人を喰う①
スパーン、パン……スパーン、パン……スパーン、スパーン、スパーン!!!
丑三つ時の静かな境内に鳴り響くスリッパの音を聞きながら、私はひとり行ったり来たりを繰り返していた。
神さま、どうか……どうか……どうか……
裸足の足の裏はときどき踏みつける小石がくい込み痛かったが、それも冷えと疲労でだんだんと感覚がなくなり今ではよくわからない。
始めはしんとした空気のつめたさに不安だった。それも走り続けるうち気にならなくなり、四十二往復めで着ていたダウンジャケットを脱ぎ捨てた。
はぁはぁはぁ……神さまどうか……どうか……どうか……
この日のために百円玉を百枚用意した。靴を置いたところに百枚置いて一枚握って走り、一枚ずつ置いていく。最後に賽銭箱へ全部入れようと思う。
か、神さま……はぁはぁ……どうか……どうか……
百円玉は最後の一枚になった。靴の横からすっかりかじかんだ人さし指と親指でつまみ上げ両手で握りしめると、おでこのところで念を込める。
神さま……どうか……神さま……!!
右手に持ちなおし、再びしっかり握りしめて私は何度もつぶやきながら走った。
百円玉の山の上に最後の一枚をのせる。チャリッとなって山はまたくずれた。
はぁはぁはぁはぁ……か、神さま、神さま……どうか、あいつが不幸になりますように、事故にあいますように、事件にまきこまれますように、死にかけるけど死なないで一生苦しみますように、死ぬときはひどく苦しみますように……いや、やっぱりひどくひどくひどく苦しんで一族全員根絶やしにしてください……神さま、どうか……
スパーン、パン……スパーン、パン……スパーン、スパーン……
先程までリズムよくなっていたスリッパの音が変に止む。
境内の脇で男の子が女の子にスリッパでずっとお尻をはたかれていた音だ。
大木に手をついていた男の子はときどき嬉しそうに声を上げていて、女の子の笑い声も混ざっていたが……
「おねえさんだめだよ、そんな……」
砂利を踏みながらスリッパを片手に女の子がやってきた。
「そうだよ、そんなんじゃ……」
女の子の後ろからやってくる男の子もズボンのチャックを上げ、ベルトをカチャカチャなおしながら言った。
「な、なによ!!」
子供になにがわかる! 説教なんてされたくない!!
疲れ果て座り込む私に、女の子はしゃがんで顔を近づけた。鼻のすぐ先でまっすぐ私を見すえる。