人を喰う②
「だめだよ、だって……ここに神さまなんていないもの。お百度踏んでも、お金を入れても、ここには神さまがいないから、おねえさんの願いはきいてもらえないよ。残念だけど」
彼女は眉をひそめ、はぁと息を吐いた。
「そんな、なんてことを言うの!! ここは神社でしょ!! たまにテレビや雑誌で紹介されるくらい立派な神社よ!! 神さまがいないはずないじゃない!! うぅ、うっうっ……」
涙と鼻水を垂れ流す私は叫び、彼女をにらみつけた。
子供にまでバカにされるのか、私は……
「泣かないでおねえさん。でも彼女の言うことは本当だよ。神さまは出ていってしまったんだよ。ずっと前に……考えてもごらんよ。神さまがここにいたとして、スリッパでこんなに気持ちのいい遊びを僕らが毎日できると思うかい? 僕らの存在を神さまが許すと思うかい?」
背後に立つ少年は私の肩にそっと手を置き触れる。
「うぅ……うっ、うっ……じゃあ私はどうしたらいいの? どうすればよかったの? どうしたら私の願いは叶う? どうしたら……ううぅう、ああぁああぁ!!!」
他の寺や神社に参れば私は救われるのだろうか……?
「おねえさん、かわいそうだから……特別だよ」
彼女は立ち上がると着ている制服の胸ポケットから、アルミ箔を畳んだような銀紙を取り出した。そして百円玉の山をちらっと見やる。
「おねえさんの百円玉全部と、これを交換してあげる。これを使えばきっと、おねえさんの願いは叶えられると思うよ」
「なによ、それ……」
言いながら私は手を差し出していた。彼女はそれを、そっと置いた。
ちょうど私の手の平と同じくらいの大きさ。
「神さまは願いなんてきいてくれないから、出来ることは自分でやらないと。でも私たちがこうして出会えたのも何かの御縁……奇跡だよ。神さまの代わりに私たちが手伝ってあげる、ねぇー」
フフッと彼女は嫌な微笑みを浮かべ、少年と顔を見合わせた。
「おねえさん、僕からもあと一つ……願い事はね、具体的に想像しないといけないよ。相手がどんな風に不幸になるのか。どんな事故にあうのか、どんな事件にまきこまれるのか、どんな風に……ひどく苦しむのか。そのすべてを細かく正確に想像するんだ。引き寄せの法則だよ。そうやって自らの幸せを自分で引き寄せるんだ」
少年と少女はいつの間にか取り出したビニールの袋に百円玉を全て入れると手をつなぎ、歩いて行ってしまった。