幼馴染は外じゃ完璧なのに家だとぐーたらなので、お世話しないといけません 【短編】
「桜の花が咲き始め、温かい日差しが降り注ぐようになりました。新入生の皆さん。この度はご入学おめでとうございますーー」
新入生が入っての、初めての全校集会。
その壇上には、学校一の美少女の生徒会長『相沢 葵』の姿があった。
彼女は、ただ可愛いだけで無く、常に学年トップの頭の良さに、体育祭でのリレーのアンカーを務めるほどの運動神経も持ち合わせている。
まさに完璧を体現したかのような人だ。
その人気は凄まじく、毎日男女問わず3人以上から告白を受けているらしい。
しかし、今まで誰とも付き合ったことは無いという。
「ーー以上をもって、私からの式辞とさせて頂きます。第38代生徒会長、相沢葵。」
そう締めくくると、生徒から拍手喝采と共に、歓声が湧き起こった。
「葵さま〜〜!今日も美しい〜!!」
「葵さま!こっち向いて〜〜!!」
「きゃ〜〜〜〜〜!!」
まるで何かのアイドルの様である。新入生たちが可哀想だ。
壇上の葵は、少し困った顔をしながら、こちらの方に手を振って、階段を降りた。
***
「なぁ、颯太。相沢葵の噂、知ってるか?」
昼休み、親友の優斗がお弁当を食べながら言った。
「ん? また何かあったのか?」
「それが、あいつ瀧川に告白されて、それを断ったらしいんだよ」
瀧川とは、この学校で一番のイケメンで、モデルなんかもやってる超高身長だ。
「うわぁ……マジかよ、そもそも誰とも付き合う気なんかないんじゃ無いのか?」
「それが、断り方は毎回、『好きな人がいるので、ごめんなさい!』らしいぜ」
「そういう決まり文句なんじゃ無いのか?」
「まぁ、俺もそうだとは思うがな! まぁ、あんな高音の花目指さずに、俺らは中堅所で彼女作ろうぜ」
俺は、優斗がどこかスカした表情をしているのに、少し腹を立てた。
「お前、中堅も何も、彼女出来たことないだろ……」
「うるせぇ!そう言うお前は出来たことあるのかよ!!」
「な、ないけど……」
「じゃあ、どっちが先に彼女出来るの競争な!!」
「そんな、俺に彼女なんて出来るわけねぇよ」
「そんなこと言ってると高校生活なんてすぐ終わっちまうぜ!!」
「はいはい、分かったよ」
そんな下らない会話をしていると、いつの間にか次の授業の鐘が鳴っており、俺たちは急いで席に着くのだった。
***
俺が学校が終わり帰るのは、自分の家……ではなく、隣の相沢葵の家であった。
俺と葵とは、家が隣同士の幼馴染で、幼稚園生の頃から毎日遊ぶ仲である。
高校に上がる頃、葵の両親が引っ越すこととなったが、葵はそのまま一人暮らしを始めている。
葵の両親に、『葵、一人だと寂しいと思うからよろしくね!』と言われたので、学校終わりに遊びに行っていたのが、いつの間にか日課となっていたのだ。
「お〜い、葵!入るぞ〜」
そう言って、周りに誰も居ないことを確認した後、合鍵を使って家に入る。
学校では、俺と葵との関係を隠している。もしこの関係がバレたら学校生活の危機である。
家に入り、リビングのドアを開けると、そこには、テレビを見ながら、ポテチとコーラを広げる葵の姿があった。
「おぉ〜颯太!おつかれ〜」
「はぁ……葵は相変わらずだな……学校だとあんなにしっかりしてるのに……」
「あんなこと、ずっとやってたら疲れちゃうに決まってるでしょ〜!息抜きも必要なの!」
そう言った後、葵は、パーティー開きにしたポテチを豪快に掴み、口の中に詰め込み、それをコーラで流し込んだ。
「本当に、あの生徒会長さまと、同一人物なのかねぇ……?」
俺は、そう冗談を言いつつ、ソファーに腰掛ける。
「颯太!ひどーい!!私、一生懸命頑張ったのに!ご褒美ちょうだい!」
「はいはい、お疲れ様」
そして、俺は葵の頭を撫でる。
「ふへへ〜、頭撫でられちゃった〜!頑張ってよかった〜」
葵は至極幸せそうな表情をしていた。
そして、俺は立ち上がり、のんびりと休んでいる葵を横目に、部屋の掃除を始める。
一人暮らしで、大きな家を持つと、やはり掃除や何やと家事が大変らしく、俺が手伝うことになっているのだ。
その代わりに、試験前などに、勉強を教えてもらったりしている。WinWinの関係だ。
「颯太〜いつもありがとね〜!すっごい助かる〜」
「はぁ……別に葵がやってもいいんだぞ?」
「意地悪言わないで!颯太がいないと、私死んじゃう!」
葵は、深刻な表情で、こちらも見つめてくる。
「はいはい、分かりましたよ」
「やった〜颯太さまさまだよ〜!」
そう言って、葵は幸せそうにテレビを見始めた。
この顔が観れるのは俺だけの特権だと思うと、少し嬉しくなる。
***
掃除や、風呂洗いなどのいつもの家事を終えて、再度ソファーに腰掛ける。
「葵、全部終わったぞ〜 テキトーだけどな」
「お、早いね!お疲れ様!ありがとね!」
「いえいえ、じゃあ俺はそろそろ帰ろうかな」
時計は18時を回っていた。
「え〜帰っちゃうの……そうだ!今日はご飯食べていきなよ!私作るから!」
「お、いいのか、だったらお言葉に甘えさせてもらいますわ!」
今日は母さんが帰って来るのが遅いため、晩ご飯をどうするか悩んでいた。葵が作ってくれると言うなら、とても助かる。
「じゃあ、ちゃちゃっと作っちゃうから!ちょっと待ってて〜!」
そう言って、葵は元気にキッチンへと駆けていった。
しばらくして、運ばれてきたのはトマトソースのパスタだった。
葵は、席に着くと俺の反応が気になるのか、じっとこちらを緊張した面持ちで見てくる。
フォークにパスタを巻きつけ、口に運ぶ。
ほどよく酸味があり、甘みと旨味がバランスよく調和した味わいに感動し
「うん!めちゃくちゃ美味しいよ!」
と言うと、葵の顔がパッと明るくなり、振り子のように、嬉しそうに横に振れている。
俺はちょっと気恥ずかしくなり、黙々とパスタを食べ進める。
パスタはとても甘酸っぱく感じた。
「ねぇねぇ!颯太!今日はウチに泊まって行かない?」
「何でだよ、家すぐ隣なんだから意味ないだろ。」
「えぇ〜、一人だと寂しいんだもん!お願い!!」
葵は、小動物のようなつぶらな瞳でこちらを見つめて来る。
「はぁ……分かったよ、後で着替えとか取りに行くな」
「わ〜い!!やったぁ〜!!久々のお泊まり会だ〜!!」
「ふっ、お泊まり会って何だか可愛いな」
と言うと、、葵は頬を薄い赤に染めていた。
***
お互いにご飯を食べ終えて、葵がお風呂に入ったところで、俺は自分の家に着替えを取りに戻った。
すでに帰宅していた母さんに、お泊まりのことを伝えると、母さんは、「間違えのないようにね!」とだけ言って、見送ってくれた。
余計なお世話だ。
そもそも、俺と葵はただの幼馴染で、ただの友達なのだから、間違えなど起こるわけもないのに。
***
葵の家に戻ると、葵はちょうどお風呂から上がったところだった。
「あ、颯太〜お帰り〜」
「あれ?もう上がったのか?」
「ふへへ、お泊まり会のこと楽しみで、すぐに上がっちゃった!」
「お、おうそうか……」
葵のパジャマ姿は、子供の頃に何度も見ているものの、色々と大きくなったその姿を見るのは、初めてだったので、ドギドキしてしまう。
「あっれー?颯太さん、もしかして、私のパジャマ姿にドキドキしてる〜?」
葵は、お泊まり会が楽しみで、すでに深夜テンションのようになっていた。
「そ、そんなわけねぇだろ!!お風呂入ってくる!!」
「は〜い、いってらっしゃい〜」
***
半分のぼせたような状態で、お風呂から上がると、葵はソファーの上でアイスを食べていた。
「ほうた〜ふぇにゃふぇしょふんふにゃた〜」
「食べ終わってから、言いなさい!」
「颯太〜、そろそろ眠くなってきちゃった〜」
「そっか、今日は、新入生挨拶とか忙しかったもんな、さて、俺もそろそろ寝ようかな……」
そして歯磨きを済ませ、俺らは葵の部屋へと向かった。
葵の部屋といっても、一人暮らしとなった今ではただの寝室となっているが。
そこには、葵のベッドの隣に、布団が敷いてあった。
俺がお風呂に入ってる間に、敷いてくれたのだろう。
俺らは各々横になり、部屋は薄暗くなった。
「ねぇ颯太」
「ん?どした?」
「颯太ってさ、好きな人とかいるの?」
「な!急にどうしたんだよ!!!」
「いや、お泊まり会といえば恋バナじゃんか」
「それは女子だけだろ……」
「そんなことはさておき、ねね、実際どうなの?」
「いや……俺はいないかな…… そういうお前はどうなんだよ、すごい告白されてるって噂じゃんか」
「颯太ったら、そんな噂信じちゃって!…………まぁ大体はほんとなんだけどね……」
「お、おう、そうか……」
「私、学校だとめちゃくちゃ優等生だからモテるんだよねぇ〜颯太さんと違って」
「お、俺と比較する必要ないだろ!」
「ふふっ、でも私、好きな人がいるから、告白ぜーんぶ断ってるんだ」
俺は葵に好きな人がいると言う事実に、何故か胸が痛くなる。
「そ、そうなのか……ちなみに誰なのか?」
「うーん、そうだなぁ……」
葵は、少し考えて言った。
「私の良くないところまで、全部知った上で、私を受け止めてくれる人かな」
「そ、そうか……」
俺は、何だか心にポッカリと穴が空いたような気分になっていた。
「あぁ〜もう!!!颯太のその自己肯定感の無さは何とかした方が良いよ!!」
「ふぇ?」
「私の良くないとこ知ってる人なんて、颯太しかいないでしょ!!」
葵は、薄暗い部屋の中でも分かるぐらい、頬を真っ赤に染め上げて言った。
「え、ちょ、え、どういう……」
「じゃあね!!おやすみ!!!!!」
そして葵は、すぐに布団をかぶってしまった。
俺は、寝ようとするものの、さっきの言葉にドキドキが止まらなくなり、中々寝付くことが出来なかった。
***
明け方、ガラガラと窓を開ける音で、目を覚ました。
ふと、ベランダに目をやると、外では葵が空を眺めていた。
俺は、布団から出て、葵のそばへと向かった。
「おはよう、葵」
と声をかけると、葵は、とてもびっくりした様子だった。
「あ!ごめんね、颯太……起こしちゃった?」
「いやいや、大丈夫だよ」
「そっか、私全然寝付けなくて……」
明け方独特の雰囲気を住宅街が包み込んでいた。
「俺、葵のことがずっと好きだったんだよ」
間髪入れずに続ける。
「中学生の頃から、葵のことが好きで……でも葵は学校じゃ完璧に振る舞うから、俺には手が届かないんだと思い始めて……」
葵は、すでに泣きそうな表情をしている。
「でも、葵は、ずっと葵だったんだよ……最近気付いたんだ。だから……その……何というか……」
大きく息を吸い込んで、自分の気持ちを正直に言う。
「俺と、付き合ってください!!!」
「ふふっ、喜んで! 私には颯太が必要だからね!」
葵は、満面の笑みで答えた。
俺はその笑顔を一生忘れることはないだろう。
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