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第10話-地下恋愛

「青龍様こそ、我らの英雄だ……」

「青龍様がいなければ、我ら海皇蛇カイオウジャ一族は、とっくに他種族に滅ぼされていたはずだ……」

「おじいちゃん、本当に異世界から来たの?」

「セイラン、亜青龍一族の未来のために、お前はすべてを捧げなければならない……」


「嫌だ!」


セイランは大声を上げ、夢から飛び起きた。

その勢いに、隣で寝ていたタン・ピンも驚いて目を覚ます。


「な、なんだ……!? どうしたんだ?!」


二人は見つめ合い、お互いに服を着ていないことに気づくと、同時に顔を真っ赤にした。

セイランは慌てて毛布で胸元を隠し、顔をりんごのように赤く染めている。

一方、タン・ピンは黙って視線を逸らし、窓の外を眺めた。


「…………」

「…………」


気まずい沈黙が部屋に広がっていく。

タン・ピンが「何か理由をつけてここを離れるべきか」と考えていたその時、セイランが口を開いた。


「外に何があるっていうのよ。私より見る価値があるわけ?」

「いや、そんなんじゃなくて、ただ……」

「ただ何? 昨夜はあんなにひどいことをしておいて、今は知らんぷりして責任逃れするつもり?」

「そんなわけないだろ!」


タン・ピンが慌てて振り返り否定すると、そこには再び露わになった彼女の姿があった。

起伏に富んだその完璧なプロポーションは、朝の目覚めたばかりのタン・ピンにとって、あまりにも刺激が強すぎた。


彼の身体の一部が、抗いようもなく反応を示す。

そしてその変化は、同じベッドにいるセイランの目にすぐさま留まった。



「いや、これは、その……」

「言わなくていいわ。私に任せて」


玉のように白く美しい両腕がタン・ピンの首に回され、彼女の身体が正面からのしかかってきた。

エメラルドグリーンの髪がこぼれ落ち、窓からの光を遮る。


タン・ピンは、相手の吐息が自分の顔にかかるのをはっきりと感じた。

おそらく彼女も同じことを感じているはずだ。

人間の呼吸の音は、こんなにも大きかっただろうか……。


いい香りがする……。

それに……なんて柔らかいんだ。


胸元に押し付けられる二つの大きな圧迫感を感じながらも、彼は不快感どころか、心地よさに包まれていた。


「あぁ……っ!」


タン・ピンは思わず声を漏らした。

抗えるはずもなかった。

快感が胸から脳へと突き抜け、ドーパミンが猛烈に分泌される。


緑の髪の龍姫もまた、顔を上気させていた。

(あぁ、恥ずかしい……っ! 朝っぱらから私、何をやってるのよ!)

(でも、彼……嬉しそう。だったら……私も……)


「……もう一回、いい?」


ドタドタドタ!

廊下を必死に走る二人の影があった。

非常に急いでいる様子で、走りながら服のボタンを留めている。

一人が何度も後ろを振り返っては相手を睨みつけ、後ろの男は申し訳なさそうな顔を浮かべている。


「全部あんたのせいよ! タノシ様に叱られたらどうするの!」

「俺のせいにするなよ! 君だって、まだしたいって言ってたじゃないか」

「まだ言う!? よくも言ったわね! 言わせておけば……っ!」


セイランは走るのをやめ、タン・ピンの前に立ちはだかると、小さな拳でポカポカと彼の体を叩き始めた。

その弱々しい攻撃は、怒りをぶつけているというより、甘えているようにしか見えない。


タン・ピンは呆れたように目を白黒させた。

(はは、数日前までは来月の家賃を心配していたっていうのに、今は龍の娘と責任問題について言い争ってるなんてな……)


人生、何が起こるか分からない。

タン・ピンは苦笑いすると、これ以上騒がせないよう、彼女の手首を掴んで強引に食堂へと引っ張っていった。

緑髪の龍姫は一瞬呆気に取られたが、彼の背中を見つめ、口元に微かな笑みを浮かべた。



ようやく現場に辿り着いたものの、そこには人っ子一人いなかった。


「嘘だろ? 一時間以上は遅刻したはずなのに、誰もいないのか?」


タン・ピンはポケットからスマホを取り出し、時間を確認した。午前10時17分。

(まさか、みんなもう朝食を食べ終わったのか?)

(いや、それもおかしな話だ。俺以外にオーブンや電子レンジを使いこなせる奴なんていないはず。それに、使い方が分かったとしても、食材がどこにあるか知らないはずだしな……)


「あぁ……アルファがいないと本当に不便だ」


タン・ピンは思わず溜息をついた。

昨夜、アルファにアラームをセットさせるつもりだったが、今朝になって思い出した。この島の情報がテック企業や各国政府に漏れるのを防ぐため、島に到着した日にアルファの機能をオフにしていたのだ。

つまり、昨夜の命令はスマホに届いておらず、手動でアラームをかける必要があったのだ。


ザパーーーッ!

外から大きな水音が聞こえてきた。

あの方向は……プールか?


「お早いお着きですね、忠実なる下僕よ」


パチン!

風もないのにガラスの扉が左右に開き、タノシがあくびをしながら、ゆったりと二人の方へ歩いてきた。

同時に、周囲の廊下からも魔狼まろう一族の姿が現れ始めた。


遅刻していなかったことにタン・ピンは安堵したが、それにしても彼らはどうしたというのか。

申し合わせたように一斉に出勤してきたのか?


「タノシ様の匂いを嗅ぎつけて集まってきたのよ」


セイランがタン・ピンの耳元でそっと囁き、彼はようやく合点がいった。

つまり、ブレノたちはとっくに起きていたのだ。

だが食堂に誰もいなかったため、仕方なく近くの廊下で寝ながら、タノシや他の誰かが来るのを待っていたのだろう。


タン・ピンは少し言葉を失った。

彼はブレノに、寝るならなぜ食堂の中で寝なかったのか、そうすれば誰か来たとすぐに分かったはずだと尋ねた。


「中の方は匂いが強烈すぎて……あそこにいたら、余計にお腹が空いてしまうんです」


魔狼三兄弟の長男、ブロードが申し訳なさそうに答えた。

後ろに控える魔狼族たちも、一斉にコクコクと頷く。

その時、外から別の影が飛び込んできて、タノシの懐に飛び込んだ。


「お兄ちゃんたち、遅いよ! 僕はもう外を三周も飛んできたんだから!」


少年ヘリオスが、ぷんぷんと怒りながらタン・ピンに文句を言った。

どうやら彼が一番乗りだったようだが、いくら待っても誰も来ないので、相当ご立腹のようだ。


「ヘリオスは怒ったぞ! おやつはプリン三つ食べるんだから!」


全員が揃ったのを確認し、タン・ピンはみんなを中へと促した。

さて、メニューは何にするか……。

「冷凍ピザとコーンポタージュにしよう!」



午後。TOSTTOの会議室には、各部族の代表が集まっていた。


「島の視察、だと?」

「はい。タノシ様はこの島が変わりつつあるとおっしゃいましたし、私も神の偉大なる力を信じております。ですが、各地に人員を派遣し、データを記録しておく必要があります」


タン・ピンはテーブルの上のジオラマ模型を見つめながら、向かい側に座るタノシへと言葉を向けた。


「具体的に言えば三点だ。写真を撮り、測量し、それを記録する。それだけだよ」


タン・ピンはテーブルの下から段ボール箱を取り出した。中には十数台の軍用級スマートフォンと、四、五台のアクションカメラ、そしてフル充電されたモバイルバッテリーが山ほど入っている。


「このデバイスを使って、海岸線や絶壁、崖、河川などの景観を撮影してほしい。泥土や淡水をひと掬いした写真でも構わない。とにかく、膨大なデータが必要なんだ」

「えっ? 私が行くのか?」


タノシは目を丸くした。自分の下僕が自分に命令を下すなど、信じられないといった様子だ。


「俺だって自分で行きたいのは山々だが、俺が行ったら企画書を書き上げる人間がいなくなる」


タン・ピンは肩をすくめて言った。

タノシが召喚したショッピングモールやホテルでは、なぜか電気、水道、ネットが不思議と使えるようになっている。

(タン・ピンが尋ねても、彼女は適当にはぐらかすばかりだったが。)


しかし、企画書を書くのも、資料を調べるのも、結局は自分の手で行わなければならない。今となっては、アルファが使えないことがこちらの最大の弱点となっていた。


「それに、残りの物資の棚卸しもしなきゃならない。雑用は山積みだ。俺がいなくなれば、代わりを務められる奴は一人もいないんだよ」


タン・ピンは頭を抱えた。

戦力として言えば、タノシたちは間違いなくトップクラスだ。

だが、文官は彼一人しかいない。大きな方針から日々の雑務まで、すべてを一人でこなさなければならないのだ。後方支援の要員を見つけるまでは、当分こんな生活が続くのだろう。


「なら、ブレノたちだけに行かせればいいじゃないか! なぜ私がわざわざ出向かねばならんのだ!」


タノシは不満そうに唇を尖らせた。


「彼らは電子機器の使い方が分からないだろ。忘れたのか?」

「それならセイランに……」


タノシが言いかけるのを遮るように、セイランが口を挟んだ。


「私はもっと多くのことを学びたいのです。いつかあなたの助けになれるように。だから……夫、いえ、旦那様だんなさまと話し合いました。まずは彼のそばでデバイスの操作を学びつつ、彼とこの拠点を守ることにします」

「なら私だって学ぶ必要がある! これは私の国なのだぞ!」


タノシは理屈を並べて食い下がった。どうやら面倒な仕事はしたくないらしい。


「……昨日の会議で、お前が何度寝落ちしたか忘れたのか?」


タン・ピンがすかさずツッコミを入れる。

タノシは二の句が継げなくなった。

昨日の様子を見て、タン・ピンも周囲の者も確信したことが一つある。

タノシは「結果」だけを欲しがり、「過程」や「実行」にはこれっぽっちも興味がないということだ。さもなければ、昨日あんなによだれを垂らして寝るはずがない。


「それに……自分の手で創り上げる新しい国を、その目で見たくはないのか? ここは将来お前の領土となり、新しい宗教が根を下ろす場所だ。偉大な歴史の原点はここから始まるんだぞ! その目撃者になりたくないのか?」


タン・ピンの情熱的な演説を聞き、タノシの内に奇妙な感情が湧き上がった。

これは、自分の実力が突破することを知った喜びだろうか?

……いや、これは未知を探索する興奮だ。

こんな感覚、ずいぶん長いこと忘れていた。


タノシはやる気になってきた。しかし……何かがおかしい。

確かに、彼女が隊を率いて島を視察するのが最も効率的だ。下僕やセイランの言うことも筋が通っている。

だが、拭いきれない違和感がある……。

何だろうか? 何か重要なことを見落としている気がする。


「これは、私の体内の大部分の魔力です。あなたの体の回復に役立つはずです」


セイランの声がタノシの思考を遮った。

彼女は拳ほどの大きさの水晶を、タノシの前に差し出した。

その手はかすかに震えていたが、水晶に目を奪われているタノシは気づかないようだった。


(よし! 神術で召喚した聖水で体は清めたわ。匂いは全く残っていないはず。彼女にはバレない……!)


「?」


その水晶は朝日を浴びた金色のようで、内部には炎のような光がゆらめき、表面には微かな黒い紋様が走っていた。


「魔力水晶か。自分の魔力をすべて注ぎ込んだのか?」


タノシは少し意外そうに水晶を受け取った。その中の魔力量を推し量ってみると……。


「!」


タノシの瞳が瞬時に見開かれ、心臓が跳ねた。

とんでもない量だ。しかも極めて純度が高い。セイランの体内の95%以上の魔力が、ここには込められている。

これほどの魔力を譲渡すれば、彼女が回復するまでに少なくとも半年はかかるだろう。

その間、彼女は真の姿に戻ることも、高度な神術を使うこともできなくなる。


そんな大切なものを、こうもあっさりと自分に……。

親友であり部下である彼女が、これほどまでに自分を想ってくれている。邪神であるタノシの心にも、熱いものが込み上げた。

彼女は水晶を強く握りしめ、強い眼差しを向けた。


「お前の覚悟、確かに受け取ったぞ! セイラン、お前がいてくれて本当に良かった!」


タノシの真摯な言葉に、セイランの胸にちくりとした痛みが走った。

長い付き合いだが、こんな風に感謝されたのは初めてだった。それなのに、自分は……。


「……ええ」

「?」


セイランの表情がどこか強張っているように見えた。魔力不足による後遺症だろうか。

タノシは少し胸を痛めたが、彼女の厚意を無駄にしまいと、その場で水晶を握り潰した。

精純で強大な魔力が、タノシの全身を包み込む。

瞬く間に、タノシはロリ体型から本来の大人の姿へと戻っていった。


「ああ、やっぱり本来の体はいいものだな……」


タノシは拳を握り、満足げに微笑んだ。


「写真と動画以外に、ここからの距離も大まかに計算しておいてくれ。正確じゃなくていい、魔狼族の足で何日かかるか換算するだけで十分だ」

「それと、何か問題が起きたらメッセージを送ってくれ。ただし、写真や動画はネットにアップしちゃダメだ。テック企業に嗅ぎつけられるのが怖いからな」

「分かった、任せておけ!」


こうして、タノシは凍土魔狼一族と、お出かけに大はしゃぎのヘリオスを引き連れ、旅へと出発した。

島はまだ完全体ではないとはいえ、その面積はすでに小大陸と呼べるほど広大だ。


タン・ピンの予測では、今回の視察には七、八日はかかるはずだった。

荒れ果てた島だ。記録すべきものも少なく、すぐに戻ってくるだろうと考えていたが、タノシたちが寝坊助であることや、電子機器に不慣れであることを考慮し、余裕を持ってこう伝えた。

「十数日くらい見ておけばいい。大事なのは全員無事で、データを持ち帰ることだ。無理はするなよ」


しかしタノシは手を振り、自信満々に言い放った。

「七日もあれば十分だ。お前は祝宴の準備でもして待っていろ!」


タン・ピンは呆れつつも、隊の中で比較的落ち着いているブレノとブロードに注意事項を叩き込み、十分な食料と水を持たせて送り出した。


ホテルの入り口で、セイランと共に一行を見送る。彼らの背中が地平線の彼方へ消えたその時、タン・ピンは腰を抱きしめられるのを感じた。


「これで、ようやく二人きりですね……旦那様」

「ああ」


タン・ピンは身を翻すと、その国色天香こくしょくてんこうの美女を腕の中に引き寄せた。

そして、二人は共に暗い部屋の奥へと消えていった。


夜は、まだ長い。



その頃、ホテルから三十キロほど離れた海岸。

野営の準備をしていたタノシは、ふと心臓が跳ねるのを感じた。


「!」


(私が張った水神の結界を、何かが通り抜けた……?)


一体何が。

タノシは遠くを見つめた。

その方角は、下僕とセイランがいる場所だ。


くじら……か?」

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