥をかかせた償いを、一族の余生をかけて支払え』ってね。

こうして、セイランの純潔も一族の存亡も、まるっと解決したってわけ」


「…………」

魔狼族たちは言葉を失った。あまりにタノシの家系らしい、強引で理不尽な解決策。

これをハッピーエンドと呼んでいいのか、彼らには判断がつかなかった。


(……ふふ、でもタノシは、悪い子じゃないのよ)


セイランは独りごちた。

(彼女は言ったわ。『傷が治ったら、私と勝負しなさい。あなたが勝てば一族を解放してあげる。私が勝てば、この眷属契約にサインしなさい』って。

一年後、全盛期の私は木っ端微塵に負けたわ。全身の骨を折られ、鱗は五十枚も残らなかった。

でも、彼女は私に治癒の魔力水晶を渡してくれた。あれがなければ、私は今ここにいない。……本当に、不思議な縁だわ)



「一番信頼しているのは誰か、だと? そんなのセイランに決まっているじゃない!」


タノシは迷いなく言い放った。それはまるで、太陽が東から昇るのを語るかのような自明の理であった。

その言葉を聞き、階下の魔狼族たちは微妙な表情を浮かべて顔を見合わせた。

彼らの嗅覚は極めて鋭い。たとえ聖水で身を清めたとしても、体がフェロモンを放っている限り、彼らの鼻を欺くことはできない。

部外者として、彼らはとうの昔にある「事実」に気づいていた。

だが……今この瞬間、その秘密は墓まで持っていくべきだと確信した。

(……ええい、死んでも口にできるか! 特に……)


一同の視線が集中し、ブレクスは顔を引きつらせた。彼は無言で「俺は絶対に喋らない、安心しろ」と視線で返し、周囲を納得させた。

彼が本当に約束を守れることを祈るばかりである。



「……俺を避けているのか?」


黄昏時、背後から声をかけられ、セイランは振り返った。主が誰かは分かっている。

「……そんなことはないわ」

「嘘だ! 食堂にも来ないし、メッセージの返信もない。明らかに避けてるじゃないか!」

「自意識過剰よ。あなたを避けてどうするっていうの?」


セイランは鼻で笑い、冷ややかな視線を送った。

タン・ピンは、そんな彼女の姿を初めて見た。まるで別人のように遠く感じる。

「やめてくれ。俺は怖いんだ……。俺が何か悪いことをしたか? それとも、俺が乱暴すぎて君を傷つけたのか?」


沈黙を守り続けるセイランに対し、タン・ピンも感情を昂ぶらせた。

「何か言ってくれ! 一体何を恐れているんだ……!」


その時、ついにセイランが爆発した。

「はっきり言わなきゃ分からないの!? いいわ、教えてあげる!」


彼女は立ち上がり、タン・ピンを突き飛ばした。その瞳からは、ついに涙が溢れ出した。

「怖いのは、あなたが私と『ただの知り合い』のフリをすることよ!」

「怖いのは、あなたが私をただの『道具』として扱い、私一人だけがこれを愛だと思い込んでいることよ!」

「そして……本当に怖いのは……タノシが私たちのことに気づいたら……あの子が……あの子があなたを殺してしまうことよ!」


セイランは鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにして泣き叫んだ。

それだけは、どうしても避けたかった。

だが、事態を飲み込めていないタン・ピンは、なおも彼女を宥めようとした。

「考えすぎじゃないか? もしかしたら、そんなことには……」


「私はあの子と千年以上一緒にいるのよ! あなたがあの子の何を分かっているっていうの!?」

「あの子は執念深いのよ。裏切りは絶対に許さない。相手が婚約者だろうが親友だろうが関係ないわ!」

「……でも、タノシ様が俺みたいな人間に本気になるとは……」


タン・ピンは本心からそう思っていた。

セイランが自分に寄せる想いは、紛れもない愛だと感じていた。だが、タノシからそのような感情を向けられたことは一度もない。


「あの子は普段大雑把に見えるけれど、本当は誰よりも繊細なの。一度決めたことは何があってもやり遂げる。そして、あなたこそがあの子の人生の転換点なのよ。だからこそ、あんな契約を結んだの……」

「……」

「私は、こんな風にコソコソ付き合いたくない。惨めすぎるわ……」


この数日間の甘い時間を思い出す。一秒たりとも離れたくないほど愛し合った。

それなのにタノシが戻れば、自分は何事もなかったかのように、愛する男が他の女と戯れるのを黙って見ていなければならない。

(なぜこれほど卑屈に生きなければならないのか。あの子が恩人だから? 私はただの使い走りだから?)


「なら、俺がタノシ様に話すよ。君と一緒にいたいと認めてもらう!」

タン・ピンの決意を、セイランは即座に否定した。

「そんなの、あの子の顔に泥を塗るようなものじゃない! 婚約者と親友が寝ていました、なんて報告をあの子が許すと思う? タノシはそんな寛大な女じゃないわよ!」


「じゃあ……どうすればいいんだ……」

タン・ピンは力なく両手を広げた。

セイランは深く息を吸い、静かに告げた。

「別れましょう。あの子が戻る前に、お互い冷静になるの。そうすれば……たぶん、私は耐えられる」


「どうして急にそんなことを……。君は、後悔しているのか?」

彼女の冷たさに、タン・ピンの心は凍りついた。

「後悔なんてしていない、絶対に! あの夜の勇気は、人生で最も正しい決断だったと今でも思っているわ。でも……」


セイランは再び深く呼吸し、荒れ狂う感情を押し殺した。

再び目を開いた時、その瞳には覚悟が宿っていた。

「……私たちは、これ以上続けてはいけないのよ」

「……分かった。それがいいのかもしれないな」

タン・ピンは項垂れた。もはや、抗う術はなかった。



二人は食堂に戻り、静かに夕食を摂った。メニューはありふれたカレーライスだ。

だが、流れる空気は耐えがたいほど重い。

ステンレスのスプーンが陶器の皿に当たる音が、静寂の中で鋭く響く。

咀嚼の音さえ耳障りに感じるほどだった。

料理は熱気を上げているが、二人の間の空気は凍りついていた。


食事が終わり、セイランが立ち去ろうとした時――。

「……もう少しだけ待ってくれ。まだパソコンの使い方を教えていない」

タン・ピンは私情を挟まない、事務的な声で言った。

「……ええ」

それは仕事だった。セイランは応じた。


「これが電源ボタンだ。押せば起動する……」

「……はい」

「それから、ここに内容を入力して……そうすれば……」

「……分かりました」


タン・ピンは淡々と、パソコンの操作を教え始めた。

以前のように手を出し、彼女の体を弄るような真似は一切しなかった。

時間は巻き戻された。出会ったばかりの、事務的な二人のように。

タン・ピンは饒舌に、そして真面目に仕事をこなし、セイランは冷静にそれに応える。

指示は完璧に遂行され、彼女は最も優秀な助手であり続けた。

だが、それはすべて偽りだ。

表面上は穏やかに見えても、彼女の内側は激しく動揺していた。

(彼がこれほど無情になれるなんて……胸が、痛くて堪らない……)

タノシへの恐怖さえ上回るほどの、絞り出されるような心痛。

失恋の酸っぱさと苦み。それを彼女は今、初めて味わっていた。


深夜。

セイランは混乱の中でも、学ぶことを止めなかった。

パソコンだけでなく、コピー機、炊飯器、オーブン。あらゆる電化製品の使い方を叩き込んだ。

「今日はここまでにしよう」とタン・ピンが告げ、授業は終わった。


二人はホテルへと戻る。手も繋がず、抱き合うこともなく、会話さえなかった。

タン・ピンの部屋の前まで、静かに歩いた。

セイランの部屋は下の階だ。だが、彼女はエレベーターのボタンを押さず、彼の背中に付き従った。

(もう行かなくちゃ。分かっているのに……)


タン・ピンが鍵を開けた瞬間、セイランは背を向けた。

その時だった。

「……一度だけでいい。……じゃないと、俺、明日から……」


その一言が、最後の堰を崩した。

セイランは我慢できず、彼に向かって駆け出した。襟首を掴み、ドアに押し付けて口づける。

これが最後だ。

本当に、これが最後。

馬車がカボチャに戻る前に、夢から覚めたくはなかった。


「あなた……私だけのあなた! 愛して!」


彼女は愛する男の首筋に食らいつき、狂ったように衣類を引き裂いた。

タン・ピンもまた、彼女に応えた。

接吻は激しさを増し、衣服は床に散らばっていく。

やがて二人は原始の姿に戻り、互いの体を貪り、愛を謳歌し、一つに溶け合った。


「愛してる!」

「私もよ!」

「離さないでくれ!」

「離さないわ! ずっと一緒よ!」


甘い言葉に、セイランの目から喜びの涙が溢れた。

大丈夫、すべては制御できている。

タノシは知らない。

あと一度だけ。

明日……明日になれば私は……!


その時だった。


**――パリンッ!!**


バルコニーへと続くガラスが、凄まじい音を立てて砕け散った。

漆黒の夜空を背に、銀髪の悪魔が、そこに立っていた。

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